あの“サザエさん一家”の20年後を描いた女優・天海祐希主演のフジテレビ系スペシャルドラマ『磯野家の人々~20年後のサザエさん~』が、きょう24日(20:00~21:54)に放送される。演出を担当するのは、『ロングバケーション』『ショムニ』『HERO』など、フジを代表する大人気ドラマを手掛けてきたほか、今年4月期には窪田正孝主演の『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』もヒットへ導いた鈴木雅之監督だ。
誰もが知ってる明るく愉快な国民的アニメの20年後を実写で描く…この壮大なテーマに、鈴木監督はどのように挑んだのか――。
■アニメよりファンタジックに展開
――“20年後のサザエさん”をやると聞いたときはどう思いましたか?
「えー!なんで俺にサザエさんなの?」って(笑)。国民的アニメの実写化なので、最初聞いた時は少し動揺しましたが、「20年後なんですよ」っていうのを聞いて面白いなって思いました。
だけど脚本を作っていくとき、最初はちょっと手探りでしたね。これまで50年も放送している歴史ある『サザエさん』なので、暗黙の何かがあるじゃないですか。それを汚しちゃいけないし、素材だけもらって何でも自由にやっていいってわけでもないので、『サザエさん』として大事にしていることをやろうと思いました。悪人が出てこなくて、身近にいるような人たちが小さなことで右往左往しているというのが『サザエさん』だとしたら、その中でどこまで何をやれるのかっていうことを、最初に考えたんです。
――監督は『HERO』や『ショムニ』『ラジエーションハウス』など群像劇が得意なので、『サザエさん』はやりやすい題材だったのでしょうか?
でも、『サザエさん』はホームドラマだよね。ホームドラマは『天才柳沢教授の生活』(02年、松本幸四郎=現・松本白鸚主演)以来で、これまでそれしかやってないんですよ。
ホームドラマが描く家族って、はじめから絆を持っている。どんなにひどいことを言ったって家族だし、家族でなくなることはないじゃないですか。そういう圧倒的なベースがある。でも、僕がいつもやっている群像劇というのは、いつでもバラバラになれる人たちだけど、何かによって1つにまとまるということが多いので、ある意味逆と言えば逆。これまで作ってきた群像劇とはちょっとルールが違うなと思いましたね。
――監督の作品は画面作りがいつも特徴的ですが、今回はどんなことを意識したのですか?
20年経った設定ですけど、『サザエさん』の看板である、ちゃぶ台があって波平さんがいてフネさんがいて、子供たちが手前に座っていて横を向かないと顔が分からないとか、そういう『サザエさん』らしい画をベースにしようと思いました。
あと、今回は20年後なので、みんな大人やおじいちゃんになっていたりするんだけど、どっかで根っこはあの『サザエさん』が延びてきているんだよという風にするためには、いくつかそれを忍ばせるものを置いときたいなと思ったんですね。その1つがちゃぶ台を囲むという配置や構図だったんです。
――今回の作品は幻の登場人物であるタラちゃんの妹 “ヒトデちゃん”が登場しているなど原作をよく研究されていますよね。お話はどのように作っていったのでしょうか?
『サザエさん』って事件が起こらないじゃないですか。戸棚にあるケーキが1個なくなっただけで10分の物語ができるし、本当の悪人が出てこない。だから、これまでの物語作りのいろんな武器を1回置いて、この家族の本当に日常的にあること、誰にでも起こり得ること、他愛もないことをベースに作っていこうと思いました。それは、ものすごくチャレンジングでしたね。
あとアニメの『サザエさん』を考えると、日曜日の6時半に安心して、テレビの前に座って楽しく見ていられる作品だけど、今回のドラマはそれよりもうちょっと起伏を作って、だんだんファンタジックに展開していくというものをやりたいなと思いました。
■サザエさんだけは元気を保ってもらう
――20年後という設定ですが、今回描く時代が昭和なのか、平成なのか、令和なのか…いつなのかが気になるのですが…。
それはね、現代なんですけど、ノスタルジックにしようとも思いました。だから会社とかは現代なんですよ、それがだんだん地元に戻ってきて、磯野家に近づくにしたがってノスタルジックになっていくという、そういう風に作ろうかなと思いました。
――予告を見ると、アニメのような元気いっぱい!というような感じではないですよね。
やっぱりアニメの明るさに、時代を経てちょっと切ない、寂しさも持ったお話にしたいなと思って。だけど最後には家族というもののおかげで元気に変わっていくという物語になっていますよ。
――タラちゃんが就職活動でつまずいているという設定を見て、すごくリアルだなと思いました。
『サザエさん』って他愛もないお話だけど、そういうのってありそうじゃないですか。時代観もあるかもしれないけれど、どこであってもおかしくない出来事を取り上げて物語にしているので。だから今回の作品も、どこの家族にあってもおかしくないことや、誰にでも起こりそうなことを取り上げていって物語を作りました。アニメにはない、ちょっと切ない部分を故意に入れていこうと。『サザエさん』なのにこんなふうに始まるんだ…とか、こんな切ない感じになるのか…とか、全く違うわけじゃないけど、そういうところを意識しています。
だけど、天海さんだけはね、あの元気なサザエさんというのは守ってもらっています。タラちゃんとかすごく悩むんだけれど、サザエさんだけは元気を保ってもらって、あの明るさがあってみんなが元気を取り戻していくというイメージです。天海さんはサザエという“ゴジラ”なんですよ。
――監督は以前のインタビューでも、『ショムニ』の坪井千夏(江角マキコ)も、『HERO』の久利生公平(木村拓哉)も“ゴジラ”だとおっしゃっていましたよね。だからサザエさんもゴジラだとおっしゃったので僕の中でつながりました。サザエさんは監督の作品の中でも最強のゴジラですよね(笑)
昔は、連ドラでも何にしても、何も知らない奴が何かを知っていくとか、弱い人間が強くなっていくとか、そういう主人公が多かったんだけど、ある時からゴジラが主人公になっていくんですね。だから『ショムニ』も『HERO』もそうだけど、あの人たちはゴジラなんです。だって変わらないんだもの。確固たるものを持っている。でもそれが主人公なんだって。それを誰かがゴジラって言っていて…だから僕が言い始めたわけじゃないんですよ(笑)