神戸教職員間で起こった「いじめ」。この事件の背景にモラハラ問題があるとされていますが、実は、学校、企業などの組織だけでなく一般家庭でもモラハラは存在します。

特に40~50代のエリート男性が家庭でモラハラを起こす人が多いようだと指摘するのは、社会福祉士で「恋愛・夫婦問題」のカウンセリングを行う喜多野七重さん。そんな喜多野さんに、モラハラを起こしやすい人の特徴を聞いてきました。

  • モラハラは会社・組織だけではない

モラハラの定義とDVとの違い

そもそもモラハラとは、どのようなことなのでしょう。改めて喜多野さんにお聞きしました。

喜多野さん 「モラハラとは加害者からの『主に言葉の暴力』による精神的暴力により、被害者が自分自身について全てに対して否定されている気分にされることです。またよくドメスティック・バイオレンス(以下、DV)と混同されがちですが、大きな違いがあります」。

その違いは、DVの精神的暴力が「俺(私)」の主張からの加害行為であり、モラハラの精神的暴力は、「世間一般」の主張であるような言葉を選ぶことだと言います。

DV:自分(加害者)が正しい、という主張から相手をけなす
モラハラ:自分(加害者)を含めた世間一般が正しい、という体裁で相手を否定する

そのため、モラハラ発言としては、「お前には常識が無い」「誰もあなたの味方などしない」「皆お前が悪いと言っている」などがあり、そして、自分の周囲の人間にも被害者の批判を吹聴することもあるそうです。

モラハラを起こすエリート男性

こうしたモラハラに悩み、苦しむ人は会社や一般家庭など場所はさまざまです。ただ、モラハラ問題を起こすのは、エリートと呼ばれる社会的地位の高い男性に多いと喜多野さんは指摘します。

喜多野さん 「40代以降の男性が顕著ですが、仕事ではベテランと呼ばれ、組織でも役職に就くなど、社会的役割における自信からプライドが高くなります。もちろん、仕事の高いパフォーマンスを評価され、そのことに対する自尊心を強く持つのはよくあるでしょう。ただ、業績はそれほどでもないのに組織で高く評価され、自分の地位にこだわり尊大な態度を取る人には要注意です」。

  • 社会福祉士 カウンセラー 喜多野七重さん

ここで、喜多野さんが注目するのが「自己愛性パーソナリティ障害(自己愛性人格障害)」。その特徴は、自分よりも「上・下」で相手を判断し、「格上」と認識した人に対してのみ、自分をよく見せたり、取り入ったりするなど、「上に取り入るのが非常にうまい」。結果、組織内で高い地位にいることが往々にしてあるそうです。

逆に、自分よりも「格下」もしくは「同等かもしれない」と見なすと、その人から高い評価を受けないと気が済まなかったり、少しでも意見されると強く言い返したり、逆上・無視、揚げ句には、「自分よりも格下」へおとしめようとする傾向が強くなるのだと言います。

こうした要因が重なり合い、モラハラを起こすエリート男性が生まれるのでは? というのが、喜多野さんの考えです。

なお、相手との関係を「見下す」か「見下される」かのどちらかしかできないという、自己愛性パーソナリティ障害を持つ人の特徴を解説した書籍として、医学博士・精神科専門医で、市橋クリニックの院長でもある市橋秀夫さんが監修した『自己愛性パーソナリティ障害 正しい理解と治療法(心のお医者さんに聞いてみよう)』(大和出版)があります。

ところで、モラハラを起こすのは男性ばかりではありません。女性の場合は、どのような特徴があるのでしょう。

女性によるモラハラの特徴

喜多野さん 「日本では、地域性も含めた世間体や、『男が女からモラハラや暴力を受けるなんて』という恥の文化が根強いため、男性からのモラハラ被害相談は少ないのが現状です。しかし、時折男性からのモラハラやDV被害に関する相談はあります」。

その相談内容を聞いてみると、「稼ぎが少ないとけなされ、いる意味がない、などと毎日言われるので、帰宅するのが怖い。また、帰りが遅いと浮気を疑われ、真冬でも朝まで家に入れてもらえないこともよくある」、「口調が荒いのは分かって結婚したが、怒ると『死ね』『クズ』『消えろ』『触るな』などと言われながら生活していると、鬱々としてきて悪夢を見るようになった」などでした。

