相模鉄道が導入した相鉄・東急直通線用車両20000系、相鉄・JR直通線用車両12000系は、ともに相鉄が都心をめざすにあたり、新造された車両。「ヨコハマネイビーブルー」の鮮やかな色と、都心への直通。この2つは両形式とも共通している。
外観も、鉄道に関心のない人が見れば似ていると感じるかもしれない。これまで横浜へ向かうことをメインとしていた相鉄の利用者が、誤って乗車しないとも限らない。しかし、この2形式はそれぞれに違いがある。どんなところに共通点があり、何が違うのか。改めて考えてみたい。
■乗入れ先を意識した先頭車両
まず、わかりやすい見た目から説明すると、JR線への直通用として導入された12000系の先頭車両には貫通路がない。一部地下を走る区間があるものの、地下鉄の規格でつくられた路線を走ることがないからだ。運用の都合でりんかい線に入ることも想定されているようだが、りんかい線は地下を走っているとはいえ、地下鉄の規格ではない。
一方、東急線への直通用の車両である20000系は、東急東横線から東京メトロ副都心線、東急目黒線から東京メトロ南北線・都営三田線に入ることが想定される。地下鉄規格の路線を走ることが予定されているため、先頭車両に非常用の貫通路がある。
その違いは先頭車両のデザインにも現れている。12000系の先頭部は、能面「獅子口」をモチーフにデザインを構築。グリルを強く押し出した。20000系のほうはそこまで強くなく、あくまで装飾的な要素の中で優美に、シャープさを押し出している。貫通路があるため、大胆に先頭を作り込むということは困難だったかもしれない。
車両の横幅にも、乗入れ先の違いが現れている。12000系は横幅が広く、裾を絞り込むようなデザインになっている。209系以降のJR東日本の通勤電車と同じだ。この車両はE233系とほぼ同規格で作られており、幅は2,950mm。一方、地下鉄直通の20000系は、すらっとした印象を与えるストレートな車体で横幅の狭い車両であり、幅は2,770mm。乗入れ先の状況の違いが、見た目の違いも生み出している。
■メーカーの技術の違いもある
12000系はJR線との直通を意識し、JR東日本系列の総合車両製作所で製造されている。車体はステンレス製で「sustina S24」シリーズを採用している。この規格に則り、省エネルギーとメンテナンスコスト削減をめざす車両として導入された。車両としてはE233系とほぼ同じであり、報道公開の際には、「よくE233系と一緒でここまで作り込めた」という声も上がったほどだ。
20000系は日立製作所の「A-train」シリーズを採用し、アルミ押出型材を使用したダブルスキン構造となっている。こちらも環境負荷の低減などをめざしている。東急線や地下鉄へ直通するための試作車という意味合いが濃く、8両編成での運行に対応できるだけでなく、後に保安装置を追加できるようになっている。
そんな20000系と12000系は、相鉄グループが展開する「デザインブランドアッププロジェクト」の中心を担う車両である。車両のスタイル・価値観としては、同じでなければならない。利用者には「同じ相鉄の車両」と認識してもらう必要があり、まったく別の車両というイメージを持たせてはいけない。
■車内には共通点が多い
結果、両形式も同じ「ヨコハマネイビーブルー」の塗色となり、先頭部には大小差はあってもグリルがデザインされた。どちらも相鉄の将来を担うために製造された車両ということがわかるだろう。
車内に関していえば、20000系と12000系は共通点が多い。内装のカラーはグレートーンに統一し、車内に掲げられている文字のフォントも「DIN 1451」をベースにしている。車内照明も昼と夜で色調を変え、心地良い環境を演出している。
吊り手はともに楕円タイプ。座席はグレーのクッション性に優れたものを採用。JR東日本のE233系は座席が硬めであることが多いのだが、12000系は少しやわらかめ。20000系の座り心地もそれに近い。両形式とも特徴的な「ユニバーサルデザインシート」を採用しているし、相鉄の象徴とされる「車内の鏡」も設置している。ドアの開閉ボタンや車いす・ベビーカー利用者向けのフリースペース、車内案内の充実といった点でも、20000系と12000系は近いスタイルを採用している。
一方で、12000系は紙の中吊り広告が多く掲げられるようになっているものの、20000系は通路天井に液晶モニタを設置し、そこで広告が流れるようになっている。このあたりが車内の違いと言えようか。
一見似ている20000系と12000系も、細かいところまで見ていくとあらゆる面で違いがあることに気づく。普段から相鉄を利用している人は、どこが違ってどこが一緒か、じっくり観察してみると面白いかもしれない。