厚生労働省が11月30日(いい看取り・看取られ)を「人生会議の日」と定めたことをご存じだろうか。誰にでもやってくる"最後の時"。それは突然起こりうるかもしれない。そんな時、自分や家族がどこでどう過ごし、どんな医療を受けたいのか、話しておくことは大切だ。今回は銀座在宅医院の先生に、「人生会議」の方法や注意点を聞いてきた。

  • 11月30日(いい看取り・看取られ)は「人生会議の日」

    11月30日(いい看取り・看取られ)は「人生会議の日」


「人生会議」とは何か

先日、厚生労働省によって、これまでACP(アドバンス・ケア・プランニング)と呼ばれていた取り組みが「人生会議」の愛称で呼ばれることが決まった。これは「もしも」の時のために、自分が望む医療やケアについて前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い共有しておく試みのこと。

また、厚生労働省は昨年より11月30日(いい看取り・看取られ)を「人生会議の日」とし、以後、この活動を促進していくという。親たちが、そして自分たちも元気なうちに何が出来るのか、何をしておけばいいのか。その方法や注意点などについて、24時間365日体制の訪問診療を手がける銀座在宅医院の椎井徹院長と井戸田舞副院長に話を聞いた。

――まずは「人生会議」のコンセプトについて説明いただけますか。

椎井:これまで「事前指示」や「リビング・ウィル」といった、延命治療に関わることについて自分の考えを表明する方法はありました。一方でACPは、それに限定したものではなく、自分の望む生き方を自分自身で確認し、家族や医療者等と共有する過程のことです。そして、ACPを「人生会議」と親しみやすい呼び名を付けることで、より考えやすく、話しやすくなるきっかけにしよう、という取り組みだと思います。

井戸田:誰でもいつか寿命を迎えることは避けて通れません。元気でしっかり意見が言えるうちに一人ひとりが、そしてみんなで考えませんかという提案ですね。突然の事故や、持病が徐々に進行すること、年齢を重ねていく中でも、体の自由が利かなくなったり、意思をうまく伝えられなくなったりすることは誰にでも訪れる可能性があります。それまでに自分が受けたい(受けたくない)医療やケアを想像して、準備できること等をある程度整理しておく機会があることは、自分らしく生きていく上でも安心になると思います。

高齢者だけでなく若者も考えるべき

――その意味では、対象となるのは高齢者だけではなさそうですね。

井戸田:そう思います。若い方でも、まずはこの言葉や取り組みを知って、そこから祖父母や両親はどうだろう、じゃあ自分はどうだろう、と考えは広がりそうですよね。特に高齢者の方は、若い世代よりも病気をする確率が高くなりますから、いざという時に自分や周りが後悔しないように備えておくことをお勧めしたいです。

――とはいえ、実際にはすんなり受け入れられるものなのでしょうか。

椎井:そこはやはり個人差があります。若い方でも日頃から考えられている人もいますし、逆に高齢者の方でも「まだ先のこと」「縁起でもない」と避けてきて、当事者になり戸惑ってしまう、という例もあると思います。

――いずれにせよ、それぞれがそれぞれの立場で考えておくことが重要であると。

井戸田:私たちが関わる方々で「最期は楽に、眠るように逝きたい」という考えを持たれている方は多いと感じます。しかし、実際にそこに至る過程や段階は誰にでも訪れることなので、「せめてこうしたい」「これだけはしたくない」という医療行為やケアを考えることは大切です。

「人生会議」はいつ、どう始めるべきか

――では、具体的にはいつから「人生会議」を始めればいいですか?

椎井:広い意味では年齢に関係なくいつからでも始めて良いと思います。少なくとも「自分には関係ない」と思わないことも第一歩でしょう。

――その際、注意しておくべき点はありますか?

椎井:「会議」といっても形式ばる必要はありません。まずは自分自身で考えたことを自分に関わる周りの方と話して、共有する。1対1の対話から始めても良いんです。家族と話したことを主治医やケアチームと共有するなど、1回ですべてを済ませようと思わないで、必要に応じて何度も話していきましょう。ただ、「いざという時にも役立つように」ということからも、自分がわかっていれば良いのではなく、大事な場面で自分らしさが尊重され、周りが混乱しないように備えていくことが大切です。

――と、いいますと?

椎井:特に医療の現場では、コミュニケーションが取れないほど重篤な状態の患者さんを目の前にした時、その方の望む(望まない)医療行為の内容が判明しなければ出来る限り救命する方針で対応されます。元気になられる方、救命された後に障害等が残る方、救命できない方もいます。もちろん、本人や家族が満足されることがほとんどでしょうが、「あの時自分が話せたら、こうしてほしかった」と後に本人から打ち明けられたり、遺品を整理していて「自分の親はこんな風に考えていたんだ」とわかるものが出てきて後悔されたり、という御子息の話を伺うこともあります。

――なんだかコミュニケーションそのものの本質を問われているような気がしてきました。

井戸田:このテーマに限らず、お互いの間に相手を思う気持ちや信頼関係がないと、話し合いといっても一方通行なものになってしまいますよね。いくら重要なことであっても、初対面の人からいきなり「大事なことだから今、全部答えてください」と言われても困惑します。日頃から自分と家族で話をして、もっと知りたいことや答えが出ないようなことは、近くにいる医療や介護の専門家を交えましょう。話しやすくなったり、アドバイスをもらえたりすることもあるでしょうから。そしてこういう過程が、「自分らしさ」や「大切な人への思い」を生き方に反映させられるチャンスにもなるのではないかと思います。


確かに、今すぐ対応することは難しいかもしれないが、「その時」はいつでも、そして誰にでもやって来る。自分と近しい人がどういう最期を迎えたいのか、そして自分がどういう最期を迎えたいのか、この「人生会議」という言葉とともにまずは一度、考えてみることからスタートしてはいかがだろう。

■銀座在宅醫院:椎井 徹 院長/井戸田 舞 副院長

銀座在宅醫院は、訪問診療・往診・在宅緩和ケアを行っている在宅医療に特化したクリニック。院長の椎井先生は病院や診療所での勤務を経て、都内在宅療養支援診療所にて訪問診療の専門性を学び、2008年より中央区にて診療所管理者に。2016年3月に銀座在宅醫院を開院した。