米クアルコムが12月3日(現地時間)からハワイで開催している「Snapdragon Tech Summit」にて、新しいモバイル向けSoCのフラッグシップ「Snapdragon 865 Mobile Platform」、ハイエンドクラスのスマホ向けとなる「Snapdragon 765 Mobile Platform」のほか、ゲーミング端末向けにグラフィクス処理の性能を強化した“765G”を一斉に発表しました。
Snapdragon Tech Summitは、300名を超えるジャーナリストとアナリストをハワイ・マウイ島に集めて、12月3日から3日間の日程で開催されています。初日は最新Snapdragonシリーズの概要が明らかに。イベントの2日目(12月4日)に予定する技術セッションにて、各製品の詳しい内容が発表される見込みです。
フラッグシップはSnapdragon 865 Mobile Platform
フラッグシップのSnapdragon 865 Mobile Platformは、毎秒15兆回(15TOPS)の演算処理性能を持つという最新の第5世代AIエンジンを載せて、現行のSnapdragon 855からAI関連の処理性能を約2倍まで引き上げたことを特徴に掲げています。
プレゼンテーションの壇上に立ったクアルコムのAlex Katouzian氏(モバイル部門 Senior Vice President and General Manager)は、次のように説明しました。
新しいプロセッサの5G対応はSnapdragon 865を核にして、5Gから4G/3G/2Gまでのマルチモード対応モデムICチップ「Snapdragon X55 5G Modem-RF system」のほか、5Gミリ波通信対応のアンテナモジュール「QTM525 5G mmWave」と、RFフロントエンドおよびトランシーバーを別途組み込むことによって実現。下り通信速度は理論値で最大7Gbpsをサポートします。
モデムICの“X55”は同一の周波数帯域上で4Gと5Gの展開を可能にしながら、ユーザーの需要に応じて4Gと5Gとの間で動的にスペクトルを割り当てるダイナミックスペクトラムシェアリング(DSS)に対応しています。今後の5Gの商用サービスに対しては、新しいSnapdragonのモバイル・プラットフォームの強みとアピールしました。
「ミリ波と6GHz未満の周波数帯域を使うSub-6、および4G LTEのネットワークが混在する時期にも、非スタンドアロン(NSA)とスタンドアロン(SA)の運用方法をまたいで、かつ帯域間キャリアアグリゲーション技術へのサポートも含めてスケーラブルに適応できる」(Katouzian氏)
Snapdragon 865 Mobile Platformを搭載するスマートフォンなどのモバイル端末は、2020年以降に各メーカーから発売されることが予想されます。12月3日のステージには、シャオミ、OPPO、モトローラ、ノキアブランドの端末を手がけるHMD Globalから、ゲストスピーカーが登壇。2020年の発売に向けて、最新のSnapdragonを搭載する端末の開発に着手していることを伝えました。
中でもシャオミは、“865”を搭載する5G対応スマホとして「Mi10」の名称を具体的に挙げたほか、スマートウォッチなど10種類以上のデバイスで5G対応を加速させていくことを宣言。注目を集めていました。
5Gモデムを一体化したSnapdragon 7シリーズ
Snapdragon 765 / 765G Mobile Platformは、モバイル向けSoC「Snapdragon 7シリーズ」にとって初めてとなる5Gプラットフォーム。5G対応のスマホをプレミアムクラスからハイエンドクラスにまでスケール(拡大)させるための、戦略的な位置付けです。2019年9月にドイツ・ベルリンで開催されたIFAにて、クアルコムのプレジデント、Cristiano Amon氏が基調講演でコンセプトを明かしましたが、はっきりと姿を見せました。
特徴は、5G通信に必要なモデムICをシングルチップ化していることです。統合された「Snapdragon X52 Modem-RF System」のパフォーマンスを、下りの理論値で最大3.7Gbpsまでとしているところが、上位“865”との違いになります。DSS対応のほか、第5世代のAIエンジンを積んでいる点などは、上位のSoCと共通です。
Snapdragon 765Gは、Katouzian氏が「クアルコムがいま最も重要視している5G時代のアプリケーションのひとつ」として挙げるモバイルゲーミングへの対応を図るために、“765”をベースとしてグラフィックス性能をさらに強化しています。
