9月19日、「昭和~平成~令和のバラエティ」と題した対談イベントがマイナビニュース主催で開催された。『進め!電波少年』(日本テレビ)などで知られる土屋敏男氏と、『チコちゃんに叱られる!』(NHK)などで知られる小松純也氏が登壇。ライターの戸部田誠氏(てれびのスキマ)がMCを務めた。
このイベントは、土屋氏と小松氏が“バラエティ”をテーマに繰り広げたマイナビニュースの連載企画「平成テレビ対談」の続編。今回は、長らくテレビ・エンタメ業界の第一線で活躍する2人がこれまでの歩みと番組制作の裏話を披露し、昭和と平成、そして新たな令和時代におけるバラエティ番組について本音で語り合った。
■辞表用意の覚悟で番組作り
トークはまず“昭和のテレビ”の話題からスタート。土屋氏が日本テレビに入社したのは1979年のことで、編成部を経て制作部へ異動に。82年スタートのワイドショー『酒井宏のうわさのスタジオ』を担当、85年スタートの『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で総合演出を務めていたテリー伊藤氏と出会い、当時の貴重なエピソードの数々が語られた。
こうした現場経験を経て、「何がテレビの面白さを決めるのか」について学んだという土屋氏。ときには視聴率の低迷にも悩まされたというが、「世の中にないものを作っていこう」という思いで番組に向き合っていたという。
一方、学生時代からすでにテレビの仕事に関わっていたという小松氏は、フジテレビでキャリアをスタート。1991年の『ダウンタウンのごっつええ感じ』などを手がけて才能を開花させた。
土屋氏、小松氏の両名が競うようにヒット番組を連発したのが平成の時代だ。中でも土屋氏の代表作といえば『進め!電波少年』。同番組で用いられたドキュメントバラエティという手法は、ワイドショーをヒントに編み出したのだという。
バラエティでありながら予定調和にならず、視聴者に驚きを与える土屋イズムはその後もテレビ業界を席巻した。時には歴史的瞬間を伝える番組ですら土屋氏の“実験場”となった。そうした際、土屋氏は辞表を用意しておくほどの覚悟をもって番組作りに臨んでいたという。この他にも、さまざまな有名番組で土屋氏が仕掛けてきた、このイベントでしか明かせない衝撃的な出来事の裏側が語られた。
対する小松氏も番組の中で多くのトラブルに遭遇し、それをむしろ生かすことで人気につなげてきた。その詳細はここでは明かせないが、その中には今もネットで語り継がれる衝撃事件も含まれている。
平成の30年を経て番組作りは大きく様変わりしてきた。以前ほど“冒険”ができなくなったというのがテレビマンの共通見解だろう。
■「頭のおかしいテレビマン」の出現に歓喜
そんな中で、令和のテレビはどうなっていくのだろうか。
土屋氏が最近の番組で注目しているのはNetflixなどの動画サービスでも配信されている、テレビ東京の上出遼平氏が手がけた『ハイパーハードボイルドグルメリポート』だという。
「まだこんな良い意味で頭のおかしいテレビマンがいるんだってうれしくなりましたよ(笑)。その人の編集もうまいと思うし、最初から英語版を作るつもりでこれから作ったらいいと思います。海外のリアリティショーとも戦えると思いますね」(土屋氏)。
さらに土屋氏は、小松氏が現在手がけているお笑いドキュメンタリー番組『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』も絶賛。実はこの番組はフォーマットを海外に販売しているとのことで、各国ごとの『ドキュメンタル』が存在しているという。
この点について問われた小松氏は、「国ごとに根本的に笑いの感覚が違う。日本の笑いも海外から見れば特殊で面白くはないのでは」と述べた上で、「笑いは不思議。日本では芸人の暗黙のコードがあって、視聴者とも共有できている」と分析。さらに「見られ方が多様化している。昔は放送局に(番組が)ひもづいていたが、今はアイデアが死なない時代」と令和のテレビのあり方を考察した。
その意味で“現代的”ともいえるのが、小松氏が企画したNHKの番組『チコちゃんに叱られる!』である。小松氏は当初から「民放よりもNHKで流したほうがウケるだろうなと思った」といい、その理由として「NHKだからこそのギャップが新鮮」だと述べた。
これに土屋氏も同意し、「(番組は)企画3割、演出7割という言葉がある。企画ばかりが注目される『チコちゃんに叱られる!』だが、実は演出もすごい」との見解を示した。
■テクノロジーの活用に意欲
終盤では、来場者からの質問に2人が答える質疑応答コーナーを実施。
「アイデアはどこからわいてくるのか」という質問が会場から寄せられると、小松氏は「ものをつくるにはスマホだけを見てどうでもいいニュースを読んでいてもダメ。日々の生活やまわりからの情報の中で思うことを大事にする」と回答。実は『チコちゃんに叱られる!』もそうした日々の暮らしの中から出てきたアイデアだという。
「“なんだこれは”という気づきにこそ企画の芽がある」と語るのは土屋氏だ。よくある予定調和な演出の例として、「レストランにタレントが入り、そこでカメラが切り替わって中からタレントを映す」という手法を例に挙げ、「カメラがあるのにタレントが初めて入るようにふるまうのっておかしいでしょ」と指摘。そうした演出に対する一種のアンチテーゼとして「本当にタレントだけ行かせて、それを遠くから撮った」のが『電波少年』だと語った。
「そんなのテレビじゃないって言われても、視聴者には“そうそう、これだよ”と言ってもらえる。テレビってこうだよねと言われることに対して、そうか?と疑問に思うことが企画につながる」(土屋氏)
平成、そして令和でも引き続きその活動に注目が集まる土屋氏と小松氏。最近では土屋氏が企画・演出を手がけたライブエンタテインメント『NO BORDER』が話題になった。
同企画のようなテクノロジーを用いたエンタメについては、小松氏も気になっているとのことで、「今後、こういうものはどんどん出てくるはず。土屋さんはそこを切り開いていかれると期待している」とコメント。「テクノロジーをおもしろく使うことについては、僕たちが役に立てる。今後も世の中におもしろいものを出していきたい」と意欲を示し、対談を締めくくった。