NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)で、1964年開催の東京オリンピックに貢献した東京都知事・東龍太郎役を演じている松重豊にインタビュー。「孤独のグルメ」シリーズで人気の松重は、映画初主演作『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』(19)に続き、本作の東役でも、コミカルさと重厚さを織り交ぜた好演ぶりで、絶妙な存在感を発揮している。
阿部サダヲ演じる田畑政治の後押しで東京都知事になった東だったが、自由民主党幹事長の川島正次郎(浅野忠信)の策略により、田畑がまさかの失脚に追い込まれてしまう。果たして東は、どんな行動を取って行くのか?
――ようやく後半で東の見せ場が出てきますが、これまで『いだてん』をどんなふうに観てきましたか?
長い待ち時間だったので、どっぷりと視聴者目線になってしまいました(笑)。すごい感情移入をしてしまい、役所広司さんも嘉納治五郎にしか見えなくて、現場でお会いした時に緊張してしまったくらいです(笑)。
――松重さんは、『いだてん』の脚本を読んだ時、どんな感想を持ちましたか?
関係者の資料映像が残っているという歴史に基づいた大河ドラマですが、僕は宮藤官九郎さんのフィクションとして受け止めました。
――東との関係性についてはどう思いましたか?
僕は東京都知事という役柄ですが、まーちゃん(田畑政治)は、「体協」(大日本体育協会)の理事であり、どうやらオリンピックを動かしていたフィクサーらしいと。東さんは、人のいいおじさんという感じですが、まーちゃんは危うい人で、発言もとんでもないし、今この時代に生きていたら潰される人です。でも、実際にそういう人が時代を動かしてきたわけで、東さんとも同志として結びついていたのかなと。東京都知事という役職自体も、まーちゃんに熱意にうたれて、覚悟を決めてなったわけですし。
本作がオリンピックというキーワードで戦前戦中戦後を描くヒューマンドラマだとすると、田畑政治は稀代のカリスマで、インチキな人かもしれないというギリギリな感じの印象です。それを非常に面白い人間として描いているところが、宮藤さんの脚本の魅力です。
――実際、阿部さんが演じる田畑はとてもチャーミングですね。
まーちゃんが、何を言っているのかがわからないほど早口だったことは、史実にもあったそうですが、その熱量がすごいです。後半では、年齢も50~60歳になっていきますが、唾を飛ばしながら言い争っている姿がおもしろくて、そこは見事に“宮藤メソッド”になっています。言葉の力がすごい。僕も演じていて非常にやりやすかったし、痛快でした。
――“宮藤メソッド”の脚本は、どういう点がやりやすいのでしょうか?
台詞が覚えやすいです。『いだてん』は、歌番組ができるほど、びっくりするくらいミュージシャンの方々がたくさん出ていますが、脚本の宮藤さんもミュージシャンの1人だし、やはり日本語のリズムをものすごく意識されている作家さんじゃないかなと。
たとえば、山田太一さんの脚本がそうでしたが、歴史用語などの大変な台詞であっても、宮藤さんの体を通して書かれたしゃべり言葉なので、言いやすいんです。宮藤さんの脚本だと、水のように体が吸収するので、驚きました。
――まーちゃんが失脚させられるくだりは、かなり切ないですね。
川島さんの策略や、オリンピック招致委員会と政府との政治問題に、インドネシアとイスラエルの国際問題と、いろんなものが集中して振ってきたので、結局はまーちゃんを切らざるを得ない展開となってしまいました。
――東都知事はとてもいい人ですから、押し切られてしまいますね。
「人柄がいい」といろいろな資料に書かれていますが、僕はそれがすべての魅力だとは思っていなくて。東は東大ボート部の出身で、学者肌で、一人でなにかをやっているほうが好きな方だったのかなと。人間的には魅力的だし本当に愛すべき人ですが、都知事という重圧は相当大きかったのではないでしょうか。
――いままでの大河ドラマとは違う『いだてん』の魅力はどんなところでしょうか?
やはり宮藤さんの脚本の軽さがいいですね。宮藤さんならではの言葉のタッチや世界観がとても新鮮で、僕はやっていてすごく楽しかったです。
松重豊(まつしげ・ゆたか)
1963年生まれ、福岡県出身の俳優。蜷川スタジオを経て、1992年、黒沢清監督『地獄の警備員』で映画デビュー。以降、舞台、ドラマ、映画と幅広く活躍。『しゃべれども しゃべれども』(07)で第62回毎日映画コンクール男優助演賞、『ディア・ドクター』(09)で第31回ヨコハマ映画祭助演男優賞を受賞。テレビドラマでは、「孤独のグルメ」シリーズ(12~、テレビ東京)、「アンナチュラル」(18、TBS)、「パーフェクトワールド」(19、フジテレビ)、連続ドラマW「悪党~加害者追跡調査~」(19、WOWOW)などに出演
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