先ごろ、「地域(地方)と仕事でつながる『旅するように働く』」というテーマで、お酒を片手にパラレルキャリアを楽しく語り合う「パラキャリ酒場」のイベントが行われた。

テーマに関わりをもつ、パラレルキャリアの実践者やその領域に詳しい推進者などの3名がスピーカーとして登壇し、議論が行われた。当日の模様を紹介したい。

  • 左から亀井諭さん、加形拓也さん、柚木理雄さん、高村エリナさん

地方とつながり働く実践者などがパネラーに

地域の資源を活用したビジネスを創造するためNPO法人や株式会社を立ち上げたり、中央大学では特任准教授も務めたりしている、元農林水産省の柚木理雄さん。

広告会社で、クライアントの商品開発などをコンサルしている加形拓也さんは、地方自治体の顧問、富山でのゲストハウス運営などを行いながら、東京八丁堀と神奈川県三浦市に2拠点生活も実践している。

パソナJOB HUBのディレクターの亀井諭さんは地方の企業などと、「旅するように働く」というキャリアを考えながら、自らも東京と京都を行き来している。

モデレーターは、地域創生に関わりたい人向けに「秘境PR部」を企画し、新たな仕事を生み出している「パラキャリ酒場」代表の高村エリナさんが務めた。

  • 会場は満員になるほどの盛況ぶりで、関心の高さがうかがわれる

東京で築くパラレルワークとの違い

最初に「旅するように働く」パラレルキャリアの魅力について意見が交わされた。まず、地方にとっても、働きたいパラレルワーカーにとってもメリットが大きいと話してくれたのは柚木さん。

柚木さん「まず地方にとっては、できる人が増えるので、担い手不足の解消になります。一方、地方に関心がある人の中には、地方に移住したいが、いきなり東京を捨てて実行するのはリスクがあると考える人が結構多い。

地方移住のリスクの一番大きな要因は仕事なので、東京で本業を持ちながら、パラレルキャリアができるのは非常に魅力。地方の仕事は、東京と比べて労働単価が低いので、収入面でも安定します」。

亀井さん「東京でパラレルキャリアを始めようとすると、先ずはできることから探してしまって、結果本業とさほど変わらなかったりします。その点、この働き方だと、自分のWill(やりたいこと)に近いことが実現できると思います。なぜなら、地方と東京では求められるレベルや物差しが違うからです。

例えば、地方では、情報管理がまだまだ紙だったり、コミュニケーションも電話が主だったりして、東京で当たり前のクラウド上でのデータ管理やSlackやチャットワークといったコミュニケーションツールの活用がまだまだ周知されていません。そういった新たなツールを少し提案するだけで、驚くほどいろんなバリューが提供できます」。

定住まではいかなくても、地方との関わりに興味があれば、仕事の可能性は普通にパラレルキャリアよりも広がりそうだ。東京と地方を行き来している加形さんは、本業への影響について触れた。

加形さん「地方だとおいしいものが食べられる。個人的にはそれだけでもありなんじゃないかと思いますが……(笑)。もうひとつは、移動を通じて、違う生き方をしている人に触れたり、新鮮な気持ちで企画を考えたりできるところです。

実際、地方での仕事を終えて東京で仕事をすると、行き詰まっていた本業の仕事も別の視点から考えられたりして、結果的に仕事がうまくいくことが何度かありました」。

違う場所に行くのは、時間がかかるなどデメリットもあるだろうが、加形さんのような、考え方を切り替えられるメリットも大きそうだ。意識してやれば、副業だけでなく本業にも利点が生まれてくる。

  • グラフィックレコーダーの本園大介さんがイベントの内容を、同時進行で絵や図、テキストで分かりやすくまとめていた

地域というくくりではなく、人と関係を築けるかが大事

新しい仕事を見つけるだけでも大変なのに、皆さんどのように知らない地域に入り込んでいるのだろうか。

次のテーマになったのは地方への入り込み方である。亀井さんは、共感してもらえる人(キーマン)を作ること。そして、加形さんは、好きだということと、何ができるかを明確にすること、だそうだ。

亀井さん「私たちは、いろんな地方・地域の人々とお仕事をしていて、その経験を通じて感じるのは、『共感してもらえる人』の存在です。信頼関係をつくれる人といかに出逢うかが大事だと思います」。

加形さん「僕の場合は2つです。1つ目は、その地域のことがすごく好きなこと。2つ目は、この地域との仕事に何で貢献して、どのくらいの時間を使えるのか、明確にすること。限られた時間の中で行うので、認識しておくことは大事だと思います」。

一方、柚木さんからは、違った視点から、地方への入り込み方を提案。

柚木さん「『地域(地方)』というと、少し漠然としているように思います。自分が必ずどこか新しいところで事業を始めるときには、地域の人全員が賛成してくれるわけではないので、一緒に事業を行う地域の人や協力してくれる人たちというのに限定されます。そういうことでは、好きな人と一緒にやりたいことを実現していくことが大事かなと思っています」。

これを受けて、「地方と仕事する上では、きちんとコミットする人を見つけて、そこと関係を築いていくということが重要になりそうですね」と、モデレーターの高村さんが補足した。

  • 東京にいながら、地方とつながることができるJOB HUB TRAVELサービスを紹介している亀井さん

自由だからこそ枠を決めずに楽しみ、対話も欠かさない

最後に、旅するように働く上で、押さえておくべきポイントについて、一人ひとりにアドバイスしてもらった。

亀井さん「遠距離のお仕事になるので、通常よりも意識しないといけないのは『密なコミュニケーション』です。チャットだけのコミュニケーションも便利ですが、対面ではない分、大事なことがうまく伝わらないことも起こります。

皆さんには、それだけでコミュニケーションを終わらせずに、月1回は現地に行って、お仕事相手のお客様やカスタマーに会うことをオススメしています。そうすれば、サービスをもっと理解できるし、お客様との信頼関係も深まります」。

柚木さん「私が提供している定額で全国のホステルに泊まり放題となるサービスに、『既婚者は利用していますか』という質問をよく頂きますが、自分の制約やNGみたいなものに縛られている印象ですね。せっかく旅するように働くので、そういったところを一度外してみると、選択肢も増え、自分に合ったライフスタイルを見つけやすくなるのではないかと思います」。

加形さん「東京と地方を行き来していることで、私が今直面している課題は本業のプロジェクトマネジメントです。対面で話せば5分で済むことが、離れていることで炎上してしまいそうになることも少なくありません。そこで、大事にしているのは、会社に戻ったら、たとえ数分でもいいので、メンバーのために時間を取り、相手の話を聞き、現状の大変さを理解するためにコミュニケーションを取るようにしています。そのために、1on1などの社内の制度も積極的に活用します。

そして、それは、家族との関係も同じです。数年前から2拠点生活をしていますが、家族と一緒に始めたので、どんな生活をしたいとか、1日をどういうふうに過ごしたいのかということを子どもたちも一緒になって話し合って、自分たちにとって心地よい生活を模索しています。たぶん、それがしっかりできていると、今の時代、遠隔でも仕事はやりやすいと思います」。


ICTやコミュニケーションツールなどが整備され、旅するように働く自由が実現しやすくなってきたからこそ、意識して取り組みたいことを、実践者からたくさんアドバイスいただいた。

撮影:野永雄司