このように、女性からのモラハラの多くは、男性側の収入、家事・育児への協力参加度合い、不得意な部分などに対して、言葉で罵るような傾向が強いみたいです。

  • 女性だけでなく男性へのモラハラにも注意を促す喜多野さん

喜多野さん 「もし、過去に男性側の浮気(不倫)が発覚したり、女性が妊娠・出産・月経等でホルモンバランスの乱れに苦しんだりするなど、原因が明確なら、第三者を介した夫婦カウンセリング等で、コミュニケーションの問題を解決する方法はあります。

ところが、社会的にも、文化的にも、『男性は弱音を吐いてはいけない』という考え方が染みついていることや、元々言葉で自己表現することが女性よりもうまくない点から、その被害の実態がつかみにくいのが現状です」。

モラハラされていると感じた時の2つの対処法

「もしかして、私自分はモラハラの被害者なのかも?」と感じた場合は、その疑問や違和感がどんなに小さいものと感じても、「自分が弱いからだ」「自分がわがままだからだ」「自分が相手(配偶者や恋人)を理解してあげなければ」と考えてしまうのは危険だと喜多野さんは警鐘を鳴らします。

また、「相手(配偶者や恋人)を変えよう」「自分が変わろう」と無理に考えるのは、事実上困難なのが現実。そこで、喜多野さんがお勧めするのが、「自分のマインドで行うこと」「他者の力を借りること」の2種類を活用する方法です。

自分のマインドで行うこと

(1)自分の「快・不快」「好き・嫌い」「幸せ・しんどい」のレベルから掘り下げ書き出すなどし、本来の素直な自分の感性や価値観を可視化してみる。

(2)自分が育ってきた環境と向き合い、自分自身がアダルトチルドレン※の傾向がないか考えてみる。
※「機能不全家族」で育ち、過干渉・ネグレクト・身体的又は精神的虐待・両親の不和等が日常にあり、その中で親との十分な愛着形成が行われず、大人になっても子ども時代に受けた傷を抱え続けている人たち

(3)過去に経験した恋愛や結婚の相手が、今のパートナーと同じ傾向がないか確認した上で、過去のパートナーを恨んだり否定したりするのではなく、「彼(彼女)は『その頃の自分』にとっては必要だった学びであり、通過点だったのだ」と自分自身に宣言する。

他者の力を借りること

(1)同じような悩みを持つ同士が集まり、経験談や悩みをシェアするグループワークや自助会に参加することで孤立感を軽減する。

(2)専門的な知識を持つカウンセラーによるカウンセリングやワークを受け、自身の状態や今後のライフプランに対して客観的に考える機会を設ける。また、「別れ」を自分自身に課すのではなく、パートナーとの物理的・時間的距離間を再考し、徐々に関係性を見直して環境整備するための知恵を借りる。

(3)もしパートナーが自己愛性パーソナリティ障害等の特性を持っている可能性が高い、或いはそう診断されている場合、その特性に合わせた生活環境の見直しを図る。

(4)心療内科等に受診し診断書を貰う、離婚問題に詳しい弁護士を探す、或いは法テラス等を活用する。また、日頃のパートナーの問題行動を記録するなどして、いざという時に法的に身を守れる準備をする。

以上のような方法を挙げてもらいました。「いずれにしても、『自分の人生の主人公は、自分』という自分軸を立て直し、大切にすることが何より大事なポイントです」と喜多野さんは話します。


企業でのハラスメントはコンプライアンス強化により、さまざまな制度や窓口が用意されていることが多いです。しかし、一般家庭の場合は、本人が主体的に行動しないと状況が変わらないようです。

この記事を見て、友人・知人の様子に違和感を抱いたら、専門家に相談してみるのはいかがでしょう。

取材協力: 喜多野七重(きたの・ななえ)

社会福祉士・自尊心回復カウンセラー。モラハラ夫と離婚後はシングルマザーとして社会福祉士国家試験に合格。カウンセラーとして独立後、離婚・不倫問題、失恋、モラハラ被害、パートナーの発達障害、カサンドラ症候群、子どものひきこもり、空の巣症候群など、女性の尊厳に関する悩みを解決し続けている。