繊研新聞社は10月23~25日、渋谷ヒカリエホールでファッション関係者向けの展示会「PLUG IN」を開催しました。展示会場で気になった、徳島で藍染めブランドを展開する、「STUDIO N2」を紹介します。
徳島産の阿波藍を使った、「灰汁発酵建て」という製法でできた染料液で、一着ずつ手染めしたウェアを作るのが特徴となる同ブランド。そもそも、なぜ徳島の藍なのでしょう? 代表の根本ちとせさんと、デザイナーの根本弘之さんにブランド立ち上げの経緯を尋ねました。
藍染め製品を日常利用
STUDIO N2は、根本ちとせさん(以下、ちとせさん)と根本弘之さん(以下、弘之さん)の夫婦二人による本藍染工房。二人は異なるアパレル企業に勤務していましたが、1998~2011年の間、共に転勤でイタリアに住んでいたそう。
ちとせさん「イタリアは『ものづくり』『マエストロ(職人)』を大事にし、ゼロからクリエイションを行う国です。そこで見て、学んだ楽しさを生かしたい、ものづくりの原点に戻って仕事をしたいと思い、地元である鳴門市にUターンする形で工房をオープンしました」。
徳島は藍染めの染料となる「すくも」の産地で、阿波藍と呼ばれる伝統産業が根付く土地。その起源は平安時代までさかのぼり、江戸時代に隆盛を極めています。そうした背景もあり、ちとせさんは小さい頃から藍染めには親しみを感じていたようです。
ちとせさん「今の藍染め製品は、芸術性・作品性が強い工芸品が多いです。でも、私は日常利用できるものを作りたかった。それが起業のキッカケですね」。
ちとせさんが先に地元である徳島に戻り、そこへ弘之さんがIターンという形で合流してスタートしたと言います。
藍染めの持つ消臭・抗菌作用に注目
二人はライフスタイルに適したアパレルウェアということで、藍染めされたアンダーウェアを開発。なぜアンダーウェアだったのか、弘之さんに聞きました。
弘之さん「趣味で自転車や登山をしているので、アンダーウェアはいろいろ使っています。でも、藍染めの製品は無いな、と思ったのです」。
以前は、化繊やポリエステル素材を使ったアンダーウェアが主流でしたが、藍は天然素材しか染めることができません。しかし、近年、吸湿速乾性と高い保温性のあるウールに注目が集まり、普段着やアウトドアグッズとして人気の素材となりました。ウールは天然素材なので藍染めすることができます。
弘之さん「メリノウールのアンダーウェアの大部分が化学染料を使っています。そこで藍染めの効果を調べてみると、強い消臭効果と抗菌作用を付与できることが分かりました」。
従来の伝統産業とは異なる見せ方をしたいと思っていた二人は、この機能に注目。高機能で、日常利用できるメリノウールのアンダーウェアを作ってみようと考え、「NARUTO AZZURRO(ナルト アッズーロ)」「SOUMEI(ソウメイ)」の2ブランドが誕生しました。
NARUTO AZZURROは普段着やスポーツ時の利用を想定したアンダーウェアや小物を展開し、SOUMEIは女性向けのウェアやアクセサリーのラインアップ。価格は8,000~1万8,800円(税別)となるそうです。
地方で起業するメリット
徳島県の鳴門市という「地方」を拠点にした起業ですが、どのようなメリットがあるのか聞いてみました。
弘之さん「製品のフィールドテストをするには良い環境ですね。外に出ればすぐ自転車やトレッキングなどできますから(笑)。こだわったものづくりをするには、地方は良いと思います」。
ちとせさん「地元の産業ということで、地域の方々から支援してもらえてるとすごく感じます。あと、大都市では埋もれるような活動が、地方だから目立つという部分もあり、注目されやすいですね」。
工房は空き家だった「ちとせさんの実家」の一部を2018年8月にリノベーションし、2019年GW前より稼動しています。そして、県や創業支援機構の事業計画認定により、改装資金を低金利で借り入れできたり、補助金や助成金を利用して東京での展示会に出展できたりするなど、地方では起業しやすい面があるそうです。
とはいえ、生活面での不便さはあり、都市ガスではなく、プロパンガスで販売店によって料金がまちまち、車がないと移動できないなどデメリットもあるようです。
藍染めのワークショップで「ものづくり」の楽しさを体験
工房では藍染めのワークショップも開催、地元の子どもや観光客などが参加しています。1時間半程度のワークを想定していますが、参加者が夢中になって作りこみをするため、時間をオーバーすることが多いと二人は話します。
ちとせさん「情操教育というと大袈裟かもしれませんが、じっくりと作業工程を経験してもらい、ものづくりの楽しさや喜びを知ってもらっています」。