東宝が生んだ大怪獣スター『ゴジラ』の誕生を祝う映画上映とトークイベント「ゴジラ誕生祭2019」が、11月2日夜から3日朝にかけて、東京・池袋HUMAXシネマズと京都みなみ会館の2か所で同時開催され、両会場に多くのゴジラファンがつめかけた。
「ゴジラ誕生祭」とは、ゴジラシリーズの偉大なる原点である東宝映画『ゴジラ』(1954年)の公開日を「ゴジラの誕生日」と定め、ゴジラシリーズから数作品を厳選して上映すると共に、作品にゆかりの深いゲストを招いてトークショーを行うという、ゴジラファン、特撮映画ファンのための豪華イベントである。昨年は東京会場のみの開催だったが、今年(2019年)は関西特撮ファンの聖地というべき「京都みなみ会館」がリニューアルされたことにより、例年どおり東京(池袋HUMAXシネマズ)との2か所同時開催となった。
東京会場では、『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)、『モスラ3 キングギドラ来襲』(1998年)、『ゴジラ モスラ キングギドラ 地球最大の決戦』(1971年/『三大怪獣 地球最大の決戦』再編集版)の3作がオールナイト上映された。
トークショー第1部に登場したのは『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』でゴジラを相手に一歩も退かない奮闘を見せた防衛軍の立花准将を演じた宇崎竜童。かつて「ダウン・タウン・ブキウギ・バンド」で一世を風靡したほか、作曲家として数々の大ヒット曲を世に送り出した宇崎は、俳優としても『駅 STATION』(1981年)『TATTOO<刺青>あり』(1982年)など、数々の作品で強烈な印象を残している。
司会進行を務める特撮ライター・円山剛士氏の呼び込みでステージにやってきた宇崎は、立花准将をイメージしたかのようなミリタリックな衣装で決めており、つめかけた大勢のゴジラファンを歓喜させた。
第1作『ゴジラ』を少年時代に封切りで観た経験があると語る宇崎は「最初のゴジラはモノクロだったよね。今でも観に行ったときのことは鮮明に覚えている。ゴジラがあまりにも怖かったものだから、これ以来"怪獣映画"は1本も観ていません」と語って、自身の"ゴジラ"体験をふりかえった。
このように、『ゴジラ』とはずっと疎遠だった宇崎だが『GMK大怪獣総攻撃』の出演オファーを受けたときは「やります、と即答しました。ゴジラに"会いたい"と思った。もう大人ですからね(笑)」と、茶目っ気をのぞかせながら「ゴジラとの再会」を熱望して依頼を受けたことを明かした。
続いて、『GMK大怪獣総攻撃』を手がけた金子修介監督が登壇。『どっちにするの』(1989年)『就職戦線異状なし』(1991年)『学校の怪談3』(1997年)『デスノート』(2006年)など、多くの話題作で知られる金子監督だが、特撮ファン的には大映(角川)の『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)『ガメラ2 レギオン襲来』(1996年)『ガメラ3 邪神(イリス)覚醒』(1999年)の「平成ガメラ3部作」を生み出したことであまりにも有名。
まずは、金子監督がいかにして立花准将役に宇崎を起用したのか? という質問から。金子監督は「ゴジラと戦う軍人の役なのですが、あまり軍人らしくない人のほうがいいかと思って宇崎さんに声をかけました」と、キャスティングの決め手を明かした。宇崎は撮影初日の思い出をふりかえって「初日のことは忘れもしません。最初のカットを撮ったあと、金子監督は『カメラテストOK!』って言ったんです。それを聞いて"テストってことは、これがダメだったら外されてたのかな"と思って、すごいショックだった」と驚きを語ると、金子監督から「あれはカメラのテストをしていたのであって、宇崎さんのテスト(オーディション)じゃないんですよ」と説明があり、ちょっとした思い違いがあったことがこの場で明らかとなった。
