年々共働きの夫婦が増えてきていることから、育児に関しても男女平等であることが求められる声が増えている昨今。しかし、育児休業取得者の割合は女性82.2%、男性6.16%(厚労省「平成30年度雇用均等基本調査」より)。男性の育休取得者の割合は対前年度比1.02ポイント上昇し、過去最高となってはいるものの、依然として低い状況だ。
そんな中、ビジネスチャットツール「Chatwork(チャットワーク)」を展開するChatwork株式会社では、家事や育児を平等にシェアして夫婦ともに育児に関わることを「平等育児」と呼び、男性社員の育休取得にも積極的に取り組んでいるという。
育休取得にともなう引き継ぎ体制などを整え、育休に関連したユニークな制度も用意している同社。今回は、実際に育休を取得したという同社の男性社員に話をうかがった。
女性が育休取得できる企業なら、男性社員も可能
自民党の有志議員が6月5日、「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」を設立した。また、内閣により閣議決定された「日本再興戦略2016」では、2020年までに男性の育児休暇取得率を13%にするという目標も掲げられている。
しかし今年に入ってからも、カネカの男性社員が育休明けに転勤を命じられ退職したり、アシックスに務める男性社員も育休復帰後に不当な配置転換に遭ったりと、パタハラ(パタニティ・ハラスメント)問題が取り沙汰され、物議を醸した。
日本の男性における育休取得率の低さからは、「男は仕事、女は家庭」という前時代的な役割の固定化からまだまだ脱却できていない現状など、さまざまな課題が垣間見える。長時間労働や経済的理由なども大きな課題だと言えるだろう。
このようにさまざまな要因で男性の育休取得率の低迷が続く中、Chatworkでは男女ともに最大2年までの育休取得を認めている。
同社のプロダクトデザイン部に所属する竹本大樹さんは、昨年5月から6月にかけて、奥様の出産直前から1カ月間の育休を取得した。
「子どもが生まれる半年ほど前から育休について考え始めて、期間は妻と相談して決めました。子どもが一番成長する時期ということで3カ月の育休も検討しましたが、自分に仕事の感覚が残っている状態で復帰したかったので、最終的に1カ月間に決めたという感じです。3カ月休んだからといって仕事が全くできなくなることもなかったとは思いますが、1カ月で復帰した時は仕事へのモチベーションが高まっていた時期で、期間としてはちょうどよかったと思います」と竹本さん。
育児などの事情に限らず、同社ではコアタイムありのフレックス勤務や在宅勤務を導入しているそうだが、在宅でも働ける環境が整っている中で気持ちの切り替えはうまくできたのだろうか。
「復帰時に会社の情報や自分宛のメッセージが未読で溜まっているのが嫌で、自主的にメールやチャットツールは見ていました。ただ、返信はしないと決めて、育休中の1カ月間はこちらからは全く連絡しなかったです。普段、仕事をしていると焦るタイミングなどもありますが、育休中はそういうことも全くなくストレスフリーで。気持ち的にもいい状態で過ごせました」
育休からフルタイム勤務に復帰した竹本さん。男性ならではの育休取得の苦労といったことも特になく、手続き上のトラブルなどもなかったそうだ。
「育休前から部署全体でプロジェクトの調整をしていただいていたので、引き継ぎに関してそこまで大変なことはなかったです。人事に相談して必要な書類などを揃えるのは初めての経験で、そこに少し時間は取られましたが、男性だからどうこうということは特になかったと思います。引き継ぎ先をどうするかといった問題も企業によってはあるでしょうが、女性が育休を取れる企業なら男性の育休取得も十分可能だというのが実感です」
その後の家事・育児への関わり方にも好影響
「平成28年社会生活基本調査」(内閣府男女共同参画局)によると、日本人男性が子育てや家事に費やす1日あたりの時間は83分で、先進国中最低の水準にとどまっている。だが、男性の育休取得は、その後の育児や家事への関わり方にも影響があるようだ。
「今年7月に子どもを保育園に入れ、妻も8月から仕事に復帰したので、僕が保育園の送り出しや朝ごはん、妻が子どもの迎えや晩ごはんというように分担をしています。もともと積極的に家事をやるタイプではなかったんですが、少しは家事や育児に目を向けられるようになったのは、育休中の1カ月間で協力して家事・育児を効率的に回す方法を探る経験ができたおかげかと思います」
育休取得後に竹本さんはマネージャーに昇格しているが、当然ながら育児や家庭に積極的に関わっていく上では、復帰後の会社の受け入れ態勢も大切な要素。
「いまはフレックス勤務で、出社と退社の時間を早めて働いています。在宅勤務も、子どもが生まれる前は自分が体調の悪い時に使う程度でしたが、子どもを保育園に通わせるようになり、利用する機会が増えました。月2,3回ですが、子どもが急に体調を崩したり、どうしても私が保育園に子どもを迎えに行かなければいけないといった時などに活用しています」
竹本さんの部署には現在、産休・育休取得中の社員も含め7名が所属しており、同社内では男性社員2名が年内に新たに育休取得する予定だという。竹本さん自身も2人目の子どもを考えているとのこと。
「まず誰に相談するかなど具体的な育休取得の方法として、自分が会社に残した資料があるんですが、新しく育休を取る男性社員からそれが参考になったと言われ、そういう意味でも育休を取得してよかったなと思います」
「私が育休を取得する時も同僚のお父さん社員の意見が非常に参考になったので、今後はそうした情報が自然に入ってくるような制度があると、男性社員もより積極的にそれらの制度を活用しやすくなると思います」
ユニセフの報告書によると、取得可能な産休・育休期間に賃金と比べた給付金額の割合を加味し、賃金全額が支給される日数に換算すると、日本の男性は「30.4週」相当を取得できる計算になるという。つまり、給与を全額支給されながら30.4週は仕事を離れられるというわけだ。この数字は、経済協力開発機構(OECD)と 欧州連合(EU)のいずれかに加盟する41カ国の中で1位という結果に(2位の韓国は17.2週)。
一方で、日本人男性の育休取得期間は「5日未満」との回答が約6割を占め、大半が「名目育休」であることが明らかになっている(厚労省「平成27年度雇用均等基本調査」より)。
「育休を取る時は友人などから『取れるんだ!?』という反応が多くありましたが、特にありがたみを実感しているのがやはり妻で。育休もそうですし、最近もフレックス勤務などができる会社は本当に助かるといった話をしていました」
育休に関連した同社の制度には、子どもの出産に確実に立ち会うことができるように産前4週間、産後8週間まで在宅勤務ができる「出産立会い制度」、帰省費用を年に2回、1回につき1万4,000円支給(配偶者がいれば+1万4,000円)する「ゴーホーム制度」といったものもあり、この2つの制度を利用して奥様の里帰り出産に付き添う男性社員も多いという。
女性はもちろん、男性も「育休、取得できるの?」ではなく「取得する」「取得しない」を選べるような社会のあり方がこれからますます求められていくことだろう。共働きが当たり前になる中で、同社のような事例が増えていき、男性社員の育休取得が今後より多くの企業でも根付いていくことを期待したい。