マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、12月の米国のイベントと、株価の動きについて取り上げます。

  • 投資家が12月中旬に向けて警戒すべき理由(写真:マイナビニュース)

    投資家が12月中旬に向けて警戒すべき理由

足もとの金融市場では、主要な米株価指数が最高値を更新。また、「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数はここ数週間、過去1年間の最低水準近辺で推移するなど、市場の楽観ムードの高まりがうかがえます。ただ、それだけに米中通商交渉の物別れなど、ネガティブ・サプライズが出れば、相場は大きく反応しそうです。

一方、外為市場では相場が膠着気味です。とりわけ、米ドル円は三角持ち合いの様相を呈しており、エネルギーが蓄積されている可能性があります。何らかの相場材料でエネルギーが噴出するかもしれません。

米国では、11月28日の感謝祭前後からホリデーシーズンに入るため、市場の流動性は低くなりがちです。そうしたなかでは、相場の動きが増幅される可能性もあり、投資家はとりわけ警戒が必要となりそうです。

以下に注目のイベントを概観しておきましょう。

12月10~11日:米FOMC

米国のFRB(中央銀行)が金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)が開催されます。前回10月末の会合では利上げが決定されるとともに、しばらく様子見をする意向が表明されました。したがって、12月の会合では金融政策の現状維持が決定されそうです。そうであれば、市場は既に織り込み済みです。

注目は、FOMC参加者の政策金利見通しを示す「ドット・プロット」と呼ばれる資料です。3カ月ごとに発表されますが、9月と同様であれば利下げサイクルの打ち止めが示唆されることになります。また、FOMC内部では投資家の過度なリスクテイクが懸念され始めており、会合後の議長の記者会見などで何らかの警鐘が鳴らされるかもしれません。市場はそれらを嫌気するでしょう。

12月12日:英総選挙

世論調査によれば、与党の保守党が最大野党の労働党を大きくリードしており、よほどのことがない限り、保守党は第一党になりそうです。ただ、ジョンソン英首相とEU(欧州連合)が合意した協定案が成立するためには、保守党が過半数の議席を獲得するか、過半数に満たない場合は他政党と協力する必要があります。

仮に、総選挙の結果、協定案成立の見通しが立たなければ、2020年1月31日の「秩序あるブレグジット(英国のEU離脱)」も怪しくなります。英ポンドや英資産にとって大きな打撃になりそうです。12日には、ECB(欧州中央銀行)のラガルド新総裁が初めて仕切る政策委員会があり、直後の会見で総裁が何を語るかも注目されます。

12月15日:対中国関税発動

現在進行中の米中通商協議で合意に至らなければ、米国が対中国関税の第4弾を発動する予定です(1部は9月に発動済み)。その前に合意に達して関税の発動が見送られる、さらには既に発動された関税が撤回される(少なくとも撤回の工程表が示される)などの事態となれば、世界経済や金融市場を覆っていた貿易摩擦の懸念が雲散して企業や投資家のマインドは相当に明るくなりそうです。

逆に、米中の交渉が物別れに終わって米国が関税を発動し、中国が報復に動くなら、市場は相当に嫌気するでしょう。合意はないけど、関税発動は先送りするという市場のヤキモキが続きそうな結果もありえます。

12月中の米議会動向

米議会の下院ではトランプ大統領を弾劾するかどうかの審議が続いています。下院が弾劾動議を可決すれば、年明け早々にも上院で弾劾裁判が開始されます。共和党が過半数の議席を握る上院で有罪のための3分の2以上の賛成が得られる可能性は極めて低いですが、その他の議会審議が疎かになるおそれはあります。

年内だけをみても、議会では12月20日に暫定予算が失効した後の予算措置、さらにはNAFTA(北米自由貿易)に代わるUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の審議が控えています。議会がそれらの対応に失敗すれば、市場が混乱する可能性はあるでしょう。

上述したように、12月中旬に向けて注目イベントが目白押しです。市場がある程度想定する結果であれば、反応は限定的でしょう。しかし、何らかのサプライズが起きる可能性もあり、警戒は怠れません。