森崎ウィンが主演を務め、映画『淵に立つ』の深田晃司監督が初の連ドラに挑んだ『本気のしるし』(メ~テレ制作)が12月17日に最終回を迎えた。地上波は東海3県とテレビ神奈川のみだが10月の放送開始直後からネット上で話題を呼び、未だに“本気のしるし沼”から抜け出せない視聴者もいる状況だ(12月24日1時26分までTVer・GYAO!で全話視聴可能)。
会社員の主人公・辻一路(森崎)は、虚無感をかかえながら「心ここにあらず」な雰囲気が漂い、職場の先輩と後輩を二股にかけるクズ男。そこに謎の女・葉山浮世が現れ、奈落の底へと引き込まれていく――。周囲の男を次々と不幸へと追いやる浮世が「悪女」と言い難いのは、本人に悪気がなく、「無意識」であるため。事あるごとに身を縮めながら「すみません……」と繰り返し謝罪する姿に、対面した男はそれ以上責められなくなり、気づけば地獄の淵に立たされてしまうのだ。
星里もちる氏の同名漫画を原作に「愚かな男女の転落サスペンス」と銘打たれた本作だが、浮世を淡々と受け入れてく辻もどこか不気味。そして劇伴や主題歌を排除した映像美が、辻をはじめ登場人物たちを生々しく浮かび上がらせていく。その“要”となる浮世を演じたのが、NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』以降もオファーが絶えない女優・土村芳。あざとさが出てしまうとすべてが破綻してしまう難役と、いかにして対峙したのか。撮影を終えた本人に話を聞いた。
■もしかすると辻が一番こじらせてる人物かも
――オーディションでは「受からない」と思っていたそうですね。
オーディション用の台本と、参考として1巻の途中までの漫画原作を読ませていただいて、その時に、「この女性はなんて掴みどころがないんだろう」と思ってしまったんです。今となっては、それが彼女なりの必死な生き方というのは分かるんですけど……それから男性を自然と引きつける外見的な要素が私にあるのかも疑問で(笑)。全く自信がなかったです。
――浮世を演じていくうちに、その印象に変化はありましたか?
誰かに必要とされないと、自分の居場所を見つけられない人。それはちょっと分からなくもないなと思ったんですよね。必要とされることによって自分の価値が生まれ、そこに喜びを感じる。だから、それぞれの相手に染まっていくことを自然とやってしまう。
人は一面だけじゃないと思うんです。浮世の場合は、その面の数が多かったので人から良く思われなかったのかもしれませんが、辻はそれまで染まってきたタイプと違ったんだと思います。撮影を通して、目の前にいる辻を通して感じることができました。
――辻が浮世の借金をあっさり肩代わりするシーンでは、「自分も同じ選択をするかもしれない」と思ってしまいました。辻の闇は相当深いですよね(笑)。
この物語の中では始めは浮世の方が目立ってしまいますが、もしかすると辻が一番こじらせてる人物かもしれません(笑)。物語が進むにつれて、視聴者のみなさんにも伝わったのではないでしょうか。
――そして、辻は女性によくビンタされる。しかも彼は、平然と会話を続ける(笑)。
そうですね(笑)。浮世の友達の桑田役を演じられた阿部(純子)さんにもビンタされてましたね。ドラマでそのシーンを見てビックリしました(笑)。
――重たいストーリーが展開していきますが、現場はどのような雰囲気でしたか?
すごく楽しかったです。不思議なのが、こういうストーリーを撮っているにも関わらず、みんな底抜けに明るかったんです。すごく和気あいあいとしてて、でも良い緊張感もありました。その中心には深田監督がいらっしゃって、その人柄に集まって来たスタッフさんがいて、そこに出演者がいて。緊張と緩和のバランスがすごくとれていた現場だったと思います。今思うとなんですけど……私の場合はそういう合間に明るさを出し切っていたから、スムーズに撮影に入れたような気がします。
――オンとオフの切り替えは、現場や作品によって変わるものですか?
毎回違うと思います。でも……自分でもよく分かっていません(笑)。ずっと静かにしている現場もありますし、はつらつとしている時もあります。
■「自然」を演じるということ
――そもそも浮世は、何の企みもなく自然に言葉を発して周囲を無意識に巻き込んでいきますが、その「自然」を演じるのは相当大変そうですね。
そうなんですよね。「こうしよう」「ああしよう」と思ったら、深田監督や観ている方にバレてしまうんじゃないかという恐怖がありました。一歩間違えるといやらしさやあざとさが出て、浮世が浮世じゃなくなってしまいます。だからこそ、シンプルに心から思うようにして、なるべく嘘をつかないように。でも……なんだか矛盾してますよね。お芝居は、すべてにおいて「大嘘」をついているわけで。そういう大前提があるからこそ、「その他」の部分ではなるべく「嘘」は少ない方が良いかなと……。
そのような状況の中で、出演者の方だったり、深田さんやスタッフさんに助けていただいたと思います。その全部が重なって、私を浮世にしてくれたというか。比較的距離の近い衣装部やメイク部の方も距離を取ってくださったり、一緒にはしゃいで下さったり、その時々で察してくださって。空気が一瞬にしてできあがる現場で、毎シーンの現場が1つになってまさに“一球入魂”状態でした。
私は撮られている側なので目撃できなかったんですけど、良い画が撮れた時に監督がガッツポーズをされていたみたいで。森崎さんとも「監督にガッツポーズさせましょう!」と気合を入れていました(笑)。
――「演技のうまさ」は役者本人の技量はもちろんですが、その背景にはスタッフや現場に携わる人々の存在も大きく関わっているわけですね。
それをすごく強く感じた現場でした。期間の長さや環境にもよりますが、今回は「俳優部」として、皆んなで力を合わせて作品に臨む一体感がありました。私自身、へこんでしまうこともありましたが、すごく刺激になりましたし、勉強になる現場でした。
――撮影中に落ち込むこともあるんですか?
この作品含めて撮影中や撮影後に「こうしておけばよかった……」と考え込んでしまうことも多いですが、切り替えないと次に進めません。へこんだり後悔したりすることは、自分にとっての伸びしろと思って。そこは自分次第ですよね。一旦、落ち込まないと気づけないこともあるので、落ち込むことは悪いことだと思わないようにしています。
――深田監督は「難航する」と覚悟の上で、浮世役のオーディションに臨んでいたそうです。撮影を終えて、監督からどのような言葉がありましたか?
クランクアップは物語のラストシーンでした。「オーディションに来てくれてありがとう。浮世を土村さんに演じてもらえて良かった」と。こんなに光栄なことはありません。その言葉をいただいて「また別の作品に」という願いもありますが、私からは深田監督に、「もっともっと成長するのでいつかまたご一緒させてください」という言葉を伝えたいです。
■プロフィール
土村芳(つちむら・かほ)
1990年12月11日生まれ。岩手県出身。これまで、『弥勒』(13)、『何者』(16)、『去年の冬、きみと別れ』(18)、『空母いぶき』(19)などの映画、『コウノドリ』(TBS系・15/17)、『べっぴんさん』(NHK・16~17)、『恋がヘタでも生きてます』(日本テレビ系・17)、『この世界の片隅に』(TBS系・18)、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系・19)、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK・19)などのドラマに出演。2020年は1月期のTBS系ドラマ『病室で念仏を唱えないでください』に出演することが決まっている。