Appleは、米国時間の10月30日、2019年第4四半期決算を発表した。売上高は640億400万ドルで、前年同期比1.8%増となった。全体の5割を占めるiPhoneの売上高は333億6200万ドルで、前年同期比9.2%減と低迷は依然続いているが、それでも全体でプラスに着地した理由について探っていこう。

  • iPhone

    売上高の減少が続くiPhoneだが、それ以外のカテゴリの躍進で前年同期比ではプラスで着地した

改めて、カテゴリごとの売上高を見ていきたい。

  • iPhone: 売上高 333億6200万ドル(前年同期比-9.2%)
  • Mac: 売上高 69億9100万ドル(前年同期比-4.8%)
  • iPad: 売上高 46億5600万ドル(前年同期比+16.8%)
  • Wearables, Home and Accessories: 売上高 65億2000万ドル(前年同期比+54.3%)
  • Services: 売上高 125億1100万ドル(前年同期比+18%)

iPadは完全に別の存在としての成長を開始

今回の決算でも、iPhoneは前年同期比を約10%下回っている。前期は好調だったMacも約5%減となり、米国の新学期、いわゆるBack to School需要をうまくものにできなかった点が浮き彫りとなった。

しかし、それ以外のカテゴリーは目を見張る成長を遂げた。

iPadが約17%増と大幅に増加したのは意外だった。3月末に、ミドルレンジを構成するiPad mini(第5世代)とiPad Air(第3世代)の2機種を刷新。当時としては最新チップだったA12プロセッサを搭載し、パフォーマンスを大幅に引き上げた。

  • 2019年3月に販売を開始した、もっとも小さなiPad「iPad mini(第5世代)」

さらに、6月に開かれた開発者会議「WWDC19」では、これまでiPhoneと共通だったiOSからiPad用のOS「iPadOS」を分離し、iPadをより普通のコンピュータとして活用するための環境整備を行った。具体的には、USBメモリなど外部ストレージへの対応、マルチタスク強化やマウスへの対応、Safariのデスクトップブラウザ化を進めた。

決算発表の電話会議で、Tim Cook CEOは「iPad Proが17%増と、iPadの成長を牽引した」ことを明らかにした。iPadOSの登場で、iPadがこれまでのタブレットという、MacやPCに対する補助的なデバイスという存在から引き上げられ、よりハイエンド製品に注目が集まったと考えられる。

加えて9月のiPhoneイベントでは、廉価版のiPadを第7世代に刷新し、ディスプレイの拡大とキーボードへの対応を実現した。米国では329ドル、日本でも34,800円のタブレットをペン対応のコンピュータとして活用できるようにし、こちらも年末に向けて子ども向けのギフト需要や、もっとも軽くて安い実用的なモバイルコンピュータとしての需要に応える。

ウェアラブル部門のブーストと戦略の変化

驚異的な売上高の増加を見せたのが「Wearables, Home and Accesorries」という、2019会計年度に新設されたカテゴリだ。売上高は65億2000万ドルで、前年同期比で54.3%増という数字は、サービス部門の成長速度を大きく上回る。このカテゴリには、Apple Watch、AirPods、Beats製品といったウェアラブルに加えて、Apple TVとHomePod、ケースやApple Pencilなどのアクセサリも含まれる。

電話会議では、まだ購買パターンを見出すには至っていない若いカテゴリであるとしたうえで、他の製品以上に「新規購入者」によって成長が支えられていることを明かした。例えばApple Watchは、購入者の3/4が初めて購入する人で占められているという。AirPodsも、右肩上がりでの成長を持続している。

確かに、新たに確立しようとしているカテゴリではあるが、すでに買い替え需要へ対応する製品戦略を取り始めているのだ。

Apple Watchは、2018年モデルとなるSeries 4で、ディスプレイを拡大した新しいデザインを採用したが、Series 5ではそのディスプレイを常時点灯に対応するLTPO有機ELディスプレイへ変更しており、商品力を高めた。

  • ディスプレイの常時点灯が図られたApple Watch Series 5。常時点灯に魅力を感じた従来モデルユーザーの買い替えが進んでいるとみられる

この進化は、Apple Watchの新規購入者を後押しすると同時に、既存ユーザーの買い替えを誘う。3年程度のサイクルで技術的、デザイン的な刷新を行うことで、まだ存在していないApple Watchの買い替えサイクルを作ろうとしていることが分かる。

同様のことを、AirPodsでも行おうとしている。10月30日に登場したノイズキャンセリング対応のAirPods Proについて、Tim Cook CEOは「2つ目を手に入れたい人が主要なターゲット」であると指摘した。

すでに、初代のAirPods登場から3年が経過しており、毎日使っていれば電池の劣化も進んでおり、買い替えにはちょうど良いタイミングだ。そこに、デザインの変更と強力な新機能を付加したProモデルを投入することは、絶妙なタイミングといえる。

  • ノイズキャンセリングに対応したAirPods Pro。こちらも、従来のAirPodsからの買い替えや買い増しが進んでいる

およそ2~3年と、iPhoneと同じような買い替えサイクルをAirPodsにも設定していこうという狙いを実現するための新製品投入であり、こちらもサイクルの確立を目指していることが分かる。

残念ながら、iPhoneユーザーのどれくらいの割合が、Apple WatchやAirPodsを使っているか、というデータは明らかにされていない。アクティブユーザーベースが10億を超えるとみられるiPhoneユーザー。iPhoneとApple製ウェアラブルデバイスを組み合わせているユーザーは、多く見積もっても2~3割程度にとどまるのではないか、と考えられる。

Appleは、2020年第1四半期(2019年10~12月)のガイダンスとして、855億~895億ドルの売上高を示し、大きく売上高を崩した昨年のホリデーシーズンからの大幅な回復を予測している。これは、新製品であるiPhone 11の好調も織り込まれているが、iPad、ウェアラブル製品の急成長をさらに加速させる体制を反映したものだ。

(続く)

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。