フジテレビの海外ビジネスをけん引する大多亮常務のあいさつから始まった海外プレス発表会。司会は今夏にアナウンス室を離れ、総合事業局コンテンツ事業センターに異動した秋元優里氏が務めた。
この発表会は今月、フランス・カンヌで開催された世界最大級の国際テレビコンテンツ見本市・MIPCOM(ミプコム、10月14日~17日)の期間中に企画されたもの。フジが3つのグローバル・プロジェクトを発表する場を作った。
■英語のパフォーマンスで海外展開を強調
今年のMIPCOMは、キー局を中心に日本のテレビ局各局が世界に向けた番組プロジェクトを発表していた。そんな中、フジは現地時間15日夕、会場のパレ・デ・フェスティバルで、初の試みとなる海外プレス向けのサンセット・カクテルイベントを開催した。
会の冒頭、司会の秋元氏は、得意の英語でフジテレビについて紹介。日本の視聴者のみならず、海外マーケットに向けた番組制作にも力を入れていることも強調した。続いて、同局の海外ビジネスの顔である大多氏も通訳を介さず、英語のみであいさつした。
大多氏は、昨年のMIPCOMで、主催するリード・ミデム社から「ライフタイム・アチーブメント賞」を受賞した実績も持つ。これまで『東京ラブストーリー』をはじめ多くのヒットドラマを手がけ、アメリカの雑誌『タイム』でベスト番組の1つに選ばれるほど海外でも人気を誇るNetflixの『テラスハウス』の展開など、業界貢献度の高さが国際的にも評価され、贈られたものだった。1年前の授賞式で大多氏は「30年近く、テレビのドラマ制作に情熱を傾けてきたが、個人で賞をもらうのはこれが初」と述べ、感慨深い様子だった。
■国際共同製作はデートを重ねる過程と似ている
そんな縁のある地で「今年はこの場で3つのプロジェクトを発表したい」と切り出し、1つ目として、3年前にカンヌの同じ会場で生まれた企画である連続サッカードラマ『THE WINDOW』(全10話、各45分)の進捗が報告された。
発表されたのは、まず主演を務める注目の若手俳優、サミュエル・ジョーダンら主要キャスト陣。日本人女優が参加することも決まっているが、現段階では名前は明かされず、海外プレスからもこの日本人のキャスティングについて質問が寄せられるなど、関心が集まっている。
主要スタッフ陣も固まり、シリーズの総監督には、『Holding On(ホールディング・オン)』(97年)で英国アカデミー賞テレビ部門ドラマ・シリーズ賞を受賞した、イギリス人監督で俳優のエイドリアン・シェアゴールド氏の名前が発表された。この日、シェアゴールド氏の来場はかなわなかったが、会場にビデオメッセージが届き、「17歳の天才サッカー選手“ジョーダン・バーデット”の緊迫した10週間が描かれる。プロ契約主導権を争う大人たち、巨大犯罪の陰謀、そして数十億ユーロ規模の放映権をめぐる投資家と試合運営団体との息詰まる攻防に注目してほしい。まもなく始まる撮影を自分も楽しみしている」と興奮気味に話していた。さらに、クランクインが10月末からイギリスで予定されていることも明かされた。
同ドラマはフジテレビとヨーロッパ最大の公共放送局であるドイツ・ZDFの子会社、ZDFエンタプライズ社(以下、ZDFE)が共同出資するもので、製作はロンドンとベルリンに拠点を置くブギー・エンターテイメントが担当。フジとZDFEが全世界に配給する。大多氏はこの体制について「グローバル展開を視野に入れ、フジテレビにとって大きなチャレンジになる」と、あらためて意気込みを述べた。
会場には、ZDFEのロバート・フランク副社長も同席し、フジテレビ総合事業局コンテンツ事業センター・早川敬之氏との対談トークセッションも行われた。進行の秋元氏が「国際共同製作の難しさ」について2人に問う場面で、早川氏が「国際共同製作は互いの理解を深めるためにデートを重ねていく過程と似ている」と分かりやすく説明。ロバート氏は「NetflixやAmazonらが並ぶ激しい競争環境下で、フジテレビはパーフェクトな相手である」と評価していた。
■ガチャピン、カンヌを練り歩く
続く2つ目の発表はアニメの新作。今月17日から、フジテレビ『ノイタミナ』枠でスタートした『PSYCHO-PASS3 (サイコパス)』について紹介された。そして3つ目は、教育コンテンツの世界展開だ。目玉は、1973年に誕生して以来、日本では圧倒的な認知度を誇る着ぐるみキャラクター「ガチャピン」と「ムック」。中でも最近はYouTuberとしても活躍するガチャピンがフォーカスされ、MIPCOM期間中、ガチャピンがカンヌの会場を練り歩くパフォーマンスも行われた。
無事発表を終えたフジテレビの海外チームに声をかけると、「新メンバーを迎えてチャレンジを継続していく」と大多氏が代表して回答。今回、フジは初の試みとしてMIPCOMプレスルームの提供も行い、ニューフェイス、ニューウェーブの印象を残した。
長谷川朋子
テレビ業界ジャーナリスト。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者。仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴約10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。