iPhone 11のカメラについては、まだまださまざまな重要な要素が隠されていると感じる。むしろ、その弊害が出るのではないか…と心配してしまうほどに、iPhone 11のカメラ機能は進化している。前回の原稿では、最も目につく要素について触れてきたが、もう少し「写真の未来」という視点でiPhone 11のカメラ機能を見ていこう。

  • 単にカメラの数が増えただけではない大きな進化を見せるiPhone 11シリーズ

LivePhotosの次のタイムマシン機能

iPhoneのカメラは、先に「LivePhotos」という新しい写真の撮り方を取り入れた。シャッターを押した瞬間の前後1.5秒ずつを動画として記録し、撮影の瞬間をショートムービーとして楽しめる機能だ。

LivePhotosでは、写真として表示するフレームが自動設定されるが、あとから好きなものが選択できる。例えば、こどもがジャンプするといったシャッターチャンスの瞬間を逃した場合でも、カメラをきちんと被写体に向けていれば、1.5秒は過去にさかのぼって設定できるわけだ。いくらiPhoneのカメラが機械学習処理を生かしてシャッターボタンを押すだけで最適な結果を得られるとしても、そのシャッターボタンを押す瞬間を逃しては元も子もない。Appleは、失敗写真の原因となっていた「シャッターのタイミング」という問題解決を行ったのだ。

  • 写真と一緒にショートムービーを記録するLivePhotosだが、シャッターを切る1.5秒前までにさかのぼってシャッターチャンスを得るタイムマシン的な機能としても活躍する

Appleは、2019年のiPhone 11で、さらに“その次”を用意していた。

今一度、iPhoneのカメラやLivePhotosで解決される問題を除いて失敗写真の原因を考えてみると、「フレーム」の問題がある。場面や被写体をどう切り取るかで、写真の善し悪し、つまり明確に主題を際立たせているかどうか、迫力ある写真か、バランスが良いかが左右される。

iPhoneの写真アプリでは、写真を表示する領域をあとから編集してフレームを調整するトリミング機能がある。しかし、機能名からも分かる通り、撮った写真の不要な部分を切り取って調整することはできるが、逆に必要な部分をあとから追加することはできなかった。これは、古くから写真にとって当たり前の話で、写っていないものを追加することはできない。

例えば、Adobeはこの問題に対処すべく、Photoshopで「コンテンツに応じる」というコマンドを用意した。写真のサイズを大きくしてできた余白を、AI処理で自然に埋めることができるのだ。例えば、森や草といった背景のパターンであれば、AIが合成したかどうか分からないほどの仕上がりにしてくれる。

撮影範囲をあとから広げられる

AppleはiPhone 11で、このPhotoshopと同じような編集機能を追加したとすると、なかなか画期的だと思わないだろうか。前回の原稿で解説したとおり、撮影に使うカメラより1段広角のカメラも同時に作動させ、カメラアプリのUI上に写真に写らないフレーム外の様子も表示させる仕組みを新たに搭載した。

しかし、表示させるだけでない。シャッターボタンを押すとフレームの外側も一時的に記録しておき、あとからフレームを外に拡げて、当初写っていなかった被写体を写真に含められるようになったのだ。シャッターのタイミングとともに、撮影時に決定されてしまっていたフレームを、あとから編集で変えることができる。これも、新しいタイムマシン機能といってよいだろう。

  • iPhone 11で撮影した写真。フレームの外側にグレーで表示されている部分は、当初は写っていなかった領域で、編集作業により付け加えることも可能。つまり、あとから画角が広げられるのだ

こうして、AppleはiPhone 11で、LivePhotos以来の新しい「失敗写真防止タイムマシン機能」をもたらした。しかも、写真だけでなくビデオでも同様に、フレーム外を含めた映像へと加工できるのだ。

もちろん、新しいカメラのUIはプレビューでフレームの外側が見えており、それを意識した写真が撮れる。これだけでも、フレームに起因する失敗写真の多くは防げると思う。ただ、フレームが原因の失敗写真を撲滅するにはどうするか、ということで、今回の新機能を搭載したと考えられる。

いくつかの制限としては、まずデフォルトではこの機能がOFFになっているため、設定アプリのカメラの項目から、フレームの外側を撮影するよう写真・ビデオそれぞれで設定する必要がある。また、この機能が使えるのは広角と望遠カメラのみで、超広角カメラはそれより広い領域を映すカメラがないため、作動しない。(続く)

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。