今、日本車の中で最もスタイリッシュとの評価が高いマツダ。他の自動車メーカーからも、「マツダのクルマはいいね」との声が聞こえてくる。そのマツダは今年、新世代商品群(マツダは「第7世代商品群」と呼ぶ)として「MAZDA3」(国内旧車名:アクセラ)と新型SUV「CX-30」を市場投入した。
新世代商品群でマツダは、第7世代アーキテクチャーとしてクルマの細部まで作り込みを図った。その中でも特に、2012年発売の「CX-5」「アテンザ」(現行モデルは「MAZDA6」に改称)で導入した“魂動デザイン”を深化させた。車体全体がひとつの面のように造形されたマツダ車は、ひときわ異彩を放っている。
かように複雑な造形を持つ車を、マツダはいかにして量産しているのか。このほど、広島にある本社工場で生産技術を見学する機会を得たので、プレス、車体組立て、塗装の各生産ラインにおけるマツダ独自の生産技術力をつぶさに見てきた。
複雑なデザインのクルマを量産するマツダ
いうまでもなく、マツダは広島発の自動車メーカーであり、世界シェアでは2%と業界のスモールプレーヤーである。かつては米フォードとの資本提携が長く続き、2000年代に入ってフォードとの提携を解消した後は、トヨタグループに入った。このように、紆余曲折を経てきたマツダではあるが、変わらないのは独自性を追求する会社としての姿勢だ。
マツダの目指す姿は、顧客に選ばれるための特徴を前面に打ち出した独自のブランドを確立することと、「走る歓び」という価値で際立つこと。それにより、ブランド価値経営を推進していく構えだ。そのためにマツダは、商品開発戦略として、一括企画・コモンアーキテクチャー・フレキシブルラインのモノ作り革新を進めている。
マツダのモノづくりにあって、顧客の価値を最大化するために打ち出しているのが“魂動デザイン”だ。「魂が動く」(SOUL of MOTION)ことを表す造語であり、独自のデザインを強調した言葉だ。この概念を2012年の「CX-5」「アテンザ」で導入し、新世代商品群のMAZDA3、CX-30ではさらなる深化を図った。
「職人技の量産化」。そんな困難な課題に、マツダは取り組んでいる。その一端を本社工場で見ることができた。例えば、金型の技術だ。
マツダではデザイン部門と金型製作現場との連携を強化し、独自の金型技術を作り上げた。つまり、「手仕事」と「技術」を融合させたのである。マツダの生産技術には、デザインとの共創としての「御神体活動」がある。これは、「御神体モデル」(自動車開発の初期に作るクレイモデル)に対する思いを共有し、技術的な課題を抽出して、研ぎ澄まされたキャラクターを実現する高度なエンジニアリング技術だ。流れとしては、磨き同等の面の粗さを実現する高品位技術→魂動削り→面の連続性・抑揚を崩さない極上磨き技能→魂動磨きときて、金型が完成する。それが量産化に結び付くのだ。
具体的にいうと、MAZDA3ではフロントピラーが旧モデルに比べ約20mm細くなっていて、見栄えや視界が良くなっている。CX-30では、ドアとドアおよびフェンダーのすき間を、マツダ車で一般的な5mmから3mmに縮めた。すき間ではなく、ドアなどのパネル全体に人の視界を向かわせるというデザインの狙いを具現化した部分だ。
マツダはカラーにもこだわってる。同社では感性を塗膜構造に変換し、高精度材料と精密加工技術を用いたロボットによる「匠塗り」を実現。デザイナーの思いである「リフレクション」を量産車に落とし込んでいる。これが、「匠塗りの量産化」だ。
新型エンジンも量産体制に!
工場では、新世代商品展開の目玉でもある「SKYACTIV-X」エンジンが量産に入ったことも確かめてきた。
「火花点火制御圧縮着火」(SPCCI)を実用化し、「究極の内燃機関」ともいわれるSKYACTIV-Xは、一言でいうと「ガソリンとディーゼルのイイトコ取り」をしたエンジンだ。燃費、トルク、レスポンスではディーゼルエンジンの特性を受け継ぎ、出力と排気浄化性ではガソリンエンジンの良さを引き継いでいる。
マツダは新世代商品群に同エンジンを搭載することとしていたが、すでに欧州向けMAZDA3で市場投入を果たしている。欧州での初期受注は6割が同エンジン搭載車と評価も高い。
日本での市場投入は遅れていたが、エンジン生産ラインでは現在、既存エンジンとの混流で量産を進めているところだ。SKYACTIV-X搭載のMAZDA3は12月5日に発売となっており、CX-30は来年早々にも登場する見通しとなっている。市場がどう反応するか、気になるところだ。
マツダは米フォードと資本提携をしていた時代から、フォードの撤退により苦境に陥った後に至るまで、一貫してモノづくりの革新を進めてきた。フォード出身の外国人社長が続いた後、マツダでは生産技術畑出身で「ミスターマニュファクチャリング」と呼ばれた井巻久一氏が社長に就任。その後も独自の生産技術を磨き続けてきた。
米国のアラバマ州では現在、トヨタ自動車との合弁工場を建設している。2021年の稼働開始に向け、今は準備の真っ最中だ。この工場でも、マツダの強みである混流生産などの生産技術がいかされることになる。トヨタもマツダの知見・技術力には期待しているそうだ。