社会に出て働き始めてから年数を経てくると、プロジェクトチームのリーダーを任されたり、役職がついて部下を持つようになったりする人も出てくるだろう。そのような人を率いる立場に置かれれば、時にはどのように振る舞い、どのように決断すればいいか迷ってしまうこともあるかもしれない。
そこで今回は、元スターバックスCEOをはじめ、数々の企業でそのリーダーシップを発揮してきた岩田松雄氏にインタビューを敢行。ビジネスにおけるリーダーの資質や習慣にはどのようなものがあるのかを中心に、いろいろと話をうかがってきた。
――本日はよろしくお願いします。早速ですが、代表取締役社長やCEOなどビックビジネスのリーダーを務められてきた岩田さんが考える「理想のリーダー像」とはどのようなものが教えてもらえますでしょうか
一般的には「カリスマ性がある」「指導力がある」「声が大きくて、みんなを引っ張っていける」などの人物がリーダー像として描かれますよね。でも、おとなしい人にいきなり「カリスマ性のあるリーダーになれ」と言っても無理があるし、状況や部下にもよってリーダーの在り方は変わるんです。
前に出てみんなを鼓舞するようなやり方もあれば、後ろに引いてメンバーを支援するリーダーシップの取り方もあります。ビジネスの目標を定めて、それに向かってリーダーとしてどういうアプローチができるかは、一概に言えないんです。ただ言えることは、「カリスマのようなリーダー像が必ずしもベストではない」ということです。もちろん、そういうリーダーが必要な場面もありますが、それが理想ではないんです。
――目的にあったリーダー像があるということですね
組織やチームがどういう目的を持っていて、どういう状況に置かれているかを見極めることが重要ですね。
例えば、勝ち上がっていかなければいけない状況であれば、ワントップのような強いリーダーが必要かもしれません。でも、そういうリーダーの下では、次の世代が育ちません。強い命令をトップダウンで受け入れるだけで、部下が自発的に考えなくなるからです。そのため、いわゆるカリスマリーダーがいる組織は、次代のリーダー候補が現れない傾向にあります。リーダーが優秀すぎてすべてを自分で決めてしまうため、部下が育たないというのもあると思います。
一方で、穏やかに組織を維持し部下を育てていくような場面では、しっかりチームの意見を聞くようなコーチング型や、支援型のリーダーの方が向いているでしょう。
――なるほど。では、近年のいわゆる「リーダー像」の傾向について、どのように感じていらっしゃいますか
一般的には、支援型リーダーがもてはやされているような印象はあります。でも、世界情勢などを見ていると、強いリーダーが求められていますよね。米国のトランプ大統領も、その是非はさておき、「強いリーダー」であることは間違いないですよね。ヨーロッパでもそういうリーダーが選ばれつつあると思います。
人間ってあんまり上からガミガミ言われると困ってしまうのですが、「自由にやってね」と言われても困る生き物なんです。だからこそある程度、方向を指し示してくれるリーダーが求められてくるんじゃないか――という風潮は感じています。
――リーダーとして必要なことを挙げるとすればどのようなことでしょうか
まずは組織としてのミッションを明確にすることですね。「上に言われたからやっている」とか「俺もよくわかってない」とかだと、やっぱりチームをまとめられないですよね。その組織として、どうなったら成功なのかという結果も含めて明確にし、メンバーとの共有をすることですね。それは、組織を作った上長や、会社にあたる部分も含めてです。
――組織が大きくなっていくと、その上長にあたる部分が社会全体などになっていく感じでしょうか
そうなってくると、ちょっと話が大きくなりすぎてしまいます(笑) 僕が社長業をやっているとき、今ほど明確な気持ちではなかったですが、自分たちのやっていることが世の中の役に立っているという気持ちはありました。
100あるうちの99%は売り上げや利益を考えていますが、たった1%とはいえ、「世の役に立っている」という気持ちを持っているかどうかは大きいと思いますね。大きな判断をする際、そこは大いに関係したと思います。営利だけを考えればなかなか承認を得るのが難しいケースも、その1%の気持ちがあったからこそ、やれたようなところはありますね。