発表会では、新しいSnapdragon 865シリーズ、765シリーズのSoCを、通信事業者が認証したモジュールとして端末メーカーに提供することにより、5Gの普及を拡大することを目的とした「Snapdragon Modular Platform」のビジネスを立ち上げる戦略についても触れられました。端末メーカーの開発にかかる全般の負担を可能な限り軽く、シンプルにすることが目的であると、Katouzian氏がビジネスの背景を説明しています。ベライゾンとボーダフォンが、本事業のパートナーとして参加することも伝えられました。
2018年のSnapdragon Tech Summitで発表された、クアルコムの開発による超音波を活用した指紋スキャンセンサー「3D Sonic Sensor」は、サムスンのGalaxy S10シリーズに搭載されました。これを改良して認識エリアを約17倍に広げて、指2本での認証を可能にする「3D Sonic Max」も開発が進んでいます。こちらの詳細についても、技術セッションで踏み込んだ説明がされるものと思われます。
2019年に5Gが最高のスタートを切った
クアルコムのプレジデント、Cristiano Amon氏は、2019年の1年間に5Gが最高のスタートを切っと振り返ります。クアルコムの調査によると、世界中で40を超える通信事業者が5Gのサービスを立ち上げ、世界109カ国・325以上の通信事業者がミリ波、またはSub-6による5G対応の通信設備に投資を始めているとされました。
今後の展望についてAmon氏は「2020年末には世界中で5G対応の端末を利用するユーザーが2億人を超えて、一気にブレイクすると見込んでいる。2021年以降は4Gから5Gへ本格的な移管が世界中で始まるだろう」と述べています。5G対応の端末は今後、スマートフォンに限らず様々なデバイスに広がり、ユースケースの多様化も見込まれるとしました。
またAmon氏は、ダイナミックスペクトラムシェアリング(DSS)が4Gから5Gへの転換期を支える重要な技術であると強調しています。現在、クアルコムはエリクソンとも共同で、DSSに関連する様々なテクノロジーの検証を行っています。エリクソンの通信システムをベースとして、商用ハードウエアとソフトウエア、クアルコムのモデムICチップ“X55”に搭載するモバイルテストデバイスをリファレンスに、FDD-LTEの低帯域を使ったスペクトラムシェアリングを直近で成功させています。
4Gまではそれぞれに異なるスペクトルブロックで展開されてきた無線通信技術が、5Gを普及させる局面ではDSSを活用することによって、スペクトルの再編成など手間と時間のかかるプロセスを経ずに、効率よく5G通信網の拡大が図れることが期待されています。Amon氏のプレゼンテーションではクアルコムがベライゾンと共同で実施する、850MHzの周波数帯を使ったDSSによる5G/4G通信のライブデモも紹介されました。
5G/AI対応のSnapdragonが新しいユーザー体験の可能性を広げる
Amon氏は、最新のSnapdragon SoCを載せた次世代の5G対応スマホが、高性能なAIエンジンも搭載することによって、オンラインとデバイスのAIプラットフォームを強力に結び付ける可能性についても展望を語りました。今後は端末に搭載されるOSを超えて、様々なサービスをクラウドから提供するスーパアプリの躍進も、Snapdragonが促すことになるだろうと述べます。
動画に音楽、ゲームといったエンターテインメントも、5Gと高度なAIエンジンの処理能力によって、大容量のデータを円滑に扱えるようになります。これにより、画質・音質を極めたパッケージコンテンツだけでなく、ユーザー自身がクリエイターとなって製作したコンテンツを、オンラインにアップロードしてシェアする楽しみ方も広がっていくでしょう。Amon氏は、5GとAIがVR・ARのテクノロジーと融合して、新たなユーザー体験を作り出す可能性に期待を寄せています。
特に、スポーツ観戦や音楽ライブの鑑賞を、時間と場所を越えて楽しむモバイルエンターテインメントが、5Gの時代には一般的になるかもしれません。発表会のステージには世界で活躍するDJのSteve Aoki氏がゲストに招かれ、Snapdragonの小さなチップがクリエイターの個性的なアイデアを具現化してくれることをとても頼もしく思うと、熱っぽく語っていました。
Amon氏は、今回のSnapdragon Tech Summitでは、モバイルを超えてPCやXRデバイスにも広がるユーザー体験を様々な角度から紹介したいと、意気込みを語っていました。次々と明かされる発表内容についても、順次お伝えしていきます。