東京2020組織委員会は7日、世田谷区立弦巻小学校にて「東京2020算数ドリル 実践学習会」を開催した。これは東京2020教育プログラムの一環として、都内の公立小学校を中心に実施されているもの。8回目の開催となった今回は、6年生4クラス149名の子どもたちが憧れのサッカー選手と一緒に”体育のような算数”の実践学習会を体験した。

  • 世田谷区立弦巻小学校にて「東京2020算数ドリル 実践学習会」が開催された

    世田谷区立弦巻小学校にて「東京2020算数ドリル 実践学習会」が開催された

東京2020算数ドリルとは?

東京2020算数ドリルは、楽しく算数を学びながら、オリンピック・パラリンピックの競技についても自然に学べる内容になっている。

  • オリンピアン、パラリンピアンが算数のドリルに登場する、東京2020算数ドリル。スポーツの魅力で楽しく算数を学べる。A巻がオリンピック版、B巻がパラリンピック版

    オリンピアン、パラリンピアンが算数のドリルに登場する、東京2020算数ドリル。スポーツの魅力で楽しく算数を学べる。A巻がオリンピック版、B巻がパラリンピック版

  • 「東京でオリンピックが開催されるのは何年ぶりかな?」1964+x=2020といった基本問題から、近代五種の得点の付け方をa、bを使った文字式で表せ、といった難問も

    「東京でオリンピックが開催されるのは何年ぶりかな?」1964+x=2020といった基本問題から、近代五種の得点の付け方をa、bを使った文字式で表せ、といった難問も

アスリート2人が授業を全力サポート

この日、世田谷区立弦巻小学校を訪れたのは、サッカー元日本代表でアテネオリンピックにも出場経験のある石川直宏さんと、横浜マリノスやFC東京でGKとして活躍し、現在は5人制サッカー(ブラインドサッカー)に取り組んでいる榎本達也さん。子どもたちは2チームに分かれ、石川さんのチームは『50m走の速さ』を、榎本さんのチームは『シュートの速さ』をテーマに実践学習に取り組んだ。

  • 石川直宏さん(左)と、榎本達也さん(右)

    石川直宏さん(左)と、榎本達也さん(右)

石川チームの学習範囲は『道のりと速さ』。どうやったら、50m走で石川直宏さんと同時にゴールできるか、みんなで計算して求めようというのが目標だ。ウォーミングアップを済ませた後、まずは石川さんが50mを全力で疾走する。そのタイムは6秒90だった。

  • 石川さんが50mを全力で疾走。タイムは6秒90だった

    石川さんが50mを全力で疾走。タイムは6秒90だった

次に、子どもたちが50mを走って自己タイムを計測。その結果を元に「自分はスタート地点より何m先でスタートすれば、石川さんと同時にゴールできるか」を考えた。担任の先生からヒントが与えられると、子どもたちは様々な計算方法を提案していった。

  • 担任の先生のアドバイスを参考に、どうやって計算したら良いか考える

    担任の先生のアドバイスを参考に、どうやって計算したら良いか考える

  • 友だちと相談しながら頭を悩ます子どもたちの姿も

    友だちと相談しながら頭を悩ます子どもたちの姿も

一方で、榎本チームの学習範囲は、速度の単位。榎本さんや自分のシュートスピードを計測した後に、動物の速さと比較して順位をつけるところまでを目標にした。まずは榎本さんがシュートを放って速度を測定。そのスピードは、右足が107km/h、左足が96km/hだった。

  • 榎本さんがシュートのデモ。右足が107km/h、左足が96km/hだった

    榎本さんがシュートのデモ。右足が107km/h、左足が96km/hだった

  • スピード測定器に向かって、次々にシュートを放っていく子どもたち

    スピード測定器に向かって、次々にシュートを放っていく子どもたち

  • ダチョウが走る速さは分速850m、カンガルーが走る速さは秒速19.4m。担任の先生からは、まず単位を揃えましょう、とヒントが与えられた

    ダチョウが走る速さは分速850m、カンガルーが走る速さは秒速19.4m。担任の先生からは、まず単位を揃えましょう、とヒントが与えられた

石川チームでは、最後にもう1回走って、計算が合っていたか確かめることに。7名の児童がそれぞれ異なるスタートラインに立ち、石川さんと全力で徒競走した。その結果は、果たして?