――なるほど。では、リーダーにとって大切な資質とはどのようなものでしょうか
もし、一つだけ挙げるとするならば、「無私」だと思います。「私」を「無」くし、チームの目的のために働くという気持ちですね。「自分の出世のために」などの私欲が出てしまうと、やっぱりメンバーはついてこられません。みんな、よく見ていますから。
西郷隆盛は「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困るもの也。この始末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬ也。」という言葉を遺していますが、金や名誉に惑わされない人こそ、大きなことを成し遂げられると言っているんですね。リーダーは何をやってもいろいろな批判などが寄せられてきます。でも、自分の決定に私欲がなく、「みんなのためになっている」という心があれば、考えがブレません。そういう無私の心が必要だと思います。
――リーダーを任されたり、役職がついたりすることで出世欲を刺激されている世代には、グサリと刺さる言葉に感じます
もちろん、野心や夢はあっていいです。でも組織のリーダーになった以上は、あくまでもチームが一番。そこを勘違いする人は多いですよね。リーダーになって急に偉そうになった人の話ってよく聞きますよね? 社長といえども、僕自身は社長の役を演じているだけで、僕自身が偉くなったわけじゃないんです。社長という地位は偉いとしてもね。重要な地位に就いたとき、その権力の大きさに浮かれるよりも、その責任の重さに目を向けられる人でないと、リーダーとしてはダメだと思います。何かあったとき、リーダーにすべての結果責任があるわけですから。
――出世を目指してゆくゆくは大きな組織のリーダーになりたいと考えるならば、どのようなことを経験すべきでしょうか
どんなことでもいいので、リーダーを経験してみることですね。忘年会の幹事や、お子さんがいるのであれば少年野球のコーチでも、マンションの管理組合の長でもいいんです。僕はいろんな「長」と名の付く役職をやってきましたけど、一番大変だったのは、マンションの管理組合の副組長です。企業のようにまとまりがあるわけでなく、いろいろな人がいるので「ワーッ」となって大変でした(笑)
でも、リーダーになるのであれば、リーダーを経験するしかないんです。妙な言い方ですが、社長になりたいなら、社長になるしかない。でも、今の会社の社長にすぐになれる訳じゃないですから、どんなことでもリーダーを経験することは大切だと思います。
――岩田さんの若い頃の経験で良かったことはありますか?
若い頃にロールモデル、すなわち見習う人を持つことですね。若い頃の先輩を今でも僕は尊敬しているんですが、「どんな本を読んでいるんですか?」とかを聞きましたし、なかなか飲みに誘う機会もなかったですけど、ランチとかでいろいろ話しました。「将来にこうなりたい」というロールモデルを探すことが一番いいんじゃないかと思いますね。
あとは読書もいいですね。最近はあんまりみんな本を読んでないですよね。僕はいいと思った本は何度も読み返しますし、昔は「まぁこんなもんか」と思っていたのに、今になってそのすごさを実感している本もあります。本には、人間性を高める「徳」の本と、自分の能力を高める「才」の本の2種類あると思っています。特に「才」、つまりスキルの本は、若いうちは方法などもわかりませんから、いわゆる経営のハウツー本などもよく読んでました。
若い時分は、周囲に目をかけてもらうため一芸に秀でることも大切ですが、ただの「●●バカ」では困るので、幅広く「才」を広げていくことも重要です。そういう意味でも、日々のルーティンの中に本を組み込むことはとてもいいと思います。
岩田松雄(いわた・まつお)
1982年に日産自動車入社。製造現場、セールスマンから財務に至るまで幅広く経験し、社内留学先のUCLAビジネススクールにて経営理論を学ぶ。帰国後は、外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラ常務を経た後、イオンフォレスト(THE BODY SHOP Japan)の代表取締役社長、スターバックスコーヒージャパンのCEOなどを務める。2011年にリーダーシップコンサルティング設立、2012年から産業革新機構に参加している。著書に「ミッション」(アスコム社刊行)などがある。