1985年に連載をスタートした北条司による不朽の名作『シティーハンター』がフランスで実写映画化され、『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』(11月29日公開)となっていよいよ日本のスクリーンにお目見えする。
「フランスで実写化」という驚きのプロジェクトだが、完成してみるとその再現度の高さから、原作者の北条も「これぞシティーハンター!」と喜びの声を上げるほど。監督、そして冴羽リョウ役として主演も務めたフィリップ・ラショーはどのような想いを込めて、実写化に挑んだのか。北条と来日したフィリップを直撃し、『シティーハンター』をつくり上げる上で欠かせない“魂”とはなんなのか。そして時代も国境も越える冴羽リョウの魅力とは、一体どんなものなのか。大いに語り合ってもらった。
――『シティーハンター』のフランスでの実写化が叶いました。まず、フランスからオファーが来た時の感想を教えてください。
北条:やっと来たかと。僕としても、『シティーハンター』は、ヨーロッパの中でもフランスが一番人気があるような感覚があったんです。「実写化したいという話があるらしい」という噂を聞いては、「なんだガセか…」ということもあったので(笑)、今回のお話をいただいて少し驚きつつも、やっと来たかと大変うれしかったですね。
フィリップ:フランスでは『シティーハンター』『ドラゴンボール』『キャプテン翼』の3つは大人気なんですよ。子供の頃にテレビで『シティーハンター』のアニメシリーズが放送されていたので、特に僕らの世代には熱烈な『シティーハンター』ファンがたくさんいます。僕も毎日のようにテレビで観ていましたし、フランス語に翻訳されている漫画雑誌も持っていました。子供の頃からのヒーローを実写映画化することが、いわば僕の夢になっていたんです。なんとか実写映画化したいと思い、北条先生の事務所に直筆の手紙を添えてプロットを送ったんです。
――直筆の手紙…! そこにはどんな思いをしたためていたのでしょうか。
フィリップ:『シティーハンター』を実写化するということは、「ビジネスで儲かるから」という思いでやっているのかと感じるかもしれませんが、そうではないということを伝えたいと思いました。「私は真摯に“シティーハンター愛”を持っています」、「“シティーハンター愛”こそが、実写化したい理由です」と手紙に書きました。
北条:フランスからラブレターが来たのは初めてですからね。どうしようと思って(笑)。「ビジネスではない」という言葉は本当にうれしかったし、感激しました。その後、脚本を読ませていただいたんですが、それも「これはシティーハンターだ」と思うものだった。僕がやりたかったアイデアだな! と思うほどでしたよ。
――「これぞ、シティーハンター」と思われたとのことですが、北条先生にとって『シティーハンター』をつくり上げる上で欠かせない“魂”とは、どのようなものだと感じていますか?
北条:これまで「実写化したい」というアイデアをいただくと、アクション80、コメディ10、シリアス10のような割合になっていることが多くて。アクションをこれだけやるなら、もっと人間関係を描いてほしいなと思うこともありました。でも本作には、『シティーハンター』らしい人間関係が見事に描かれていた。リョウと香の関係性もきちんと描かれていたし、リョウはカッコ良くて、香はかわいい。見ているうちに、こちらも笑顔になってきてしまいました。本作を観て「これはシティーハンターじゃない」という人は、相当なへそ曲がりじゃないかな。
フィリップ:すごくうれしいです。僕自身、脚本を書く上では「シティーハンターの魂をなくしたくない」と思っていました。漫画もアニメもすべて見返して感じたのは、リョウと香、そしてファルコンの3人の過去というものがとても大事だということ。彼らが急にそこに現れたキャラクターではなく、どのような人生を生きてきたのかを感じさせる脚本にしたいなと思っていたんです。
北条:やっぱり、実に細かくキャラクター設定が出来上がっているんですよね。これだけの愛を込めて実写化してくれたということは、本当に作家冥利に尽きます。
――監督は、主演としてリョウ役も演じられています。体づくりにも励んだそうですね。
北条:ラショーさんの腕の筋肉なんて、すごいですよね! リョウの体のシルエットとしても完璧。本作のポスターが貼ってあるところを通りかかったときに「この絵、いつ描いたっけ?」と思ったことがあって(笑)。キャラクターのシルエットもそうだし、衣装の色使い、構図もまさに『シティーハンター』です。
フィリップ:8カ月間の食事ダイエットとトレーニングをして、筋肉を8キロつけたんです。それが快感になってしまって、今でも運動を続けているんですよ。やはりリョウを演じる上で一番苦労したのは、香、そしてファルコンとの関係性をきちんと演じることなんです。リョウと香は思い合っているけれど、叶わぬ恋のような関係。リョウとファルコンは、最大にして最高の敵という雰囲気を出したいと思っていました。
――本当に監督の深い“シティーハンター愛”を感じます。時代も国境も越えてリョウが愛され続けている理由を、どのように感じていますか?
