9月20日に販売が始まった、2019年モデルのiPhoneとApple Watch。いずれの製品も、正面には大きなディスプレイが構えており、製品の体験の主役ともいえる存在となっている。今年のモデルでは、それらのディスプレイがそれぞれの方向性に進化しており、非常に興味深い。
Appleのスクリーン全般に関して俯瞰しながら、2019年モデルの主力製品について見ていこう。
実はまだ終わっていないディスプレイのRetina化
AppleはiPhone→iPad→Macというサイクルで、iPhoneで量産化にこぎ着けたテクノロジーや体験を他の製品に拡げていく戦略を採ってきた。Siri、Touch ID、Face IDなど、製品の体験に直結する技術は、iPhoneからiPad、Macへと拡がりを見せていった。
その中で、最初にスタンダードとなったのがRetinaディスプレイだ。2010年に発売されたiPhone 4には、これまでと同じ3.5インチサイズながら、ピクセル数を4倍に高めたRetinaディスプレイが初めて搭載され、まるで印刷のような画面表示をスマートフォンに持ち込んだ。
その後、Retinaディスプレイは2012年に4インチに、2014年には4.7インチと5.5インチに拡大し、上位モデルではフルHDの解像度を持つRetina HDディスプレイとなった。2017年には、有機ELパネルを搭載したSuper Retinaディスプレイを搭載した。
同時に、iPad 3、iPad mini 2、2012年以降のMacBook Proが続々とRetina化されていき、iMacも4Kや5Kの解像度を持つモデルが登場した。そして、長らくRetina対応を果たしてこなかったMacBook Airも、2018年秋についにRetina化された。Appleのディスプレイ付き製品で「Retina」非搭載で残っているのは、廉価版の21.5インチiMacのみだ。意外にも、間もなく10年が過ぎようとしているApple製品のRetina化は、まだ終わっていないのである。
Retinaの上として登場した「XDR」
Appleは、2019年6月に開催したWWDC 19で、珍しく新しいハードウエアを発表した。モジュール型で拡張性と排熱性に優れたMac Proと、これと組み合わせる6K解像度を持つPro Display XDRである。
このXDRとは「拡張ダイナミックレンジ」のことで、液晶ディスプレイながらコントラスト比100万:1を実現し、リファレンスディスプレイ並みの画質を1/5の価格で実現する唯一の存在として登場する。
そして、今年のiPhone 11 Proシリーズに搭載された有機ELディスプレイにも、新たに「Super Retina XDR」と、プロ向けディスプレイに付けられた拡張ダイナミックレンジの称号が与えられた。有機ELディスプレイは黒が消灯になるため、コントラスト比がもともと高い。今回のiPhone 11 Proのディスプレイは、最大輝度を高めることでダイナミックレンジをさらに拡張し、200万:1というスペックと、最大輝度1200ニトを実現した。
Appleは、現在「Pro」と名前のつく製品に対して、XDRをうたうディスプレイを採用し始めている。映像制作や写真編集におけるプレビューを行う機器という性格を考えると、妥当な対応といえる一方で、これを実現できるテクノロジーが限られているのも事実だ。
Pro Display XDRは、液晶ディスプレイのバックライトをより明るくすることでコントラスト比の向上を行っているが、そのために排熱機構をディスプレイに注意深く実装している。iMac ProやMacBook Pro、さらにはiPad Proも、今後このXDRをうたうディスプレイを搭載する場合、少なくともコントラスト比100万:1を実現することになるが、一体型の場合はどうしても熱の問題と消費電力の問題がつきまとう。
iPad ProやMacBook Proでこれを実現するためには、iPhone 11 Proのように有機ELディスプレイへの移行が必要になりそうだが、価格が格段に高くなるだろう。それでも、存在していることが重要であれば、Appleは価格度外視のプロ向け製品として用意してくるのではないか、と思う。