  • 石川さんと7名の児童が、それぞれ計算で得られた位置からスタート

    石川さんと7名の児童が、それぞれ計算で得られた位置からスタート

  • よーいドン、で各人の差がみるみる縮まっていく

    よーいドン、で各人の差がみるみる縮まっていく

  • 最後に、全員がほぼ横並びの状態でゴールインした

    最後に、全員がほぼ横並びの状態でゴールインした

石川さんは、自身の現役時代のプレイスタイルを振り返り「もともと走ることは得意でしたが、それでも走り負けないよう、他の選手よりも早くスタートする、距離をとって加速する、などの工夫をしていました。今日も、みんなで色んなアイデアを出し合いましたね。みなさんは今後、様々なことにチャレンジしていくと思いますが、是非考えることを大事にしてください」とまとめた。

参加した子どもの反応は?

4人の児童に感想を聞く機会があった。みんな、体育は大好きだという。そこで算数も好きか尋ねると「今回の授業で好きになった」という子もいれば、「算数は好きですが成績は別です」とはにかむ子も。また「算数は、机の上でドリルをやって成績を上げるだけだと思っていたけれど、今回、走ったりシュートしたりして、楽しいことをやりながら算数の学習につなげられました」「学校の校庭でも、算数は勉強できるんだなと思いました」といった感想も聞けた。

来年のオリンピック、パラリンピックに向けては「うちの家族はチケットの抽選が当たらなかったけど、テレビでも見られるので楽しみ」「家族団らんで見ます」。サッカー、体操など注目競技はそれぞれ違い、中には「ボルダリングはジムでやったことがあります。選手は難しい斜面を登るのですごいと思う」「卓球が楽しみ。テレビで最後まで見たい。お母さんが卓球セットを買ってくれました」と笑顔を見せる子もいた。また、馬術競技が開催される馬事公苑(世田谷区上用賀)が近いということで、馬術への関心も高いようだった。

最後には妙技を披露

イベントの後、石川さん、榎本さんにも話を聞いた。

2人は、どんな小学生時代を過ごしたのだろうか。石川さんは「走ったりボールを蹴ったりと、スポーツ全般が好きな小学生でした。もちろん一生懸命に勉強もしていましたが、決して得意な方ではなかったかも知れません。やはり体育が得意でしたね」と語った。

実践学習会について、「計算ひとつとっても、色んなアプローチの仕方があるんだなということを、子どもと一緒になって考える時間が持てました。色んなアイデアが出ましたし、子どもたちも積極的に発言してくれた。それじゃ最後にみんなで確かめてみよう、という学習の流れが非常に良かったと思います。僕も頑張って走りました。子どもたちにとっても、頭で考えて計算したことと、実際にやってみた結果が同じだったので、納得できたのではないでしょうか」と振り返った。

そしていよいよ来年に迫った、東京2020大会への期待を聞いてみた。

「競技をする、観戦するということだけではなくて、日本を訪れた各国のみなさんをおもてなしすることも大事です。アテネオリンピックに出場したとき、ギリシャの方たちに良くしてもらったし、スポーツ以外のところでも大きな感銘を受けました。自分もいま、スタジアムで人々をおもてなしする立場にいます。小学生であっても、笑顔で接する、道案内をする、言葉をちょっと覚えてみる、そんなおもてなしができますね。自分も、そんなことを意識して来年の東京大会を迎えられたら良いなと思っています」

  • 子どもたちと一緒にウォーミングアップをする石川さん

    子どもたちと一緒にウォーミングアップをする石川さん

榎本さんにも、同様のことを聞いた。

「学校は好きでした。特に、体育と給食が好きな子ども時代でした。算数の図形問題は苦手でしたが、計算問題は好きでしたね。今日は、小学生の頃を思い出しました」と榎本さん。

実践学習会については「人はつい『大人になったら算数なんて使わなくなるでしょ』と考えてしまいがちですが、でも本人が気が付かないだけで、実は考え方の根本に算数があることも多い。日常生活の中に密着しているんですよね。子どもたちが、それを自分の力で見つけられるようになると良いと思います」と期待を込めた。

来年のパラリンピックにも大きな貢献を果たすことになる榎本さん。「いま5人制サッカーに携わっているんですが、全盲の選手らと一緒に活動していると、いかにブラインドサッカーに没頭して楽しんでいるかが伝わってくる。彼らから学ばせてもらうことが本当に多いんです。その姿勢をリスペクトしています。オリンピック、パラリンピックは様々な困難を乗り越えてきた選手たちが活躍する場。だから、どの競技も応援したい気持ちですね」と話していた。

  • 榎本さんが子どもたちに、スピードが出やすいシュートの蹴り方を伝授するシーンも

    榎本さんが子どもたちに、スピードが出やすいシュートの蹴り方を伝授するシーンも

最後に2人から、子どもたちに妙技を披露するサプライズがあった。正確なロングキックを得意とするGKの榎本さんがセンタリングを上げ、抜群のシュート力を誇るFWの石川さんがシュートを決めるというもの。プロ選手の技を目の前で見た子どもたちからは、この日一番の歓声が上がっていた。