VAIOが15.6型ディスプレイ搭載ノートPCの新製品として「VAIO S15」を発表したのは、既報の通りですが、VAIO関係者はメディア向けの新製品説明会で「VAIOとしては、15.6型ディスプレイ搭載のA4サイズノートPCの行く末に対してとても迷っている」という思いを吐露していました。
VAIO S15の未来はどっちだ
15.6型ディスプレイを搭載したA4ノートPCは、個人向けにしても法人向けにしても、ノートPC市場の主流としてあり続けてきました。その理由には低価格モデルが多くて購入しやすいことや、ディスプレイとキーボードが大きくて使いやすく、光学ドライブまで内蔵するので1台あれば事足り、かつ、デスクトップPCと比べて場所を取らず(屋内ならば)使う場所も選ばない手軽さなどがありました。
一方で、1キロ前後のモバイルノートPCのラインアップにおいて、最近では、大画面ディスプレイを搭載しながらもボディサイスをコンパクトに抑えて軽量化も果たしたモデルが登場しているほか、低価格モデルでは価格を抑えるために限られたスペックにしたために、処理速度が十分でなく使っていて不満を感じるユーザーも多くなっています。そのようなユーザーの需要がスマートフォンやタブレットに移行しつつあることも、低価格ノートPC市場に少なからず影響を及ぼしています。
このような15.6型ディスプレイ搭載A4サイズノートPCを取り巻く環境の変化において、VAIO S15はどのような方向性で臨むべきか。
VAIOは目指す姿を模索すべく、VAIOの開発当事者と製品企画担当者、そして、IT媒体で活動しているテクニカルライターや媒体編集者が参加した座談会を実施しました。この記事では、その中でVAIO担当者たちが示した「将来に求められるA4サイズノートPCの姿」を紹介しましょう。
A4ノートPCに光学ドライブ、いる?
座談会に参加したVAIOスタッフは、同社PC事業本部PCビジネス統括部デバイスビジネス2GPグループ長でVAIO製品の企画開発統括を務める巣山剛志氏、同事業部エンジニアリング統括部デバイスエンジニアリングGP電気設計課の土居原宏氏、そして、土居原氏と同じGP所属でメカ設計課の倉知英明氏です。土居原氏は、エレクトリカルプロジェクトリーダーを、倉知氏はメカニカルプロジェクトリーダーを担当しています。また、座談会の司会をPCビジネス統括部事業企画グループ グループ長の黒崎大輔氏が務めました。
座談会の冒頭では、黒崎氏から「VAIOの発表会で一番盛り上がるのが(記者からの)質問タイム。いただく意見は大変貴重。その部分だけを切り取ったイベントができないものかと考えて今回実施することになった」とイベントを設けた理由を説明しました。
座談会は、テーマを決めてそれについて参加者が意見を述べていくという形式で進みます。最初に挙がったテーマは「(A4サイズノートPCに)光学ドライブは必要?」で、VAIOから従来のVAIO S15ユーザーを対象に調べたアンケートの結果として、本体に内蔵する光学ドライブの使用頻度や購入における検討で光学ドライブ内蔵の有無が選択に影響下かどうかの結果を示しています。
そのアンケート結果によると、回答の56.5%は「時々使用する」、17.2%が「頻繁に使用する」と答えています。「全く使用しない」「ほぼ使用しない」は合わせても18.6%です。また、購入時の検討において「搭載していることが必須」と答えたのが49.4%、「搭載していた方が良く、搭載していなければ購入していない可能性が高い」と答えたのが20.6%と多数だったのに対し、搭載しなくても購入するのは3割に過ぎません。
座談会参加者は全員が不要との意見でした。ユーザーからは「家にあるDVDが見られる機会はこれ(ノートPC)だけ」「友人から回ってくるデータがDVD ROM」という意見が上がってきます。特に興味深いのが「学校行事で撮影した画像を友人で共有する場合、クラウドの上げるのはできないけれど、DVD-ROMに複製して配るのは誰でもできる」という意見でした。それに対して参加者からは「1年に数回程度の利用なら外付けドライブでもいいではないか」という意見も出ています。
A4ノートに「モビリティ」、必要?
次のテーマは「A4ノートにモビリティは必要?」です。VAIOが実施したユーザーアンケートによるとA4サイズノートPCを毎日もしくは週に数回外に持ち出すユーザーは、回答の4.6%に過ぎません。月に数度というユーザーを含めての回答の4分の1です。一方で、屋内で持ち運びながら複数の場所で使うというユーザーでみると、毎日もしくは週に数回というのは回答全体の45.8%、月に数回以下というユーザーを含めると全体の7割強が屋内では持ち歩いているという結果でした。
これを受けて黒崎氏は「屋内移動は多いようなので、A4ノートPCでもモビリティは必要」とコメント。ただ、搭載するディスプレイのサイズごとに平均値を出したノートPCの平均重量において、14型ノートPCまでは1キロ前半に収まっているのに対して、15型ノートPCでは平均重量が2キロを超えているというデータも紹介されました。
モビリティが必要かどうか。これは座談会参加者でも意見が分かれました。不要と考える参加者からは「大きいPCは軽くなってもバックに入りにくくて持ち歩きが不便」「バッテリーを重くして1日中充電なしで使えるように。省電力を考えることなく処理能力も高く」という意見が上がりました。
一方、必要とする意見では、「軽量の大画面ノートPCを一度使うとユーザーの世界が変わる」「大画面ノートPCは生産性が確実に上がる」と主張しています。また、重さ2キロ前後のゲーミングノートPCが「高い処理能力を持ち運べるノートPCとして需要が高まっている」という意見も出されました。
VAIOとしては先に投入したVAIO SX14において、15.6型ノートPCからのリプレース(置き換え)を想定しているといいます。
これに対して、座談会参加者からは「(14型は)13.3型ノートPCからのリプレースが現実的ではないか」という意見が示されました。中には「持ち運べるなら24型ノートPCでもいい」という斬新な意見も。これは、Windowsが想定しているデフォルト解像度が「96dpiで24型ディスプレイ」という理由からで、この意見を述べた参加者は「17型以下のディスプレイを搭載するノートPCで1,920×1,200ドットを超える解像度は意味がない」「1キロ以下の24型ディスプレイがあったら、それを持ち歩くのでもいい」といいます。
また、ディスプレイの表示方向についても、「縦長方向に表示できるデバイスも求められているのでは? 開発現場では現時点でも需要が高い」という提案がありました。
未来のA4ノートPC、どうなる?
最後に挙がったテーマが「あなたが欲しくなる未来のA4ノートPCを教えてください」というもの。これは、座談会参加者全員に、現在の技術水準は別にして自分が欲しいと思うA4ノートPCを紙に自由に書いてもらうという形でした。
参加者からは、本体では処理能力を必要としないシンクライアント的なノートPCや、デスクトップPC向けキーボードと小型のディスプレイを採用した持ち運び可能なサイズのPC、物理キーボードは省きキーを机上に投影するスタイルのPC、モジュール形式で必要なパーツとユニットを自由に組み合わせることができるPCが示されました。
その多くが伝統的なクラムシェルスタイルではないスタイルを提案。ディスプレイとキーボードが別ユニットとなった、コアモジュールを持ち歩くという形態を想定していたのが興味深いといえるでしょう。今後、A4ノートPCはもしかすると、そんな方向へ進むのかもしれません。