AI(人工知能)、自動運転、ドローンなど、最新のデジタル技術で農業を支援する取り組みが進められている。背景にあるのは、深刻な人手不足と農家の高齢化だ。立命館大学のチームが中心となり北海道 鹿追町で展開している、露地野菜ロボット研究の最前線を取材した。

  • 北海道でスマート農業の取り組み - 立命館大ら、露地野菜の収穫を自動化へ

    北海道でスマート農業の取り組みが本格化している。写真は、立命館大学の深尾隆則教授のもとで研究を進める学生たちの様子

今ならまだ間に合う

鹿追町で展開する、露地野菜生産ロボット化コンソーシアムの代表機関を務めている立命館大学の深尾隆則教授は「地方において、農家の高齢化が相当に進んでいます。すでに育種、防除、栽培、収穫、運搬、集荷のどこが欠けても、農業経営がままならなくなる状況にまでなっている」と警鐘を鳴らす。農林水産省の直近のデータによれば、全国の就農者の60歳以上が占める割合は72.9%にまで達しているという。

  • 立命館大学 理工学部 電気電子工学科の深尾隆則教授

  • 農業就農者数の減少と高齢化が進んでいる

でも、今ならまだ間に合う――。深尾教授は、次のように続けた。「ほとんど最後のタイミングです。田畑を耕さなくなってしまうと、もうどうしようもない。まずは人手不足でできなくなった作業をオートメーション化することを目指しています」。コンソーシアムには、ヤンマー、オサダ農機、農研機構 北海道農業研究センター、鹿追町農業協同組合などが協力する。達成目標として2023年度(令和5年度)までに、開発した機械・ロボットの利用により経営体の収益を2倍以上に引き上げることを掲げている。

  • 露地野菜生産ロボット化コンソーシアム

キャベツの自動収穫

鹿追町の現地では、以下の農作業を取材する機会を得た。

  • キャベツの自動収穫およびコンテナの自動運搬
  • 収穫したキャベツを自動でフォークリフトに乗せる
  • タマネギの自動収穫およびトラクタの並走運搬
  • ドローンで農薬の自動散布を行う

まずはキャベツの収穫に立ち会った。従来であれば熟練者による収穫機の運転操作が必須で、収穫機にも(キャベツ選別のために)4、5人が乗車する必要があった。これをすべて自動で行うだけでなく、キャベツで満杯になったコンテナを自動運搬車がフォークリフトまで運び、さらにはフォークリフトが自動でトラックに積み込むところまで行う。

  • キャベツの自動収穫。画像解析とレーダを活用して、収穫機を自動走行させている(開発途中のため、デモでは学生2人が乗車した)

ディープラーニングによりキャベツを正確に検出し、傷つかないように収穫する。人工知能の教師データとして2,000枚程度のキャベツの画像を学習させたという。生育の違いでキャベツの大きさは異なり、また畝の高さなども均一ではない。そのあたりの微調整をどこまで精密に行えるか、が自動収穫のカギとなる。現状ではまだ、キャベツが大きすぎたり、うまく切り取れなかったときに機械に野菜が詰まることが、たまにあるそうだ。

  • 収穫部の様子。この技術を応用すれば、白菜、ブロッコリーなど他の野菜も収穫できるとしている

  • 無人の自動運搬車が、キャベツを積んだコンテナをフォークリフトまで運んでいく

  • フォークリフトも自動運転。1t以上のコンテナをトラックに乗せることができる

タマネギの自動収穫でも、画像解析でタマネギと土壌を見分けている。人工知能が畝の高さを判断、根切りや掘上げ深さを自動制御することにより運転者を不要にする。無人のトラクタが自動伴走するのがユニークだ。なお馬鈴薯など他の野菜にも転用できるという。

  • タマネギを自動収穫する様子

  • 画像解析の結果。収穫すべきタマネギの位置をしっかり認識している

このほか、圃場や集荷場をシームレスに自動走行する自動運転フォークリフト、および10kgの薬剤を散布できる自動飛行ドローンも取材した。自動運転フォークリフトには、安全のために運転者が乗っていたが、操作はすべて自動で行っていた。レーザセンサ、衛星測位(GNSS)などを活用しているという。ゆくゆくは、コンテナを運ぶトラック自体も自動運転で動かしたい考えだ。

  • 自動運転フォークリフトがトラックにコンテナを積んでいく

  • こちらはトラックに積み込まれる前のコンテナ。キャベツが満杯に入っている

  • 自動飛行ドローン。散布偏差プラスマイナス7.5cm以内の精度で薬剤を散布できる

そこまで待てない、の声も

深尾教授はスマート農業の狙いについて、あらためて次のように説明した。「そもそも露地野菜は収穫に非常に時間がかかります。しかも北海道の農場では、キャベツ、たまねぎの収量がとても多い。一方で農家は高齢化しており、人手不足。収穫期にはアルバイトや派遣の方たちに頼らざるを得ない状況が続いています。そこでAIによる自動化が進めば、労働力に困らなくなる。経営者は農業が続けられるだけでなく、耕地面積もさらに増やしていけます」。今後については「できるだけ省力化、省人化を進めていき、究極的には無人で収穫時期を迎えられるところまでいければ」と夢を語る。

既述の通り、2023年度までに収益の大幅増を狙うが、現場では「そこまで待てない。できるだけ早く実用化を」という声があるというから、その窮状ぶりがうかがえる。なお、キャベツ収穫の導入コストは約1,900万円、ランニングコストは年間約10~30万円を見込んでいる。同様に、タマネギ収穫の導入コストは約900万円(トラクタ含まず)、ランニングコストは年間約5~20万円かかるが、「収穫に2~3か月かかる鹿追町のような大規模圃場であれば、人件費の元は3~4年でとれる計算」(深尾教授)だという。

若者の就農支援という側面でも効果が期待できるそうだ。農業経験がまったくない若者が、スマート農業により明日から農家になれるという意味ではないが、農業大学や農研機構のようなところで学んだ人間であれば、就農までのハードルは下げられるとのこと。きつい、汚いといった昔ながらのイメージから脱却できたとき、若い農家も増えていくのかも知れない。