漫画家・折山漠さんが描いた短編漫画「忘れたい人」がTwitterに再掲され、注目を集めている。描かれているのは、ある記憶を消し去りたいと願う女性と、忘れ薬を作って彼女に手渡す男性、2人の複雑で儚い関係。張り裂けるような哀しく切ない描写に多様な声が寄せられている。
【再掲】忘れたい人 pic.twitter.com/tkGrMtTOvy
— 折山漠@②巻発売中 (@oriyama89) November 25, 2019
ある薬の開発者のもとに、「いつもの薬ちょうだい」と女性が訪れる。2人はよく見知った間柄。「また君か、そろそろ完全に薬も効いたんじゃないか?」という男性の問いに、彼女は「ええ、あなたが作った特定の人と過ごした記憶を消せる薬。これのおかげで恋人のことも、もうおぼろげよ」と微笑む。「仕事ばかりでさっぱり相手にしてくれなかったんだろ?」と、同情を寄せる彼に「最悪だった! でももう最悪だった、ってことしか覚えてないの」と告げる。
新しく増やされた薬を手にし、女性は「コレで完全に忘れられる…」と静かに歓喜。そんな彼女に薬の作り手たる男性は、「忘れたいってことは、それ程好きだったってことなんじゃないのか?」と尋ねる。少しの間を置いて、彼女は「もう忘れたわ」と一言。「君、前もパワハラ上司を忘れたくて薬使ったろ。これで最後にしろよ」と彼は忠告を重ねるが、それにも「当然でしょ! 何度もあってたまるもんですか」と、やや苛立ったように答える。
「私だってもう一生ここに来なくも幸せな人生送ってやるんだから」と言い放つ女性。「じゃあね!!」と爽やかな笑顔を残し、薬屋を後にする。それを見届けた男性は、アンニュイな表情。「やれやれ。あの人もやっとこの薬屋を卒業か」と独り言ち始める。「…元々はあの人が契機で作り始めた薬だもんなぁ」。思い出されるのは、かつての彼女との記憶。その通り、薬の開発を始めたきっかけは、仕事の人間関係に悩んでいた彼女にできることはないかと思案したことからだ。
「ねぇねぇ」と柔らかな表情で話しかけてもいた彼女に背を向け、彼は毎日毎日、薬を作るのに打ち込んだ。必死で、熱心に。「あまりに熱心に…なったものだから、」「あの子は俺を忘れてしまったのかなぁ…」。写真立てに飾られている、かつての姿に目をやる。昔の2人は、互いに優しい笑顔を浮かべて寄り添っていた。次に彼が目を向けるのは自らが作った「特定の人と過ごした記憶を消せる薬」。涙を浮かべたような瞳で、薬を取り出しながら口にする。「僕も君を忘れるよ。ごめんな。不甲斐ない恋人で」…。
リプライには、「なんで、すれ違わなきゃならないんですか…」「泣けてくる…すれ違いの愛で愛を忘れる…」「やはり悲しい」「これはちょっと辛すぎる」「なんて切ないんだ」と思わず悲嘆を漏らすコメントが多数。興味深いのは、「完全に忘れたけど、また同じ人を好きになるところまで妄想した」「完全に忘れるってことはまた好きになれますね!?」「記憶を忘れたあなたと2度目の恋をしてほしい」など、このストーリーの先、ハッピーエンドの結末を想像する意見も多く見られることだ。
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これらだけにとどまらない。「彼が記憶を忘れる薬を飲んでしまった後、また彼女が店を訪れ、自分と彼が写った写真を見つけ、過去に何があったのか気になって今度は記憶を取り戻す薬を彼女が作りだすのでしょう? それで彼女が飲んで彼との楽しい時間があった事も思い出し、彼にも薬を飲ませて…はい。ハッピーエンド」、「女の子は実は薬を1つも飲んでいなくて、でもそれを知らない男の子は薬を飲んで彼女のことを忘れてしまう。そしてまた薬をもらいに女の子が部屋に来た時、男の子は自分との記憶がないことを知ってまた一から恋をスタートさせ、日が経ったらまたお互いを好きになって付き合うっていうオチです!」といった長考も寄せられた。
この短編の作者・折山漠さんは、pixiv内のウェブ漫画誌「pixivシルフ」で『バケモノ達は夜明けを乞う』を連載中。11月22日には、コミックス第2巻が刊行された。なお、今回の短編については、読者に感謝を述べながら、やはり「この話をなんとかハッピーエンドにする為に皆んなが色んな妄想してるのがとても面白かった…」とコメントしている。