開発担当者が「万人に受け入れられるカメラではない」と言い切る、異色のマニア向けミラーレス「X-Pro3」が富士フイルムから発表されました。背面液晶が内側に隠されていて通常は見えない状態になっているなど、扱いやすさよりもかつてのフィルムカメラを操る楽しさを追求した点が目を引きます。シリーズの初代モデル「X-Pro1」に一目惚れして即買いした経験を持つ大浦カメラマンに、X-Pro3を触って感じた思いを綴ってもらいました。
X-Pro1は1年で手放したが、のちにXシリーズにハマる
話題の高性能ミラーレス「X-Pro3」がいよいよ11月末から販売開始となります。X-Proシリーズ伝統の“とがった”コンセプトを継承しており、熱心な写真ファンを中心に大いに注目を集めています。初代モデル「X-Pro1」を発売日に入手して愛用していた私も、その進化(メーカーでは“深化”と言っているようです)に驚かされるばかりです。
富士フイルム初のミラーレスとして、8年近く前の2012年1月に姿を現したX-Pro1は、レンジファインダーカメラ風の味のあるデザイン、OVFとEVFを切り替えて表示できるファインダー、高画質を追求した絵作りや交換レンズのラインアップなど、熱の入ったコンセプトの製品でした。一目惚れした私は、発売日に手に入れたほどでした。
生成される画像は確かに素晴らしく、カメラ誌ではない一般誌の編集者からも「いい絵ですね」とほめられたことをよく覚えています。
ただし、操作性に関してはメニュー関連も含めていただけないところが多々あり、執筆したレビュー記事で手厳しく書き連ねたこともありました。その後、このレビューを見たのではないかと思えるぐらいの大きなファームアップがあり、それなりに使い勝手は向上しました。しかしながら、まだまだ操作性が完全でなかったことに加え、当時は仕事で使えそうなズームレンズがそろってなかったことなどもあり、結局1年ほどで手放してしまいました。
2代目となる「X-Pro2」(2016年3月発売)はレビューでしばらくの間使用し、フォーカスレバーの搭載をはじめ操作感がよくなったことに驚かされました。当時、まだ発表されていなかった速写モデル「X-T2」もX-Pro2に準じた仕様になるだろうと目論んでいたこともあり、自身では購入しませんでした。その後、予想通りに登場したX-T2は、仕事で使うズームレンズとともに購入し、現在は「X-H1」「X-T3」「X-E3」、そして中判デジタルの「GFX50S」と、富士フイルムのミラーレスを買いそろえるに至っています。
ポストビューが見られる“抜け道”に拍子抜け
そんな私のX-Pro3に対する第一印象は、やはり背面液晶の斬新さです。チルト式なのですが、液晶面がカメラ側を向いており、閉じた状態、つまり通常の使い方では撮影した画像をすぐに見ることはできません。液晶を積極的に見せようとしない造りは、このカメラの性格を端的に表している部分といえるでしょう。
ただし、撮影直後のポストビューがまったく見られないわけではありません。EVFでは当然見られますし、OVFの使用時には画面の右隅に表示することも可能としています。標準設定こそ、どちらもポストビューが見られない設定になっていますが、背面液晶を見せない工夫が施されていることを考えると、“抜け道”が用意されているのはちょっと拍子抜けしてしまうところでもあります。
新設計のハイブリッドビューファインダーもより魅力的になりました。EVFは、よりコントラストの高い有機ELを用い、解像度は369万ドットと高精細に。さらにフレームレートは100fpsを実現するなど、スゴいスペックとなっています。OVFはズームが省略されましたが、その分よりクリアになるとともに、ディストーションもよく抑えられています。
ただ、X-ProシリーズのOVFでいつも気になってしまうのが、シャッターのレリーズタイムラグです。たとえOVFでも、シャッター幕は常時開いた状態としており、シャッターを切った瞬間にシャッター幕がいったん閉じ、その後露光のために開く仕組みです。シャッター幕がいったん閉じる時間がタイムラグの大きな要因となるわけですが、それではせっかくのOVFのメリットが生かせないように思えてなりません。
今回の発表では、「シャッター/レリーズタイムラグ:0.02/0.045sec.」と発表されていますが、それがフルメカニカルシャッターの場合なのか、電子シャッターなのか、あるいは電子先幕+メカニカルシャッターなのか分かりかねるところがあり、今後の検証を必要とするところです。
使い込むごとに味の出る外装に心躍る
X-Pro3は、外装の違いにより3種類のカラーバリエーションが用意され、トップカバーとボトムカバーはチタン製となります。高硬度処理の施された「DURA Black」と「DURA Silver」が注目されていますが、私個人としては「Black」に注目しています。オーソドックスなペイントタイプですが、使い込めば使い込むほど塗装が剥げて地金が見え出し、それがカメラの貫禄となるからです。
マニュアルフォーカスのフィルムカメラ全盛時代、ブラック塗装の一眼レフカメラの多くは塗装がはげると金色っぽい真鍮の地金が見えましたが、それを彷彿させます。このカメラは素材がチタンなので、剥げるとその部分が銀色っぽくなるそうですが、使い込む楽しさがさらに増すものと思います。Black塗装のモデルは、DURA BlackやDURA Silverに比べると3万円ほど安いのも評価したい部分です。
Xシリーズの特徴であるフィルムシミュレーションには趣のある表現ができる「Classic Neg.」が加わり、新たに8/16bitのTIFF出力に対応し、明瞭度補正機能を搭載するなど、最新ミラーレスカメラとして表現の幅が格段に広がっているのも興味深い部分です。
もともと、富士フイルムのカメラは撮影者の意図とする表現をカメラ内で完結させようとするつくりが見受けられましたが、X-Pro3はその試みが一層強くなったように思えます。メニューを見てみると、従来と同様に使い勝手の悪い部分もいまだ残っているようですが、そのとがった個性と多彩な機能から、玄人志向のミラーレスとして熱心な写真ファンのハートをとらえそうです。