立花准将を演じるにあたって気をつけたことは? という問いに宇崎は「軍人らしく見える"帽子の被り方"ですね。脇にはさんだ帽子をサッと被って歩いていく場面では、なんども被り方を練習しました。あと、この映画では何度も敬礼をするので、それっぽく見える敬礼の仕方を教わりました。細かなところはもう忘れてしまいましたが(笑)」と、軍人らしく一本芯が通ったような仕草を意識して表現したことを明かした。
金子監督は宇崎の主演映画『曾根崎心中』(1978年)のイメージが強く「宇崎さんの芝居から哀愁が引き出せられたら……と考えながら演出していました」と、演出のポイントを説明した。
イベントに備えて、10数年ぶりに『GMK大怪獣総攻撃』を観たという宇崎は「こんなにたくさんセリフがあったのかと驚いた」と感想を述べつつ「演技については、金子監督から指示される通りに演じていた」と、立花准将のキャラクターを監督といっしょに作り上げたことを振り返った。
金子監督は、潜航艇「さつま」でゴジラを攻撃しに行く直前の立花(宇崎)と広瀬(渡辺裕之)のやりとりについて「東映任侠映画での、高倉健と池部良をイメージした」とコメント。すると宇崎から「監督、撮影のときはそんなこと言ってなかったでしょう」と合いの手が入ると、金子監督から「僕の心の中だけでイメージしていた」と説明が入った。
『GMK大怪獣総攻撃』の劇中、ゴジラに襲われる若者の1人として歌手・タレントの篠原ともえが出演しているが、これは当時、篠原と宇崎が「篠龍」というユニットを組んで活動をしていたことから実現したキャスティングだったという。金子監督から頼まれた宇崎が篠原に声をかけたところ「出ます!」と快く出演を受けてくれたそうだが、もともと金子監督が篠原に着目していたことを知っていた宇崎が「ご自分で出演依頼すればよかったじゃないですか(笑)」と金子監督に鋭いツッコミを入れる場面も見られた。
宇崎は『GMK大怪獣総攻撃』の内容について「こんなに深い物語だったのか! と、改めて発見したことがたくさんあった。年を経てから観るとまた印象が変わると思います。これ、"名作"ですよ! ハリウッドはなぜ金子監督にゴジラを撮らせないのか」と絶賛。これを聞いて金子監督は照れくさそうにしながらも「公開当時、拒絶反応を示していたファンの方もいたんだけど、今年アメリカのファンイベントに行ったら『GMK大怪獣総攻撃』を表彰してくれた」と、公開当時よりも現在のほうが"金子ゴジラ"への理解と評価が高くなっていると語って笑顔をのぞかせた。
宇崎は「今まで俺は『俳優としての代表作は?』と聞かれても『ありません』と答えていたんです。でも明日からは『代表作はGMK大怪獣総攻撃です』と胸を張って言える!」と、本作への愛着の強さをうかがわせるコメントを残した。またゴジラ映画に出演の依頼があったら引き受けるか? という質問には「この映画で天本英世さんが演じられていた伊佐山老人のような"おじいさん"の役なら」と答えて客席を沸かせた。
トークイベントの最後には、『GMK大怪獣総攻撃』で使われたロケ地写真(円山氏撮影)を背景にして、宇崎と金子監督に映画のラストシーンを再現してもらうスペシャルコーナーに突入。最凶最悪のゴジラを倒すべく、人間と力を合わせて戦った"ヤマトの聖獣"たちに心からの敬礼を捧げる立花准将の名シーンがスクリーン前に披露され、客席のファンたちを歓喜にふるわせた。
『ゴジラ誕生祭』はこの後、『GMK大怪獣総攻撃』で特殊技術を務めた神谷誠監督と、ゴジラ役・吉田瑞穂、キングギドラ役・大橋明を招いてトークイベント第2部が開催された。11月3日0:00を迎える直前には、『ゴジラVSキングギドラ』(1991年)で活躍したアンドロイドM11役のロバート・スコット・フィールドがステージに現れ、ファンと共にゴジラの誕生日を祝うカウントダウンを行っている。
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