Appleは11月13日、ポータブル型Macの最上位モデルとなる「MacBook Pro 16インチモデル」を発表した。このモデルは、これまでの15インチMacBook Proを完全に置き換える新機種で、米国での価格は2399ドルからと据え置かれるが、日本では為替の関係で現行モデルの25万8800円(税別)から24万8800円(税別)に引き下げられる。
このモデルは、プロユーザーが求めるMacBook Pro像を細かくリサーチし、その期待に応える性能を実現する新しいMacBook Proのキャラクターを実現するとともに、価格の低下と基本性能の強化によって大画面MacBook Proへの間口を広げ市場を開拓する役割を担うことになるだろう。
13インチMacBook AirやMacBook Proユーザーのステップアップや、iPad Proとの併用を前提にするメインマシンとしての活用に加え、ビデオやグラフィックス、写真などのクリエイティブに興味を持っている人がまず手にするマシンとして活躍していくことになる。
15インチ→16インチの意義
今回登場した16インチモデルは、MacBook Proの上位モデルの画面サイズを1インチ拡大するフォームファクターの変更が行われた。これは、2012年のRetinaディスプレイ採用と光学ドライブ・ハードディスク廃止、2016年のバタフライキーボード採用と薄型化に続く大きな変更となる。
ディスプレイは引き続き、高色域P3に対応する輝度500ニトの高精細Retinaディスプレイを搭載するが、画面が拡大されたことによって解像度は3072×1920ピクセルに高まった。広い画面で、ハイダイナミックレンジを生かしたビデオ編集を行うことができる。
その一方でパネル周囲のベゼルは縮小しており、結果的に15インチモデルに比べ、16インチモデルは長辺が8.7mm、短辺が5.2mmの拡大にとどまった。そのため、これまで15インチモデル向けに使ってきたケースなどは合わなくなる可能性がある。
サイズの拡大とともに厚みは0.7mm増し、重量も170g増しの2kgとなった。ディスプレイの拡大と高性能CPU、高性能グラフィックスを受け止める電力を確保するため、より大きなバッテリーの搭載は不可欠だったといえよう。
きょう体の拡大とともに、15インチモデルよりも16Wh多い合計100Whとなったバッテリーが重量増に影響したとも考えてよいだろう。結果、ワイヤレスインターネットで11時間のバッテリー駆動を確保しているが、クリエイティブ作業でマシンに負荷がかかる場合、これよりも短くなることは間違いない。
ちなみに100Whは、米国連邦航空局(FAA)が機内持ち込みの上限と定めているバッテリー容量で、「モバイル」が前提となる場合の上限いっぱいまでバッテリーを搭載したと考えてよいだろう。
電力供給に用いられるのは、96Wの電源アダプタ。15インチモデルに付属していた87Wアダプタと同じサイズを実現しているが、昨今の市場で人気が高い、窒化ガリウム(GaN)採用で小型化を果たした充電器と比べると、依然として大きなサイズとなっている。
パフォーマンスの上限をできる限り取り払った
MacBook Proは、クリエイティブプロのためのモバイルワークステーションという性格で、ハイエンドのニーズに極力応えることが求められてきた。世界中で写真や映像を撮影するフォトグラファー、ビデオグラファーにとって、例えばストレージやグラフィックスを外付けで利用することはナンセンスだ。
そのため、グラフィックス、メモリー、ストレージは極力内蔵し、ノートブックコンピュータとしてのパッケージで持ち歩けるようにする必要がある。そのため、一般の人からすれば途方もない金額のオプションにしか見えなくても、「お金を出せば手に入れられる」ことがクリエイターにとっては重要となる。
MacBook Pro 16インチでは、プロセッサは2.4GHz 8コアのIntel Core i9が上限となるが、メモリーはベースモデルでも標準で16GB、最大64GBに拡張できる。ストレージは、標準でも十分多い512GBからとなっているが、こちらは最大8TBものSSDを搭載可能だ。
グラフィックスは、AMD Radeon Pro 5300Mもしくは5500Mに4GBのGDDR6メモリーが組み合わせられるが、このメモリーは8GBまで拡張できる。加えて、Thunderbolt 3を通じて2台の6Kディスプレイもしくは4台の4Kディスプレイを拡張できる。これでも足りないという場合は、Mac Proを選ぶしかない。
こうして得られるパフォーマンスは絶大なものだ。8コアプロセッサを備える16インチMacBook Proは、Final Cut Proのビデオ編集では4Kマルチカメラを最大11台利用でき、Blackmagic DaVinci Resolve Studioでは80%も高速にエフェクトのレンダリングを行う。そのほかにも、プログラミング、写真、3Dなど、特にリアルタイムレンダリングの性能が軒並み2倍になるなど、パフォーマンスの向上が目立つ。
こうした高いパフォーマンスを支えるため、MacBook Pro内部の排熱処理を刷新し、空気の流れを28%向上させるファンの搭載や、35%拡大したヒートシンクの採用により、熱による処理速度の低下を防ぐ設計を施している。
(後編に続く)
著者プロフィール
松村太郎
1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。