「モンスターハンター:ワールド」がDLSSに対応してパフォーマンスが劇的に向上! なんて話題になったことがあるが、そもそも「DLSS」ってなんだろうか。NVIDIAのGeForce RTXシリーズで使えるようになった新技術だが、実はゲームの性能と画質を向上させる切り札とも言えるもの。その効果について実際の人気ゲームを交えて解説する。

思っていたより夢の技術な「DLSS」って何?

NVIDIAの最新GPU「GeForce RTXシリーズ」は光線を追跡する処理を加えることでリアリティを向上させる「レイトレーシング」が注目されがちだが、ゲームのパフォーマンス向上という点では「DLSS」に大きな魅力がある。ここではDLSSによって、何が変わるのかを解説し、実際のゲームでどこまでパフォーマンスと画質が向上するのかテストしていきたい。

  • 画像はShadow of the Tomb RaiderのDLSS無効時、つまり普段の画面だ

  • そしてこちらがDLSS有効時の画面。有効にすると画面がシャープになっている

DLSSとは「Deep Learning Super Sampling(ディープラーニング スーパー サンプリング)」の略。多少乱暴だが、簡単にまとめれば「ゲームの同じシーンの超美麗画面と粗い画面をひたすら比較して学習させ、最終的には粗いゲーム画面でも学習データを元に、超美麗画面と同じだけのクオリティで表示できるようにしてしまう技術」。そのため、DLSSに対応したゲームは動作を軽いのに、高画質表示が可能になるわけだ。

NVIDIAが公開しているDSLLのデモ。画面上部のフレームレート(1秒間に描画可能なフレーム数)表示に注目。DLSSを有効にすると高い画質を維持したままフレームレートが向上しているのがわかる

少し詳しく解説していこう。GeForce RTXシリーズには、深層学習用に専門の能力を備えた「Tensorコア」と呼ばれる半導体回路が内蔵されているが、DLSSはそれを活用した技術だ。まず、64倍でスーパーサンプリングされたゲームの画面とアンチエイリアシングなしで記録した画像をNVIDIAのニュートラルネットワーク(スーパーコンピュータ)に見せて、学習させる。これを膨大な数繰り返すことでアンチエイリアシングの処理を効率化させる。その結果をGeForce向けのGame Readyドライバーに含め、専用アプリケーションであるGeForce Experience経由でユーザーに配信している。

  • NVIDIA側が用意したニュートラルネットワークで学習を行い、その結果をGeForce Experience経由でユーザーに配信している

その学習データとTensorコアを使って、DLSS対応ゲームをプレイすることでアンチエイリアス処理が効率化され、現在多くのゲームで採用されているTAA(Temporal Anti-Aliasing)に比べてゲームの動作が軽くなるというものだ。さらにTAAは複数のフレームから生成されるため、動きの激しい場面ではブレやちらつき、透明部分の乱れなどが発生することがあるが、DSLLでは、その問題を回避できるとしている。ゲームパフォーマンスの向上と高画質化の両方を実現する夢の技術と言ってもいいだろう。

定番3Dベンチマーク「3DMark」に含まれるテスト「Port Royal」はDLSSに対応。これはその比較動画。フレームレートが向上しているのに加え、よく見るとDLSSのほうが細部がくっきりしているのがわかる

DLSSの注意点、性能が出ない場面もあるので要確認

しかし、注意点もある。DLSSはGPU負荷の大きい高解像度をゲームプレイをターゲットに開発されており、対応ゲームでもWQHDといった高い解像度からしか有効にできないものが多い。そして、対応タイトルが「Battlefield V」や「Metro Exodus」、「Shadow of the Tomb Raider」、「モンスターハンター:ワールド」などまだまだ数が少ないこと。2018年9月の時点で25タイトルにDLSSが導入される予定としていたが、そのすべてが対応するにはまだ時間がかかりそうだ(原稿執筆時点でまだ発売されているタイトルも多いが)。

