DMM GAMESが主催するバトルロイヤルシューティングゲーム『PLAYERUNKNWON’S BATTLEGROUNDS』(以下、PUBG)の日本公式リーグ「PUBG JAPAN SERIES」(以下、PJS)。2019年9月から10月にかけて開催されたPJS Season4では、サッポロビールと、すかいらーくホールディングスの運営するガストが、スポンサー企業となったことで大きな注目を集めました。

両社にとって「初のeスポーツ⼤会への協賛」であるだけでなく、銃で撃ち合う「FPS」ゲームというジャンルにおける協賛です。高いハードルがあったことは想像に難くありません。それぞれの担当者は、いかにこのコラボレーションを実現し、どのように大会のファンと向き合ったのでしょうか。

今回の取り組みに携わったサッポロビールの福吉敬さんと、すかいらーくホールディングスの龍康殿(りゅうこうでん)いくみさん、そしてPJSを主催するDMM GAMESの豊後祐紀さんにお話を伺いました。

ゲームの「撃ち合う表現」をどう乗り越えるか

――まずはPJS Season4への協賛を決めるまでに、どのような経緯があったか教えてください。

福吉(サッポロビール):サッポロビールではeスポーツに関する取り組みとして、少し前からオンラインカードゲーム『Shadowverse』のプロチーム「レバンガ☆SAPPORO」に協賛をしています。それを踏まえて、「リーグへの協賛をしてみるのはどうか」という話が挙がっていました。チーム協賛とは露出のタイプが全然違い、リーグ協賛ではしっかりとCMでブランドを訴求できるためです。

タイトルを選ぶうえで重要だと考えたのは、ユーザー数の多さとルールのわかりやすさ。やはり勝敗が直感的にわかって、盛り上がりやすいのはシューティングゲームだろうと考えました。

シューティングゲームでは、例えば『Fortnite』や『荒野行動』も非常に人気が高いですが、若年層のファンがとても多いんですね。我々はお酒の企業ですから、お酒を飲む年齢層にも多くのファンを持つ『PUBG』がいいだろうと。なにより、僕自身も『PUBG』のファンだったんです。

そう考えていたところに、DMM GAMESの豊後さんからお声がけをいただいて、今回の協賛が実現しました。

  • サッポロビール マーケティング開発部 コミュニケーションデザイングループ シニアメディアプランニングマネージャーの福吉敬さん

    サッポロビール マーケティング開発部 メディア統括グループの福吉敬氏

龍康殿(すかいらーくホールディングス):私は、社内でソーシャルメディアの運営に携わっていて、さまざまな企業さまとのコラボ企画を担当しています。あるとき、私の上長が豊後さんからPJSの資料をいただきました。それを見てすぐに「これはやらねば!」と思いましたね(笑)。理由は、私自身『PUBG』が好きで、『PUBG』ファンの深さを知っていたからです。

なんとしてでも実現しなければと思ったのですが、コラボではなく協賛という形は初めてだったので、社内で「費用対効果は見込めるのか?」と言われる不安もありました。

そこで、「これだけのリーチ数が期待できるので、やらせてください」と力強く説明したのです。今まで離れていたお客さまにも「そういえば最近ガストに行ってないな。たまには行こうかな」という気付きにつながるコミュニケーションを取るようにすると。

  • すかいらーくホールディングス マーケティング本部 総合コミュニケーショングループ ソーシャルメディア&コンテンツチームの龍康殿(りゅうこうでん)いくみ氏

――今回の取り組みを実現するにあたって、難しかったことはありましたか?

福吉:シューティングゲームの性質上、社内では「撃ち合いをするゲームなんですよね?」という話が出て、その点はとても慎重に進めなければなりませんでした。我々はお酒を扱っているので、お酒と暴力をつなげるイメージは厳禁。いわゆるバイオレンスな表現に対して、ものすごくナーバスなんです。

しかし、そこは「あくまでゲームの世界ですよ」と伝えて、豊後さんには何度もいろんな資料をいただき、慎重に慎重に時間をかけて通していきました。

説明していくなかで、総務の担当者も「確認してみましたが、たしかにゲームの世界ですね」と、多くの人が楽しんでいることもわかってもらえて、最後は「架空の世界ということで、承知いたしました」の一言で、クリアになりました。

龍康殿:私も同じく、最初は社内から難しい反応で、「だって撃ち合いをするゲームでしょ?」と言われていました。でも、そこは「いえ、死なないです。箱になります!」と説明して(笑)。豊後さんにはわがままを言って、なるべく武器のない画の資料をいただきました。

それから、“ドン勝”と“ローストチキン”の関連性を、どう説明すべきかにも頭を悩ませました。会社としては、ガストといえばチーズINハンバーグなど、代表的な人気メニューがあるのに、なぜローストチキンを訴求するのかという話になってしまうんですね。それに対しても、とにかく「『PUBG』では勝利すると、“CHICKEN DINNER”なんですよ」と、1つずつ説明していきました。

その結果、「詳しくはよくわからないけど、プラスになるんだよね」「そんなにやりたいなら、任せるよ」と言ってもらえたんです。それを知っている上司が、熱意を込めてがんばっていましたよと、豊後さんにメールしていました(笑)。

豊後(DMM GAMES):そのメールをいただいて、もう「感謝しかないです」と返しましたね。ちなみに、龍康殿さんの上長さんからも「人は死ななくて、箱になるという認識でいいんですよね。ファンタジーですよね?」と何度も確認がありました(笑)。

感じているのは、両社ともに撃ち合いをする表現がNGな企業であるにもかかわらず、お2人の熱意で社内を通していただいたこと。ゲーム内のそのような表現について「どう乗り越えればいいですか?」と聞かれることも多いのですが、やはり必要なのは担当者の熱意なのだと感じます。

  • DMM GAMES ビジネスアライアンス本部 PUBG JAPAN SERIES担当の豊後祐紀氏

福吉:結局はそこだと思います。一にも二にも、担当者がその企画をやりたいという熱意を持たない限りは、通らないですよね。それに、龍康殿さんがローストチキンで企画を通したことに、すごく意味があると僕は思っていて。社内で説明したときに、「そうですね。たしかにガストといえばチーズINハンバーグですよね」と折れてしまったら、それまでじゃないですか。そこで、「この企画はチキンじゃなければダメなんです!」と、担当者が熱意を持って説明しないといけないんでしょうね。

よく社内でも言っているのですが、ユーザーの目線がどこにあるのかを知ってコミュニケーションしなければ、絶対に刺さらないんです。やっぱり『PUBG』においては、チキンがものすごく重要なわけですよね。それを通すからこそ、意味があるんです。

豊後:ゲーム内の特徴的なキーワードとの組み合わせって、わかっている人でないとなかなかできないコラボレーションですよね。

ローストチキンもまさにそうですが、福吉さんがプレスリリース内のメッセージで「丸くなるな、星になれ!」というサッポロビールのコピーを出されていたのも、すごく印象的で。選手のことを理解されている福吉さんだからこそ、出てきた言葉なんだろうと感じました。

福吉:時代が時代だったら、僕もeスポーツプレイヤーになりたかったですからね。僕の時代は、高橋名人くらいしかいませんでしたから(笑)。

  • 配信されたPJSのワンシーン。試合を振り返る「ガストプレゼンツ プレイバックRound」で、ガストの“チキンディナー”が大きく映し出されます