「喉がすっきりしない」「イガイガする」「違和感がある」などに代表される喉の異物感をこれまでに経験したことがある人は少なくないだろう。一度気になりだすと仕事がおぼつかなくなるようなケースもあるかもしれないが、実はこれらの症状の背後にはさまざまな疾患が潜んでいる可能性がある。
そこで今回は喉の病気の種類や原因、症状などについて日本耳鼻咽喉科学会認定専門医の宮崎裕子医師にうかがった。
喉に異物感を覚える原因と治療法
宮崎医師によると、喉に異物感を覚える場合、ウイルスや細菌などの感染による喉の炎症や胃酸の逆流による逆流性食道炎といった病気が考えられるという。
「心身症が原因の咽喉頭異常感症と呼ばれる病気もありますし、アレルギーによって喉がイガイガすることもあります。また、可能性は低いですが、喉のガンも否定できません。 2週間ほど経過して改善しなければ、一度は耳鼻咽喉科で診察を受けられることをお勧めします」
喉の異物感の原因として考えられる主だったものは以下の通り。
(1)ウイルスや細菌による感染、炎症
風邪やインフルエンザのウイルス、細菌に感染すると、喉の奥が炎症を起こして腫れ、異物感を覚えることがある。また、食道の粘膜がウイルスやカビなどに感染すると、喉のつかえ感や胸やけなどが現れる。疲れが溜まっていたり、体力が低下していたりするときなどに感染しやすくなる。
炎症の程度によるが、軽ければ市販薬で対応が可能。改善がなければ耳鼻咽喉科を受診し、投薬してもらおう。
(2)咽頭ガン・喉頭ガン
主に喫煙とアルコールが原因となるケースが多い。ガンのできる場所や進行度によって症状が異なる。初期の咽頭ガンでは、異物感があったり食べ物がしみたりするなどの症状が見られ、進行してくると「飲みこみにくい」「引っかかる」といった症状が現れる。喉頭ガンは上部では異物感、声帯付近だと声がれ(嗄声)が見られる。
喫煙者やアルコールを摂取する人は、耳鼻咽喉科で診察を受けよう。喉の観察は、鼻の穴から細長い内視鏡を挿入し、喉(食道の入り口まで)をよく観察する経鼻内視鏡検査が最も有用だ。形態的な異常があれば、小さな病変でも発見することが可能。
「『ガンが心配』という理由で受診される方も多いですが、この検査で異常が見られなければ、少なくとも喉のレベルでガンはないと思っていただいて結構です。検査費用は保険3割負担で、1,800円程度になります」
(3)逆流性食道炎
逆流性食道炎は近年、増加傾向にある。食事、生活習慣が欧米化していることから、胃酸の逆流を防ぐ食道下部の筋肉がゆるみやすくなり、胃酸が逆流しやすくなっているという。胃酸は強い酸性を保っているため、逆流すると食道だけではなく、喉の粘膜に炎症が起き、自覚症状として喉のつかえを感じるようになる。
患者が症状を訴えたり、耳鼻科で経鼻内視鏡検査をしたりして判明するケースも少なくない。逆流性食道炎と診断された場合は、食事療法(高脂肪食や刺激物を避ける、食べ過ぎない)や就寝時に上半身を持ち上げることが大切だ。また、胃酸を抑える薬物治療もある。
(4)アレルギーによる気管の炎症
喉の異物感はアレルギーによる気管の炎症によっても現れることがある。気管の炎症の原因の大半はハウスダストだ。中でもダニに対するアレルギーが特に多く、その他にスギ花粉や卵、牛乳、そばなどの食べ物がアレルギーの原因となる場合もある。
喉のイガイガに加えて咳を伴うことが多く、アレルギーのある時期に発症しやすい。アレルギーがある人は、抗アレルギー薬を服用すると改善する。
咽喉頭異常感症の原因と症状
これらの原因以外に喉の異物感を招くものとして「咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)」がある。口から入った物は食道のぜん動運動によって胃に送り込まれるが、心身のストレスがあると自律神経のバランスが崩れて喉や食道の動きが悪くなり、喉のつかえ感を引き起こすケースがある。これを「咽喉頭異常感症」と呼び、心身症の一種と考えられている。「ストレスを発散することが苦手な人」に起きやすく、比較的女性に多く見られる症状だという。
「咽喉頭異常感症の主な原因はストレスと言われています。更年期障害や自律神経失調症、うつ病など精神的症状の目立つ病気に見られることが多く、心理的に大きなストレスがかかった場合に、喉の違和感が悪化する傾向にあります。不安や緊張や精神的なショックは、ストレスとして私たちの体に負荷をかけます。ストレスを受けると、体の自律神経のバランスが崩れて、交感神経が優位になります。すると食道付近の筋肉が過剰に収縮し、食道の内腔が細く締め付けられてしまいます。この結果、喉の異物感や圧迫感、嚥下時の不快感などをきたすと考えられています」
咽喉頭異常感症の対処法
体に異常がないにもかかわらず喉の違和感を覚えるようならば、心療内科の受診を検討するといいだろう。かかりつけの病院で心療内科を紹介してもらうケースもある。心療内科では精神的な要因を探り、原因となるストレスなどの軽減方法を患者に合わせて考えていく。
「漢方治療が有効であり、『気』の巡りを良くして、喉のつかえ感や違和感を改善する『半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)』や『柴朴湯(さいぼくとう)』も喉のつかえ感に効果的とされています。ストレスで停滞した気の巡りを良くする働きが期待できます」
咽喉頭異常感症の予防法
咽喉頭異常感症にならないようにするには、ストレスをためないことが大切だ。ゆっくり休息する時間を取り、十分な睡眠を取る。そして、自分に合った趣味を見つけるなどの工夫をして、ストレスと上手に付き合っていこう。
「ウイルスや細菌に負けない抵抗力をつけるためにも、日頃からバランスの良い食事と適度な運動を心がけてください。また、強いストレスを感じたときは、自然と呼吸が浅くなって喉の違和感がひどくなるため、深呼吸もお勧めです」
日頃から食事や運動などに気をつけ、冬場は乾燥も喉に大敵なので、マスクをつけて手洗いもしっかりしよう。耳鼻咽喉科を受診しても喉の異物感が続く場合は、内科で検査(内視鏡検査や血液検査、CT検査など)を受け、医師に身体疾患の有無を調べてもらうといいだろう。
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