ちなみに、フルHDなど低めの解像度でDLSSに対応しない理由は、それほど負荷のかからないシーンではDLSSの処理を入れたほうが性能が落ちる可能性があるため。ただし、低解像度でのDLSSについても開発を進めているそうなので、将来的にはどこかのドライバーアップデートで有効になるかもしれない。

  • DLSSが有効になる解像度や設定はゲームによって異なる。WQHD以上の解像度で対応するゲームが多い

実際のゲームでDLSS有効時の効果を検証してみる

ここからは、実際に対応ゲームでDLSS有効/無効でフレームレートがどれほど変化するのかテストしていきたい。用意したゲームは「Battlefield V」、「Shadow of the Tomb Raider」、「モンスターハンター:ワールド」の3本だ。テスト環境は以下の通りとなっている。

■テスト環境
CPU Intel Core i7-9700K(3.6GHz)
マザーボード ASUSTeK ROG STRIX Z390-F GAMING
(Intel Z390)
メモリ G.Skill F4-3600C19D-16GSXW
(DDR4-3600 8GB×2、※DDR4-2666で動作)
グラフィックスカード GIGA-BYTE GeForce RTX 2070 WINDFORCE 8G
(NVIDIA GeForce RTX 2070)
システムSSD Lite-On Plextor M8Pe PX-512M8PeGN
(M.2/PCI Express 3.0 x4、512GB)
OS Windows 10 Pro 64bit版

まずは、「Battlefield V」から。画質は最高、フレームレートは最大の200に設定、レイトレーシングは有効、WQHD解像度でシングルプレイ「大戦の書」の「旗なき戦い」で特定ルートを移動した際のフレームレートをCapFrameXで測定した。平均で7.4fps向上。最小(1%)も5.1fps向上と確かな効果があった。DLSS有効、無効の画面を比べてみると、若干有効時のほうが細部がくっきりしている。なお、最小(1%)は全体でこのfps以下のなるのが1%未満ということ。

  • Battlefield V、左がDLSS無効、右がDLSS有効(クリックorタップで画像を拡大)

続いて、「Shadow of the Tomb Raider」。画質は最高、レイトレーシングは無効、WQHD解像度でゲーム内蔵のベンチマークモードで測定している。DLSSを有効にすることによる平均フレームレートの上昇は「5」に留まっているが、注目はグラフィックだ。DLSS有効時のほうが明らかにシャープな映像になっている。パフォーマンスの向上はそれほど大きくはないが、画質の向上がハッキリとわかる。これもDLSSの一つの魅力と言えるのではないだろうか。

  • Shadow of the Tomb Raider、左がDLSS無効、右がDLSS有効(クリックorタップで画像を拡大)

続いて「モンスターハンター:ワールド」。画質は最高、フレームレートは無制限に設定し、WQHD解像度で集会エリア内を移動した際のフレームレートをCapFrameXで測定した。DLSSを有効にすることで平均で30fps近くも向上。DLSS無効時は60fpsを下回るシーンもあり、プレイしていて滑らかに描画できていないと感じる部分もあったが、DLSS有効時は60fpsを下回ることはなく、実にスムーズな描画と感じた。画質に関しては、DLSS有効時のほうがくっきりしている部分はあるが、それほど変わらない。画質を維持して大幅にパフォーマンスアップした例として、DLSSの強みが大きく出ている。

  • モンスターハンター:ワールド、左がDLSS無効、右がDLSS有効(クリックorタップで画像を拡大)

DLSSは、リアリティ溢れる描画が可能だがGPUパワーを必要とするレイトレーシング処理の負荷軽減という側面がある。今回では、まさに「Battlefield V」がそれに当てはまるだろう。レイトレーシングを有効にしないとDLSSも使えないためだ。

その一方で、「Shadow of the Tomb Raider」はレイトレーシング無効時でもDLSSを有効にでき、結果として画質の向上が見られた。「モンスターハンター:ワールド」はそもそもレイトレーシングに対応していないが、DLSSによって大幅にパフォーマンスが向上している。

DLSSはゲームを快適に遊ぶための手助けになってくれる存在だ。これを使うために「GeForce RTXシリーズを買う」価値が、十分にあるのではないだろうか。