今多くの指導者は、新人育成に関して2つの悩みを抱えています。まずひとつは、新人に「なるべく早く一人前になってほしい」という悩みです。一昔前と比べると、悠長に新人の育成を待つ余裕は現場にはありません。少しでも早く一人前になり、組織に貢献してもらわないと困ることから、今の時代は、新人育成によりスピード感が求められるようになりました。
そしてもうひとつは、「そうはいっても教える時間がない」という現実です。新人育成に携わる上司や先輩は、自身の成果目標を達成することに必死で、日々の仕事に追われています。新人のために十分な育成時間を割くことは、短期的な目標を達成する上で現実的ではありません。あなたの現場ではいかがでしょうか?
本稿では、指導者が育成にかける時間を最小限にしつつ、最速で新入社員を一人前にするための、「質問」を活用した仕事の教え方を2つご紹介します。このメソッドは、私が約10年間勤めていたソフトバンクで培い、起業後に多くのクライアント様との仕事を通じて磨き上げたものです。
10秒の立ち話で新人を育てる方法
まず、10秒の立ち話で新人を育てる方法です。10秒と聞いて本当にできるのだろうか? と思われる人もいるのではないかと思います。
例えば、指導者であるあなたが、入社して数カ月ほど経過した新人が担当するクライアント先に同行営業に向かうとします。商談時間の数分前にお客さま先のオフィスに到着し、ロビーのソファで新人と座りながら、担当者が現れるのを待っているシーンです。そんなとき、あなたなら新人にどんな質問を投げかけるでしょうか? 例えば、次のような「時短質問」を投げかけるのは効果的です。
「今日の商談のゴールは、どこに置いているかな?」
この質問にかかる時間は、3秒程度です。そして、投げかけられた質問に対して、新人が答えるのにも、7秒の時間もかかりません。したがって、「10秒で新人を伸ばす」は決して不可能ではないのです。
【時短質問を活用した10秒トレーニング】
1 時短質問を投げかける(指導者側:所要時間3秒)
2 時短質問に考えて答える(新人側:所要時間7秒)
慣れないと最初は難しいと感じることはあるとは思いますが、繰り返し質問を意識して実践していく中で徐々に、10秒で完結できるようになります。新人がもし答えられなかったとしたら、「今日のゴールは○○にしておくといいと思うよ」とフィードバックをしてください。質問とフィードバックをセットにして活用することがより育成効果をもたらします。
このように、「10秒で伸ばす時短質問」を繰り返し新人に投げかけていくことによって、新人は自らの力で考えられるようになっていきます。また、そればかりでなく、自分の力で考えることで、結果として、成長も格段に早まるのです。
新人の性格に合わせて教え方を変える
2つめメソッドは、新人の性格に合わせて教え方を変えるという方法です。新人を最速で一人前に育成するにあたって大切なことがあります。それは、「新人によって、わかりやすい教え方は違う」ということです。指導者が相手に合わせることをせず、「俺の背中を見て育て」「とりあえずやってみろ」という場当たり的な育成は、無計画かつ非効率な育成そのものです。このようなアプローチを続ける限り、早期に新人を一人前にするのは難しいと言えます。
今後はこのようなアプローチをやめることがまず大切です。その上で、次のように新人を大きく2つのタイプに分けて、その性格毎にアプローチする意識を持つことで、育成スピードが格段に上がっていきます。
【育成パターンA実践アプローチ】
アグレッシブな新人に対しては、業務の全体像を説明し、すぐに実践に移す
【育成パターンB講義アプローチ】
石橋を叩いて渡る新人に対しては、先に十分な説明をしてから、練習させ、実践に移す
営業として配属された新人を例に説明します。
育成パターンAのアグレッシブな新人であれば、営業の基本的な流れとポイントだけ簡潔に説明し、まず、お客様に訪問してみようという流れになります。多少の失敗はあれども、同行営業を通じて、都度フォローしていきます。
一方で、育成パターンBの石橋を叩いて渡る新人には、まずは、営業とは何なのか、営業プロセスの全体像と各プロセス毎に注意点を教えます。そして、簡単なロールプレイングを通じて自信をつけさせ、お客様の訪問を促します。
ぜひ、このようなタイプ別の育成アプローチを試してみてください。ちなみに、相手のタイプを見極めるときは、次の時短質問を活用してみてください。
「実践中心と講義中心、どっちがやる気が出るかな?」
以上、10秒の立ち話で新人を育てる方法と新人の性格に合わせて教え方を変えるという2つのメソッドをご紹介いたしました。ぜひ、最速で新入社員を一人前にする際の参考になさってください。