NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)がきょう15日、いよいよ最終回を迎える。視聴率で苦戦したが、豪華共演陣のアンサンブル演技と、宮藤官九郎のキレキレな脚本スキルにうならされた秀作だったことは間違いない。大河ドラマに新風を注いた本作を、熱狂的なファンは最後まで応援し続けた。果たして、阿部サダヲと中村勘九郎は、本作を経てどんな糧を得たのか?
田畑政治(阿部サダヲ)率いる裏のオリンピック組織委員会の尽力により、聖火リレーのランナー選出や日の丸国旗掲揚問題が無事解決した前回。果たして『いだてん』はどのような大団円を迎えるのか。
――『いだてん』の放送開始前と撮影終了後とで、ドラマの印象は変わりましたか?
阿部:撮影に入る時、日曜日の8時に笑いが起こると言っていましたが、感想を聞くと「泣けた」という声が多くて。実際、僕も台本を読んだ段階で泣けるシーンもありましたし、そこは宮藤さんのある意味、いい裏切りでした。まさかこんなに泣ける話だとは思っていなくて、「泣いた」と直接、感想を言ってきてくださる人が多くてびっくりしました。
中村:僕はスポーツ音痴というか、運動が苦手だったので、これまでは避けてきたんですが、この作品で走る楽しさを知りました。僕は膝が悪いんですが、走っていると本当に調子が良くて、撮影が終わって歌舞伎の稽古をしているほうが膝にくるので、歌舞伎のほうが向いてないのかなと思ったりして(苦笑)。だから、膝のためにも走りは続けようかと。フルマラソンを走ったことがないので、いつかどこかでこそっと走ると思います。
――金栗四三さんは、ずっと走っていましたね。マラソンランナーを演じ切ってみていかがでしたか?
中村:スポーツという言葉自体が浸透していない時代から始まり、いまでは、東京に2回目のオリンピックが来るわけですから。その一瞬に懸ける選手のプレッシャーや、精神を知って、すごく気を遣うようになりました。プレッシャーがかかるから、あまり報道はしてほしくないなと思ったりもします。また、作品はお芝居ですが、オリンピックシーンの撮影前には本当に白髪が増えたりしました。でも、本当の選手の方々は、それ以上のプレッシャーを抱えてらっしゃるわけですから。
――これまで演じてきたなかで、好きなシーンや好きな台詞を教えてください。
阿部:「スポーツで日本を明るくするんだ」ですね。出始めの頃に、ちょこちょこいいことを言っていましたが、それがあとで利いてきます。「一種目も失うな」という台詞もそうでした。
中村:金栗さんは、「スッスッハッハ」しか言ってないんです。弟子の小松(仲野太賀)が戦争に行った時も、そういうふうにディスられていましたし(苦笑)。走ってるか、笑ってるか、飯を食ってるか。まあ、自分でもよく走ったなという感じですが、とにかく楽しかったです。「なんにも考えないで走ればよか」と、兄ちゃん(中村獅童)に言われた台詞もありましたし。
阿部:金栗さんはアスリートの時と、引退後、「聖火ランナーをやってくれ」と言われた頃と、どんどん変わっていきますが、選手を辞めたあとの金栗さんがかわいくて。いいおじいさんになっていて、すごく面白かったです。
――大河ドラマの主演をやってみて、得たものについても教えてください。
中村:1年半も同じ1人の人物を演じるってことはそうないですから。僕は『いだてん』という宮藤さんの作られた作品で金栗さんと出会えたことが大きかったです。後半では1カ月に1回くらい撮影に呼ばれましたが、現場に行くと、まだ発表されてなかった浅野忠信さんや井上順さんなどすごい方たちがいて、“和製アベンジャーズ”だなと思ったりしました。『いだてん』はミュージシャンやお笑いの人、落語家、歌舞伎役者など、いろいろなジャンルの方々が参加していて、得たものは大きかったです。
阿部:確かに役者の数がとにかく多かったですね。また、役所広司さんとの共演もそうですが、普段はなかなか会えない方と一緒にお芝居ができたことが、自分でも良かったなと思っています。中にはもう会えない方もいますし。ショーケン(萩原健一)さんとご一緒できたことも、自分のなかに思い出として残るものでした。
阿部サダヲ(あべ・サダヲ)
1970年4月23日生まれ、千葉県出身の俳優、歌手。大人計画所属。大人計画の俳優らとバンド「グループ魂」を結成し、ボーカルの「破壊」としても活動。2007年、『舞妓Haaaan!!!』で映画初主演し、第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2010年のNHKドラマ『離婚同居』で連続ドラマ初主演。映画の近作は『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
中村勘九郎(なかむら・かんくろう)
1981年10月31日生まれ、東京都出身の歌舞伎俳優。屋号は中村屋。歌舞伎名跡「中村勘九郎」の当代。2012、年新橋演舞場『土蜘』僧智籌実は土蜘の精、『春興鏡獅子』の小姓弥生後に獅子の精などで六代目中村勘九郎を襲名。歌舞伎の舞台公演以外にも映画、テレビ、現代劇などでも活躍。映画の近作は『銀魂』(17)や『銀魂2 掟は破るためにこそある』(18)
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