北条:女性からも人気のある作品ですが、連載を始めた頃は、こんな男に女性から人気が出るなんて思ってもみなかったですからね。男の本音をさらけ出した作品で、『キャッツ・アイ』で女性から人気が出たけれど、これで離れていくんだろうな…と思っていました(笑)。蓋を開けてみて、驚きましたよ。僕としては、同じことをやっていても仕方がないという思いで臨んだ作品です。リョウは男なら憧れるような存在かもしれないけれど、本当にこんなヤツがいたら女性にとっては許せないでしょうね(笑)。物語で、架空の世界だからこそ、輝いているんだと思います。
フィリップ:僕にとってリョウは、本当に憧れの存在です。フランス人だけでなく、どこに行っても憧れられるような存在だと思いますよ。まず強くて、かっこいい。アクションシーンなんて惚れ惚れしますよね。それでいて愉快。まるでコメディ版のジェームズ・ボンドのようです。真面目な顔をしていたかと思えば、エッチな冗談を言ったりと、リョウの表情は2.5秒くらいの間にパッと切り替わるんです(笑)。そんなところが最高だし、演じる役者としてもワクワクしました。
北条:リョウは、真面目な顔をしている時はたいていエッチなことを考えているんです。そしてボーッとしているように見えるときは、真面目なことを考えている(笑)。
――実写となって登場した『シティーハンター』を観て、刺激となったことはありますか?
北条:フランスの方が演じているからこそ、『シティーハンター』のファンの方々も受け入れやすい世界観のものになっているのかなと思いました。もし日本人の俳優さんが新宿で撮影をしたら、ちょっと違和感のあるものになっていたかもしれません。僕自身が受けた刺激としては、やっぱり『シティーハンター』は若いからこそ描けた作品なんだなと思いました。若い頃に、ああいったヤンチャ坊主を生み出すことができてよかったなと思っています。
フィリップ:全身全霊で挑み、僕たちができる最高のものを目指しましたが、原作をしのぐことは到底できません。やっぱり原作が最高なんです。僕はこれまでにも長編映画を撮っていますが、子供の頃からの夢が叶ったという意味でも、本作はもっとも思い入れのある作品です。そして『シティーハンター』を発見した世代へのオマージュでもあります。僕自身、こうして日本に来て、北条先生と一緒に『シティーハンター』について話をしているなんて、今でもとても信じられない思いです。
1959年3月5日生まれ、福岡県出身。1980年に『週刊少年ジャンプ』に掲載された『おれは男だ!』でデビュー。1981年より『キャッツ・アイ』を連載デビューし、1985年より『シティーハンター』を連載。両作ともにテレビアニメ化もされるなど大ヒットする。2019年には総監督を務める『エンジェルサイン』で、映画監督デビューを果たした。
■フィリップ・ラショー
1980年6月25日生まれ。2010年『ハートブレイカー』に俳優として出演し、2013年にコメディ映画『真夜中のパリでヒャッハー!』で俳優だけでなく、脚本・監督を担当。続編となる『世界の果てまでヒャッハー!』はフランスで大人気となった。2019年2月に本作がフランスで公開となり、観客動員168万 人を超える大ヒットを果たすなど、フランス映画界期待の新世代クリエイター。
(C) Axel Films Production