マツダ新世代商品群の第2弾となるコンパクトクロスオーバーSUV「CX-30」。第1弾のスタイリッシュな小型ハッチバック「MAZDA3」のSUV版ともいえる美しいスタイルが特徴で、人気の高い小型SUV市場でも一頭地を抜くモデルだといえる。その走りは、見た目を裏切らない出来栄えなのか。試乗して確かめてきた。
ジャストサイズのパートナーを目指して
試乗の前に車両の概要説明をしてくれたのは、CX-30の開発主査を務めたマツダの佐賀尚人氏だ。
「このクルマでは創造性あふれるデザイン、室内パッケージ、ダイナミック性能の3つを、これまでより高いレベルで融合させました。マツダにとって、『CX-5』『MAZDA3』に続く第3の機軸車種に育てたいと思っています 。従来のクロスオーバーSUVは、週末のレジャーなど、ある使い方に特化したような意味合いのクルマでしたが、最近では日常でも使われる機会が多くなり、ユーザーのニーズは変化しています。また、そういう車種も増えてきました」
確かに、日本市場では今や、コンパクトクロスオーバーがCセグメントのハッチバックを台数で逆転している。台数成長が著しいコンパクトSUV市場でマツダは、「どこにでも気軽に出かけられるジャストサイズの商品」としてCX-30を開発したのだという。
「着目したのは、人生の転換期を迎える方々です。独身からカップルに、あるいは結婚してヤングファミリーにといったように、短い時間で家族構成も生活形態も変化します。そうした方々は、その時々のニーズにフィットするクルマを選ぶのが大変です。そういう時にこそ、人生の輝きを提供できるパートナーでありたいと思います」
小型SUVでデザインを追求すると使い勝手が犠牲になってしまうし、使い勝手にプライオリティーを置けば見た目がおざなりになってしまう。そんなトレードオフの関係を打破しようとしたのが、このクルマだ。「CX-30を作る上では、マツダが持つ『魂動デザイン』の良さをいかし、デザインの良さをキープしながら空間の満足度を上げて、独自のポジションを築きたいと考えました。それが開発の狙いです」というのが佐賀さんの解説だ。CX-30は、デザインと室内パッケージの両立を目指した欲張りなクルマなのである。
エクステリアでは、ミクロン単位で精度を上げて微妙な曲面を造形することに、デザイン、開発、生産が一体で取り組み、細部にわたるボディの表現を再現したとのこと。インテリアはクラフトマンシップの領域で、単に良い素材を使うだけでなく、人間の視覚、触覚を大切にした方法や技術を取り入れ、作り込んだそうだ。
「MAZDA3」とは逆のサイドビュー
都市部での機動性を上げるため、外観寸法に注力したというCX-30のボディサイズは、全長4,395mm、全幅1,795mm、全高1,540mm。全長はCセグメントのハッチバックの平均である4,400mmより5mm短く、全幅は狭い路地でのすれ違いを含めて取り回しのしやすい1,800mm以下とした。全高は立体駐車場にも対応可能な1,550mm以下となっている。
エクステリアはMAZDA3の“背高版SUV”といっていいほど似ているが、面白いのはボディサイドの光の映り込みだ。CX-30では右面が“Z”、左面が“S”となっていて、マツダ3とは正反対になっている。ボディ下部をブラックの樹脂でカバーすることで、腰高に見えない工夫も施されている。
インテリアは、ブラック/チャコールの2トーンレザーや細かなステッチ、パッドを多用したダッシュボードなどが上質なイメージを醸し出す。シート高は日々の生活における乗降性の良さを重視。左右の座席間隔はCX-5と同等で、ホイールベースは「CX-3」より85mm長いので、後席の足元は明らかに広くなっている。
その上で、荷室は荷物の多いヤングファミリー層を念頭に十分な余裕を持たせた。容量は430Lで、スーツケースとベビーカーの両方を乗せることができる。荷室のドアには電動で開くパワーリフトゲートを採用(「20S」を除く全車に標準装備)。開口幅や高さも、大きな荷物が乗せやすい作りとなっている。
ディーゼルモデルの走りは
さて、いよいよ走りの部分だ。エンジンラインアップは2.0Lガソリンの「SKYACTIV-G」、1.8Lディーゼルの「SKYACTIV-D」に加え、火花点火制御圧縮着火の「SKYACTIV-X」も2020年1月下旬に発売するとのこと。クロスオーバーであろうとも、自在感のある運転フィールを実現することを目指したという。試乗したのは最高出力85kW(116PS)/4,000rpm、最大トルク270Nm/1,600〜2,600rpmを発生する「S8-DPTS型1.8リッター4気筒ディーゼルエンジン」を搭載する「XD Lパッケージ」だった。
当然ながらガラガラというディーゼル音は発生していたが、座席に収まると、それもほとんど気にならないほどに静か。走り始めても静粛性は高かった。風切音やロードノイズがしっかりと抑えられた静かな室内に、少しだけ音が侵入してくるといった程度のものだ。
6速ATで前輪を駆動する走り自体は、エクステリアほどドラスティックな印象を与えるものではなく、至って実用的なフィーリングだ。ここ一発の加速が欲しいような場面では、「2.2Lディーゼル搭載モデルがあったらな」という気持ちになった。
足回りは、首都高の段差でコツコツとした突き上げをドライバーの腰に伝えてくる少し硬めの設定。ママが近所のお買い物に使うというような場面では、もう少し柔らかい方が歓迎されるかもしれない。ただし、こうした足のクルマは、長距離ドライブをすると、結果的に疲れが少なくなることが多い。マツダらしいヨーロッパ車的なセッティングともいえるだろう。
スタイルを優先したため、結果的にウインドー面積は狭くなっているが、視界は良好。コンパクトなボディサイズも相まって、日本の環境にはジャストフィットするはずだ。
一方、試乗中には気になる点もあった。ゲート式駐車場に出入りする際に感じたのだが、発券機にピタリとクルマを寄せないと、上下の薄いフロントウインドーからは身を乗り出しにくく、カードを差し込むのにちょっと苦労するのだ。都市部ではこうした場面が多いだけに、これは気に掛かる。
助手席の乗員は、荷物を抱えて乗る際に注意が必要だ。サイドミラーの見通し角度が狭いため、大きな資料や荷物を膝上に抱えていると、ドライバーは背伸びをしようがどうしようが、助手席側のサイドミラーが全く確認できなくなってしまう。乗員全員が正しい姿勢で正しく乗ると、全く問題はないのだが……。
身内のCX-3をはじめ、トヨタ「C-HR」、ホンダ「ヴェゼル」、スバル「XV」など、人気のクルマが目白押しのコンパクトSUV市場に登場したCX-30。マツダによればデザインやサイズ感、ユーティリティー性などがユーザーの評価を得て、月間販売目標の2,500台を上回る好調な滑り出しを見せているという。