ワーク・ライフバランスの小室淑恵氏は、小林製薬が11月に開催した「疲労への新しいアプローチ」に関するメディアセミナーに登壇し、これからの働き方について講演を行った。
同セミナーでは小林製薬の新製品「漢方ヒロレス」が発表されたほか、北里大学東洋医学総合研究所による漢方を利用した疲労ケアも語られた。
改めて考える「ワークライフ・バランスとは?」
「働き方改革」や「ワークライフバランス」といった社会変革の先駆者として知られ、内閣府や経済産業省等で複数の公務を兼任している小室淑恵氏。のべ1,000社を超える企業や組織にワーク・ライフバランスに関するコンサルティングを提供している。
小室氏はまず、「やりがちな企業の過ち」の例として、ワーク・ファミリー・バランス(以下、WFB)と、ワーク・ライフ・バランス(以下、WLB)を挙げる。WFBは「家庭のある人や事情のある人に配慮する」という考え方だが、このやり方は一部の人にしわ寄せが行き、独身者との間に対立構造を作ってしまうという。
一方でWLBは、全従業員を対象として、全体的な仕事そのものの考えを見直すやり方だ。「すべての人にライフはある」という考え方で、育児や介護といったわかりやすい例だけでなく、副業や自己研鑽なども含めた多様性を認めようというもの。
長時間労働による業務の属人化を防ぐとともに、短い時間でバトンを渡していくような働き方を実現し「多様な人たちに個別・具体的に対応することで組織を強くする」=「イノベーション」を起こすことが、いま企業には求められている。
睡眠負債と働き方改革の関係性
それでは、従業員が短い時間の中でパフォーマンスを発揮するにはどうしたらよいのだろうか。小室氏は1例として、昨今話題になっている「睡眠負債」について述べる。
慶應義塾大学の島津明人教授によると「人間の能が集中力を発揮できるのは朝目覚めてから13時間以内で、集中力の切れた脳は酒気帯びと同程度の、さらに起床後15時間を過ぎた脳は酒酔い運転と同じくらいの集中力しか保てない」という。
また、ペンシルバニア大学医学部研究チームによると、欧州でスポーツ選手の睡眠時間を1時間多く取らせた結果、それだけでパフォーマンスが劇的に向上したそうだ。働き方改革において、睡眠負債の返済に取り組む意味は非常に大きいといえる。
組織の成功のカギは「関係の質」向上
小室氏はコンサルティングによって実際に働き方改革を実現したいくつかの事例を紹介した後、マサチューセッツ工科大学の教授であるダニエル・キム氏が提唱している「組織の成功循環モデル」について説明する。
組織の循環モデルには、グッドサイクルとバッドサイクルの2つがある。企業がやりがちなのは"どれだけ売れたか"、"どんな成果が出たか"という「結果の質」を求めてしまうこと。「結果の質」を要求した結果、成果が上がらないと対立や押し付けが始まってしまい「関係の質」が悪化。
仕事が面白くないので「思考の質」が下がり、積極的な姿勢が減り「行動の質」も低下。成果はさらに低迷し「結果の質」が悪くなり続けてしまうというバッドサイクルに陥る。
一方、「関係の質」に注目するところから始めるとグッドサイクルになる。従業員がお互いを尊重し一緒に考えられる環境を整え「関係の質」が良くなれば、新たな気づきが生まれ仕事が面白くなると「思考の質」があがる。
自発的な行動が増え「行動の質」が上がり、「結果の質」も向上し成果が得られると、「関係の質」はさらに良くなり、信頼関係はより高まるというわけだ。
「『関係の質』を良くしていくうえで重要なのが、"不機嫌な人がいない職場"を作ることです。不機嫌というのは、個人の性格によるものよりも『疲れ』の影響が非常に大きいと思います。私どものコンサルティングでも、疲れを職場に持ち寄ることによって職場の関係の質が最悪になっている会社が多く、疲れが日本の生産性を大変落としていると感じていました」(小室氏)。
多様化した“疲れ”を漢方で癒やす
このような現代人の疲れに対する小林製薬の取り組みの1つが、「漢方ヒロレス」だ。小林製薬の岡田友記氏は、厚生労働省から提唱されている労働改革は「働き方改革」だけではなく、ともに「休み方改革」も提唱されていると言及。
一方で現代人は休みをとっても疲れており、“休息は量ではなく質が大事”と述べた。そのうえで、休息の質が上がらない一因として「現代人の疲れの多様化」という分析を挙げる。
東洋医学に基づく漢方診療を行っている国内有数の施設、北里大学東洋医学総合研究所 所長 小田口浩氏は、漢方の基礎知識として煎じ薬と市販のエキス剤の違いをレクチャーした。生薬を煎じた本来の漢方薬である煎じ薬を「高品質で効果が高いが、高度な診断能力が必要」と説明、濃縮還元したエキス剤をインスタントにたとえ「煎じる手間なく患者さんが気軽に使うことができる」と説明する。
同研究所の川鍋伊晃氏は、東洋医学からみる現代人特有の疲れについて説明。ライフスタイルや社会の変化によって疲労の形が変わってきており、栄養不足や感染症など身体的な要因によって疲労を引き起こしていた昔に比べ、現代では精神障害や長寿命化、生活習慣など、環境や精神的要因で疲労が蓄積されているという。
そのうえで陰陽と虚実、気血水という漢方の考え方について解説するとともに、中庸のバランスを保つことの重要性を説き、舌やツボによるセルフケアの方法や、疲労タイプ別の漢方薬の使い分けについてまとめた。