マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、アメリカの株高が続くかについてです。
米主要株価指数が最高値を更新
米国の主要株価指数であるNY(ニューヨーク)ダウ、S&P500、ナスダック総合指数がいずれも足もとで過去最高値を更新しています(11/7執筆時点)。イベント的には、市場の懸念材料だった米中貿易交渉に進展の兆しがあり、楽観ムードを醸しています。また、当初の期日であった10月31日の「合意なきブレグジット(英国のEU離脱)」は回避され、新しい期日は2020年1月末へと先送りされました。12月に行われる英国の総選挙の結果次第では様々なシナリオが考えられるものの、いったんは安心感につながっているようです。
株価に重要な景気動向と企業業績
もっとも、株価にとって最も重要なのは、景気動向であり、企業業績のはずです。米国の景気拡大局面はリーマンショック後の2009年6月から始まっており、今年10月で10年4カ月続いています。すでに、1991年3月から2001年3月までの丸10年を超えており、記録をさかのぼることができる1850年代以降の最長となっています。
ただ、それだけに息切れ感もあり、世界景気の鈍化も相まって製造業を中心に景気拡大ペースは鈍り、先行きの不透明感が強まっています。そうした中、企業利益の伸び悩みが目立ちます。
S&P500の実績ベースのEPS(一株当たり利益)は今年前半まで前年に比べて2ケタの伸びをみせていましたが、足もとでは伸びが止まっています。同じくS&P500のPER(株価収益率)は実績ベースで20倍を超えており、歴史的には高過ぎとも言えるバリュエーション(評価)となってきました。
景気後退が懸念されれば株価は天井を打つかも
今後、景気が一段と減速し、仮にリセッション(景気後退)に至るようなら、企業は大幅な減益になりかねません。そして、そうした懸念を先取りする形でリセッションの始まる6カ月~1年前に株価が天井を打ってもおかしくありません。
近年では、湾岸危機での原油価格急騰が一因となった1990~1991年、IT株バブルが崩壊した2001年、リーマンショックの2008年にリセッションが発生し、FRBは大幅な利下げを余儀なくされました(下図、シャドウの前後)。それらのケースでは株価が立ち直りをみせるまでに相応の時間がかかりました。
景気減速に歯止めがかかれば、株価上昇余地も
他方、米景気の減速に歯止めがかかり、再加速するのであれば、株価には上昇余地が生まれそうです。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は今年7、9、10月に3回連続で行った利下げを「保険的」あるいは「予防的」と位置付けています。このまま景気が持ち直すのであれば、追加利下げは必要なくなるでしょう。
1995~1996年と1998年のケース
1990年以降で、FRBの利下げが「保険的」にとどまったことが2回あります。1995年~1996年初めにかけてと、1998年です(下図、赤丸)。いずれも、今回と同様に3回、計0.75%の利下げで打ち止めとなりました。
1995~1996年のケースは、1994年2月から1年間にわたって実施されたアグレッシブな利上げによって景気に十分なブレーキがかかったとして、利上げ分(計3%)の一部を巻き戻した格好です。FRBが米景気のソフトランディング(軟着陸)に成功した珍しい例として記憶されています。
1998年のケースでは、前年のアジア通貨危機からの波及で、8月にロシアの国債がデフォルト(債務不履行)し、9月には大手ヘッジファンドのLTCM(ロングターム・キャピタルマネジメント)が破たんしました。金融不安に備えて、FRBは臨時会合を開くなどして2カ月足らずの間に3回利下げをしました。その結果、金融不安は深刻化せず、実体経済への影響も軽微にとどまりました。
米中貿易交渉は進展するか
2018年夏以降の景気、とりわけ製造業の重石となってきた米国や中国の関税が貿易交渉の進展によって撤廃されれば、それなりの景気刺激効果が出そうです。4~6月期、7~9月期と2期連続で減少した企業の設備投資にも動意がみられるでしょう。
利回り曲線の変化はリセッション回避を示唆!?
株価以上に景気に先行するとされるイールドカーブ(利回り曲線)は、2年物金利が10年物金利を上回る逆転現象が8月に一時見られましたが、今では逆転現象は解消されており、リセッション懸念を弱めています。もちろん、まだまだ米中貿易交渉の先行きも含めて不確定要素は多く、楽観は禁物でしょう。