ウェルスナビは16日、ロボアドバイザー「WealthNavi」にAI(人工知能)によるアドバイス機能を実装したと発表した。また今秋には、退職時までに老後資金を蓄えておくことをサポートする新機能「ライフプラン」のベータ版をリリースするという。都内では同日、事業戦略発表会が開催された。

  • WealthNaviにAI機能が追加。人工知能が利用者に寄り添ったアドバイスを行うサービスを目指している

老後には2,000万円が必要?

WealthNaviは、資産運用アルゴリズムを活用して国際分散投資を自動で行うサービス。ウェルスナビは今回、東京大学の松尾豊教授の研究グループと共同で、AIによるアドバイス機能を実装した。「投資対象の銘柄を選択する」「値動きを予測する」といった汎用的な使い方ではなく、利用者1人ひとりの心理を理解して寄り添うことで、より長期にわたる資産運用をサポートすることを狙っているという。

  • サービスの利用イメージ

  • 東京大学との共同研究で、AIによるアドバイス機能を実装した(メッセージ、画像はイメージ)

登壇した、代表取締役の柴山和久氏は「退職金の減少、年金水準の低下、終身雇用の終焉、少子高齢化といった問題により、働く世代にとって資金運用が大切な時代になりました」と切り出す。退職金の平均額が2,000万円台だった時代は終わりを告げ、今や年金と退職金だけで豊かな老後を実現することは難しくなってきている。厚生労働省の就労条件総合調査をもとにウェルスナビが試算したデータによれば、大卒者が定年まで働いた場合の退職金は、2040年頃で約1,000万円まで減少しているというから心もとない。

  • 大卒者の退職金は2040年頃には約1,000万円と予測される

同社が2016年に開始したWealthNaviは、スマホを操作するだけで簡単に運用プランを作成できるサービスとなっている。ウェルスナビではこの取り組みをさらに発展させ、同社が『資産運用3.0』と呼ぶフェーズに移行させたい考え。その特徴として1. ライフプランをサポートし、2. AIによる適切なアドバイスを行い、3. 個人金融サービス全体を最適化すると説明する。今秋にリリースする新機能「ライフプラン」は、その特徴が充分に活かされたものとなる見込みだ。

  • 2016年にスタートした資産運用のWealthNaviにライフプラン機能が追加される。なおWealthNaviの利用者は、約94%が20代-50代の働く世代だという(2019年7月時点)

ライフプラン機能では「必要な老後資金を見える化」し、「投資計画を提案」して、「投資計画の進捗をトラック」する。柴山氏は「老後に必要な資産は2,000万円、という言葉が独り歩きをしました。しかし老後に必要な金融資産の額は、1人ひとりで異なります。そこで、まずは資産運用の目標を見える化し、その上で個々人に最適な投資計画をサポートしていきます」と説明する。その中でAIは、どのような使われ方をするのだろうか。

  • 目標の見える化、目標のパーソナライズ、目標のトラックがライフプラン機能の柱になる

金融業界に新しいタイプのAIを

登壇した、執行役員の牛山史朗氏は「すでに金融業界には、相場を分析して予測することで高い利益を狙うAIが数多く登場しています。しかし弊社が展開するAIは、お客様を理解して寄り添うことを目的にしています。金融業界では新しいタイプのAIと理解しています」と紹介する。

  • 代表取締役CEOの柴山和久氏(左)と、執行役員リサーチ&クオンツ / AI資産運用ラボ所長の牛山史朗氏(右)

例えばeコマースにおける最大手のひとつ、Amazonではネットショップにおける商品の提案においてAIを活用している。教育分野では、AIが子どもの理解度に合わせて学習コンテンツの出し分けを行うサービスも珍しくない。

そこでウェルスナビでは今回、長期的な資産運用を行っているユーザーの心情を汲み取って、最適なタイミングと方法で不安感を和らげることにAIの機能を集中させる。「相場が急落すると、資産が目減りします。人によっては不安になったり、ショックを受けたりすることもあるでしょう。このまま長期投資を続けるべきか悩む方が増え、挫折する方も出てしまう。そこでAIがアドバイスをすることで、長期投資を着実に続けてもらうことができます」と牛山氏。どのタイミングで、頻度で、どんな呼びかけ方で、切り出し方で、何のツールを使ってアドバイスするかは、利用者に最も響くものに最適化されるとのこと。

  • AIが利用者の悩みを解決。長期投資に挫折しそうな利用者を見つけてアドバイスを行うという

  • 個々人が抱えるさまざまな悩みに対応してくれそうだ

柴山氏は、ライフプラン機能におけるAIの使われ方について、海外の事例を参考に、次のように説明する。「海外の富裕層は、プライベートバンカーといった専門家をつけて金融の相談をしています。したがって海外において、金融サービスは富裕層に向けたものになっている。私たちはAIを活用することで、これを誰でも使えるサービスにしていきます」(柴山氏)

その背景には、金融についてリテラシーが低くても、また少額であっても、誰もが資産運用に取り組める社会を実現したい、という思いがある。最後に柴山氏は「AIなら規模の拡大に強く、低コストで100万人、1,000万人の顧客の相談にも乗ることができます。お客様が増加すれば、学習データが増加して、AIの精度向上も望める。この好循環を実現していけたら」と意欲的に語っていた。