現在は少数派の振り飛車党棋士。反攻なるか。

将棋には大きく分けて2つの戦法があります。「居飛車」と「振り飛車」です。将棋の駒の中で最も高い攻撃力を持つ飛車を、元々居るマスに置いたまま戦うのが、「居飛車」、飛車を他の筋に移動させて(振って)戦うのが「振り飛車」です。

居飛車を得意とする棋士を「居飛車党」。振り飛車を得意とする棋士を「振り飛車党」と呼びます。
そして、現在タイトルを持つすべての棋士が居飛車党です。羽生善治九段や藤井聡太七段も居飛車党、プロ棋士全体を見ても居飛車党の方が振り飛車党より多いというのが現状です。

このように振り飛車党はプロ棋士の中では少数派ですが、さらに追い打ちをかけたのが将棋ソフトの台頭です。現在の将棋ソフトは人間の棋力を凌駕しており、渡辺三冠や豊島将之名人など、多くの棋士が日々の研究に将棋ソフトを活用していると言われています。この将棋ソフトのほとんどが、振り飛車を低く評価しているのです。

そうなると、振り飛車を指す棋士はますます減っていき、ついには誰もいなくなってしまうと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

藤井猛九段、久保利明九段、鈴木大介九段といったかつて振り飛車御三家と称された棋士たちは今でも振り飛車を駆使して活躍していますし、独創的な振り飛車が魅力の菅井竜也七段もトップ棋士グループの一人。また、勢いのある振り飛車党の若手棋士も多く存在しています。

11月11日には第32期竜王戦(主催:読売新聞社)ランキング戦6組昇級者決定戦で井出隼平四段と杉本和陽四段という2人の振り飛車党若手棋士がそろって5組への昇級を果たしました。

「振り飛車は決して不利な戦法ではない」と主張しているかのような2人の活躍でした。

居飛車とは違う魅力があるのが振り飛車。アマチュアには振り飛車党が多く、振り飛車党の棋士が活躍すると将棋界は盛り上がります。現在はすべてのタイトルを居飛車党が制していますが、振り飛車党の棋士はこの状況をいち早く打破しなければならないと考えているはずです。

棋士個人を応援するのももちろんいいですが、「居飛車党」VS「振り飛車党」という大きな視点で日々の観戦を楽しむのもよいかもしれません。

井出隼平四段(左)、杉本和陽四段
井出隼平四段(左)、杉本和陽四段