日産自動車は「第46回 東京モーターショー2019」(11月4日まで)で電気自動車(EV)のコンセプトカー2台を初披露した。そのうちの1台が、軽自動車のEVを想定したと思われる「ニッサン IMk」である。銅色に輝く2トーンの外装色と、白を基調とした室内の対比は、高級な小型EVを想起させる。新車が登場するたびに肥大化していく今日の自動車業界にあって「ニッサン IMk」は、環境の世紀といわれる21世紀の新たな高級車像を提示したといえなくもない。
クルマの大型化はもう限界?
トヨタ自動車はバブル経済崩壊後の1989年に「プログレ」という新しい車種を誕生させ、小さな高級車の価値を世に問うた。また2001年には、「プレビス」という同様の車種も生み出している。だが、いずれも1代でその役目を終えてしまった。
当時はまだ、バブル崩壊からの復興が日本経済の指針だった。また消費者も、高度成長時代の記憶が残る中、バブル経済とまではいかないまでも、右肩上がりの経済成長に期待を寄せていたのが実情だ。それは輸入車の販売が増加していった時代でもある。その後、クルマの大型化はとどまることを知らない。
だが、昨今の異常気象の連続に見られるように、地球環境は確実に変化しており、かつて経験したことのないような災害が一時的ではなく、続けざまに発生するようになった。先日来の関東・東北への台風や豪雨被害の一方で、米国カリフォルニア州では山火事が拡大する状況だ。
そうした中、エネルギー消費を極めて小さくしながら、同時に豊かな心で暮らせる日常を求める思いが、消費者の間で募ってきているのではないだろうか。簡単にいえば、排ガスをゼロとし、この先も豊かな生活を営んでいきたいという考え方だ。ニッサン IMkは、そういった思いを象徴するクルマのように見える。
また、ホンダが発表した「Honda e」という名のEVも、決して大柄なクルマではない。そして、1度の充電で走行可能な距離も、200キロほどと割り切った仕様となっている。マツダ「MX-30」も、同様の考え方を持つクルマのようだ。日産が量産EV「リーフ」を発売したのは2010年だった。それから9年が経った今、EVはエンジン車と比較される存在から、独自の価値を持つ存在へと進化し始めたといえる。
100キロ100万円の軽商用EVから始めてみては?
EVの一充電走行距離は、長距離ドライブを視野に入れる人には400キロが1つの目安となる。EVにエンジン発電機を搭載し、航続距離を伸ばす「レンジエクステンダー」であれば、もう100キロほどは余分に走れる。長距離移動よりも日々の利便性を求める人にとっては、1充電あたり200キロの航続距離というのが、ある程度、距離にゆとりを持たせた選択肢となるだろう。そろそろ、合理的なEVの姿が明らかになりだしてきたようだ。
一方で、4年前から私が提唱しているのが、「100キロ100万円の軽商用EV」の実現だ。100キロの実走行が可能な軽商用EVを100万円で買えるようにするという意味である。
数字は1つの象徴であり、100キロ前後、100万円前後となってもいい。ただ、それくらい割り切った性能でも構わないので、原価を切り詰めた、買いやすいEVの誕生を望むということである。
では、なぜ「商用車」なのか。それは、軽自動車の商用車が、日々の走行距離をある程度、見極めやすいクルマだからだ。
乗用車であった場合は、たとえ軽自動車といえども、日常的に40~50キロしかクルマを使わない人がいる一方で、週に1度は郊外へ高速道路を使って出かける人もいるといった具合に、幅広い「利用のされ方」を想定する必要がある。そのため、一充電走行距離を割り切るのは難しい。その点、商用車であれば、業務で使うクルマなので、走行距離を見極めやすいのだ。また、軽自動車であることから、登録車の商用車に比べ、1日の走行距離は短い可能性が高い。
また、商用車を前提とすることにより、装備も必要最小限でいいと割り切れる。今日なお、リチウムイオンバッテリーの価格は高価なものとされるが、走行距離を100キロとすれば搭載量を低減できるし、その上で装備を切り詰めれば、価格を抑えたクルマとすることが可能となる。
例えば空調は、冷暖房が可能なエアコンディショナーではなく、クーラーに限定する。暖房は極力、シートヒーターとステアリングヒーターで賄う。それ以上に暖房が必要な場合は、運転席のみの電熱ヒーターを使ってもよい。内装には余計な樹脂部品を用いず、それでいて、2005年のダイハツ工業「エッセ」のように、室内にも色のついた鉄板を見せながら、安っぽくさせない造形の力をいかす。これまでのクルマが当たり前と思ってきた装備をゼロから見直すことにより、EVで必要な内装や装備を絞り込めるのではないだろうか。
こうして、軽商用で「100キロ100万円」を実現できたら、そこから先は、装備や内装を豪華にしていくことにより、車両価格は上がっていってしまうものの、乗用車にも適合できるだろう。
現在の商用車は、軽自動車も登録車も、振動・騒音を防止する材料が省かれているので、乗り心地に難がある。それがEVになれば、騒音が抑えられるのはもちろん、乗り心地も快適になり、仕事のための移動を楽にできるようになる。なおかつ、仕事を終えればガソリンスタンドに立ち寄ることなく直帰できて、あとは事務所や自宅で充電しておけば、翌日は満充電で仕事を始められる。
さらに、こうした商用EVが各地に広まれば、バーチャルパワープラント(VPP=仮想発電所)を形成し、災害時の電力供給という支援体制も作れなくはない。昨今の災害でも、すでにEVが電力の供給で実績を上げ始めている。大災害のリスクが顕在化し、EV普及の必要性が高まっている今こそ、身近なEVの発売が望まれるのである。