VDI製品の販促のためにスタートしたテレワーク

日商エレクトロニクスは、国内外のソリューション提供および、そのシステム構築や保守・運用といったサービスを提供する企業だ。同社は2005年にCitrixのMetaFlameを取り扱う事業の譲渡を受けたことから仮想デスクトップソリューションへの取り組みが始まった。

「2009年頃から、仮想デスクトップ、VDIの販売を強化しようということになり、2010年には在宅勤務で活用してみようという流れができました。トライアルの組織を作り、動きはじめたのが2014年~2015年です。当初はVDI製品の担当者やマーケティング部門など、20名程度でトライアルを行いました」と語るのは、日商エレクトロニクス コーポレート本部 人事総務部 部長の渡邉仁志氏だ。

  • 日商エレクトロニクス コーポレート本部 人事総務部 部長の渡邉仁志氏

現在、日商エレクトロニクスでは職種に関係なく、全社員が日数や時間の制限なくテレワークを利用できるようになっている。このしくみは、2018年に導入されたものだ。限られた人数でのトライアルから全社員を対象にするまでには、利用向上のための仕組みづくりと意識改革が必要だったという。

「元々はVDIを販売する上で、自分達も使ってみなければわからないという意識でした。他社と差別化するためにも、実際に使った立場で運用のノウハウ提供するという状態を作ろうとしたわけです。しかし、製品の販売のために利用するというだけでは、なかなか利用は広がりません。まずは制度とルールをつくる必要がありましたし、周囲の理解も必要でした」と渡邉氏は語る。

全社員、回数無制限に対象を拡大

トライアルは対象者を拡大する形で続けられ、2016年には全社員の1割が利用できるようになったという。その後、2017年には全社員が月4回までという回数制限つきで利用できるようになった。

「週に1回在宅勤務するというイメージでした。まず在宅でできる仕事は何かを考えるところからスタートしました。毎週特定の曜日を在宅勤務にすると決めて、在宅でできそうな仕事はその日に集中して行うようなやり方が多かったと思います」(渡邉氏)

当時は、テレワーク作業者は事前に定時の勤務時間である7.5時間でどれだけの仕事をするのかを申請し、作業終了後に成果報告を行っていた。そして、ここでの仕事量とクオリティというアウトプットで上長は評価を行っていた。

全社員を対象にテレワークを開始した2017年時点では、3日前までに上長に申請することというルールであったが、管理職を中心に在宅勤務に抵抗感を持つ人も多かったため、意識改革を促すとともに、管理職自らが体験する機会を設けたという。

「私たちは日常生活の中で、ネットショッピングや飲食店探しをする時に、レビューを参考に判断することがよくあります。しかし、仕事になると目の前で管理しないとわからないと感じてしまうのはおかしいことです。本来、評価はアウトプットで行うべきです。オフィスにいても、部下の画面をずっと見張っているわけではないので、テレワークでも同じだと思います。信頼が大事なわけです。そういった意識改革を行いながら、まずは管理職自身に体験してもらおうと強化月間を設けました」(渡邉氏)

それでも、テレワークに消極的な上司もおり、月4回までだった2017年は、全体で利用経験率は15-20%だったという。

社内グループアドレス化と合わせて働く場を固定しない意識と環境づくり

その後、2018年には月4回という回数制限を撤廃するとともに、事前申請も当日朝でOKにするなど利便性を向上させた。また、全社でeラーニングも展開し、在宅勤務は介護や子育てといった事情がある人だけが行うものではなく、通常の勤務形態の1つだと認識してもらえるように意識改革にも取り組んだ。

現在の運用ルールは、次のようになっているという。

「在宅勤務を希望する人は、まず上長に希望を出して承諾を得ます。そして年に1度、自宅のリビング、実家のリビングというような形で勤務地を登録してもらいます。これは労災対応のためで、複数勤務地も登録可能です。後は当日朝、『これだけの作業をやります』とメール連絡した上でテレワークするだけです。家事等で中断するのは問題ありませんが、それを含めて何時頃に終わりそうだという計画も朝のうちにします。終了後は、成果報告をするだけです」(渡邉氏)

トラブル対応等の緊急業務を除いて基本的に残業は行わないことになっているが、育児や介護をしながら業務を行えるようになり、働きやすい環境が作られた。結果として、全社員の6割が在宅勤務を体験したという。

「目の前に部下がいないことへの上長の不安は多少あるかもしれませんが、オフィス内もグループアドレス化したことで、目の前に部下がいないことに問題を感じなくなってきた部分はあると思います」と渡邉氏は笑う。

利用するPCは基本的に会社から支給されるノートPCを、外出時や帰宅時に持ち歩く運用となっている。他に、自宅のPCからのVDIも認められているため、災害等で突然出社できなくなった場合にも対応できるという。

また、作業場所の選択肢として大手3社と契約したサテライトオフィスも利用できる。

「サテライトオフィスは当初、営業などの隙間時間に活用するといった使い方でしたが、今では自宅では集中できない人が利用したり、朝だけ自宅近くのサテライトオフィスで働き、電車の空く時間に出勤するといった使い方をしている人もいます。中には人事考課など、自席ではやりづらい作業をサテライトオフィスで行う管理職もいます。全体的にテレワークの利用は伸びており、週に2-3回利用している人もいます。大型台風による被害があった時には、1カ月近く在宅勤務になった人もいました」(渡邉氏)

ペーパーレス化に注力しつつ利用率向上を目指す

テレワーク導入の目的は生産性向上だが、子育てや介護離職を防ぐという福利厚生の側面もある。しかし、生産性向上という目的も十分達成できそうだという。

「社員のアンケートでは7割が在宅勤務で作業効率が向上したと答えており、残る3割も変わらないという回答でした。つまり、生産性は低下していないわけです。通勤での疲れがない分、長期的に見れば健康に働けるという効果も出るのではないでしょうか」と渡邉氏はテレワーク制度の効果を語る。

制度上は出勤しなければならない日はないが、紙を利用する業務は、どうしてもオフィスに出勤しなければならない。

「見積・請求業務の印鑑や、基幹システムで行う伝票系業務が残っています。社員からも紙に印鑑をもらうのは大変だという声がありますし、紙資料しかない場合には、オフィスにいる人間がスキャンしてデータ化した上でテレワークしている社員にメールで送信するなど、他の社員の手間もかかります。ペーパーレスを目指そうということで、まずは経費精算等で一部残っていた紙を今期は減らしました」(渡邉氏)

他にも月内の忙しい時期等を考慮した勤務を認めることや、朝から夕方という時間を基本とせず生産性の高い時間に働くことを認めるなど、さらに働き方の柔軟性を高める制度も計画している。

今後の展開について渡邉氏は、「仕事の内容的にテレワークには向かない部署もあるので100%は目指せませんが、まだ1度もテレワークを使っていない4割の人にも、1度は使ってみてもらいたいと思っています。2020年には強化月間を設ける予定ですし、オリンピック開催中は強制的に出勤を抑制するような取り組みもしようと考えています」と、さらなる利用拡大を目指すと語った。