テレビ東京系で放送中のドラマBiz『ハル ~総合商社の女~』(毎週月曜22:00~22:54)。アメリカのビジネス界でバリバリと活躍していたシングルマザーのキャリアウーマンが、ヘッドハンティングによって引き抜かれた日本の大手商社で様々な問題を痛快に解決していく。そんな同ドラマの主人公・海原晴を演じている中谷美紀にインタビュー。ドラマの魅力などを語ってもらった。

  • 中谷美紀

こんなに正論を男性に言って大丈夫なのか

女性の社会進出が当たり前になり、昨今は「働き方改革」と叫ばれるなど労働環境も変化。しかし、日本の会社組織にはいまだに閉鎖的な慣習が残っており、同ドラマでも舞台となる総合商社でその悪習が散りばめられている。中谷扮するアメリカ帰りの晴は、事なかれ主義で旧態依然の社員たちと対峙しながらも会社で起きる様々な難問を解決していく。

「上司の顔色を伺ったり、組織内でいかに目立たず定年を迎えるのか。家族を養うためであったとしても、とても苦しい思いで仕事をしていらっしゃると思います。そういう意味で晴は自分の仕事に自信を持っていて、シングルマザーとしてかなり奮闘してますけど、経済的な理由だけでなく本当に仕事がしたくて仕事をしているところが魅力です。晴の目線を通して組織の中で顔色を伺っている方々を見ると、とても窮屈で大変だなとは思います」

第1話では、会社が手掛けているラーメンチェーン店の売上が減少。社内の上層部は撤退の方向を示すが、それを担当することになった晴はラーメンチェーンに可能性を感じ、会社の方針に反してオーナーたちと売上を伸ばすために奮闘する。

「台本を読んだ第一印象として、こんなに正論を男性に言って大丈夫なんだろうかと、日本の社会で通用するのかと思ったんです。それをどう視聴者の方に嫌がられず、主人公としてどう共感されるキャラクターにしようかと悩んだところですね。晴みたいな人はずば抜けて優秀ですが、なかなか共感しづらいところもあると思うので、どこで視聴者の共感ポイントを作るかを考えました」

会社の方針に反してまでも、可能性がある限り努力を続けようとする晴。時には上司や同僚とぶつかりながらも、自分の信念を貫こうとする彼女は、実に格好良くて憧れる存在だ。中谷自身、晴のことをどう思っているのだろうか。

「嫌いじゃないですけどね。もうちょっと言い方変えればいいのに、というのはあるんですけど、こういう人が居てくれたらいいなというのはあります(笑)。自分はなれないですけど。晴ほどは優秀ではないですし、やはり顔色を伺ってしまいます。というのは、若い時にそれでたくさん失敗してしまったので(笑)。監督に真っ向から意見を述べて、ずっと2カ月間撮影中ずっと喧嘩ばっかりしていたことがあったんです。ものすごく疲れましたね(笑)。若い時はずっとそうでした」

彼女が言う「喧嘩ばかりしていた」というのは、2006年に公開された映画『嫌われ松子の一生』の撮影時。中島哲也監督と激しいやり取りがあったのは有名な話だ。奇しくも中谷は、本作で第30回日本アカデミー賞主演女優賞を受賞。その後にインドを訪れたことが転機になったようだ。

「誰かにとっての正義が、誰かにとっての正義ではありえない、ということが身に沁みました。信仰している宗教もヒンズー教、仏教、イスラム教、キリスト教、ゾロアスター教、ジャイナ教と、様々な人々が共存している国で、インド人同士が話しても会話にならないんですね。お札には14種類の言語で"1ルピー"と書いてあるんですよ。インドの中にも14種類の言語が存在するということを目の当たりにした時、本当に自分にとって正義だと思っても相手はそうじゃない、ということに気付かされました」

日本は14もの言語は存在しないが、一つの言葉には色々な意味があり、それをどう受け止めるかは人によって異なる。まさに十人十色。それに気づいて以降、彼女は確実に変わったという。

「現場においては、皆さんが心地良く仕事をができる環境を作ることが出来ればという思いです。役者さんがのびのびとお仕事をできる環境と言いますか。緊張していると思ったらあえてNGを出してみたり、もちろん、意図的ではなくビジネス用語につまづいてNGを出してしまうこともあるんですけどね(笑)。緊張と弛緩は両方必要で、素晴らしいシーンを作るぞという時は緊張感も必要ですし、それと同時にどこかで心を解くようにしています」

中谷曰く「晴ほど辣腕を振るうことが出来ない」と謙遜するが、彼女は現場に携わっているすべての人々に気配りができる人。最後に女優としての仕事の楽しさを聞いてみた。

「本当に辛いこともあります。労働時間が長かったり、監督に怒られたり、休みの日も台本を覚える時間だったりと、プライベートを犠牲にしないと成り立たない職業です。その反面、好きな時に自らの意思でお休みを頂けたり、役柄を通じて他人の人生が垣間見えるのも魅力ですよね。総合商社は自分だったらきっと入ることができないでしょう。総合商社の大変優秀な、しかもアメリカでニューヨーク州弁護士資格を取った優秀な人間を演じられるというのは魅力的ですね。女性って誰でも変身願望があると思うので、そういう意味では願いを叶えることができていますね」