子どもから大人まで"誰もが知っているヒーロー"として、今や国民的知名度を誇る『ウトラマン』。円谷プロダクションがこれまでに製作した『ウルトラマン』および「ウルトラマンシリーズ」の各エピソードに込められた、作り手からのメッセージや優れたドラマ性、そして珠玉の特撮テクニックの素晴らしさなどを分析・研究する、温故知新の新プロジェクト『ULTRAMAN ARCHIVES』の一環となる「ULTRAMAN ARCHIVES Premium Theaterスペシャルトーク&上映会」第4弾が9月21日、イオンシティ板橋で開催された。
『ULTRAMAN ARCHIVES』とは、円谷プロ製作の「ウルトラマンシリーズ」の優れた内容をより深く掘り下げ、熱心なファンの探求心を満たすと共に、これまで作品を実際に観たことのない若い世代にも広めたいという願いで立ち上げられた新企画である。
具体的には、連続テレビドラマとして作られた「ウルトラマンシリーズ」を「エピソード単位」でピックアップし、エピソードを1本の映画と捉えて作品の分析・研究・証言をまとめたビデオグラムを発売、そしてゲストを招いての上映&トークイベントを開催、さらにはイベント限定商品、フォトブックを販売……というように展開しており、これまでに『ウルトラQ』(1966年)から第1弾「2020年の挑戦」、第2弾「ガラモンの逆襲」、第3弾「東京氷河期」と、3度の上映&トークイベントが催されている。
今回取り上げられるエピソードは、『ウルトラQ』第15話として放送された「カネゴンの繭」(脚本:山田正弘/監督:中川晴之助/特技監督:的場徹)。本作は『ウルトラQ』のレギュラーキャラクターである万城目淳(演:佐原健二)、戸川一平(演:西條康彦)、江戸川由利子(演:桜井浩子)がまったく登場しない異色のエピソードで、現在もソフビ人形が現役商品として発売されている人気ウルトラ怪獣「カネゴン」が活躍する、少々ブラックユーモアの風味が入った特撮コメディ作品である。
物語は、とかくお金にがめつい加根田金男という少年が、振ると中から小銭の音がする不思議な"繭"を手に入れるところから始まる。その晩、父母から「人の落としたお金を黙って拾ったりすると、お金亡者のカネゴンになるぞ」と説教をされても平気な顔をしていた金男だったが、部屋の中で大きく成長した繭の中に引きずり込まれ、翌朝目を覚ましたときには、本当に金男の姿がカネゴンへと変貌していた。カネゴンはお金を食べ続けないと飢え死にしてしまう。果たして、カネゴンは元の金男に戻ることができるだろうか……?
前3回と同様、映画評論家/クリエイティブディレクターの清水節氏が司会進行を務め、最初のトークゲストである作家・演出家の鴻上尚史氏を呼び込んだ。
1958年生まれの鴻上氏は、『ウルトラQ』を小学2年生のころに観た"少年ファン"の1人だった。『Q』でお気に入りのエピソードを問われた鴻上氏は、怪獣の出ないSFドラマである第17話「1/8計画」を挙げ"ストーリーが完璧な傑作"と絶賛。他にも『怪奇大作戦』(1968年)が一番好きだと話し、円谷プロ製作の特撮SF作品への愛着のほどを感じさせた。
改めて「カネゴンの繭」を観ての感想を求められた鴻上氏は「子どもたちがカネゴンという"非日常"な存在と違和感なく同居しているのがすごい。まだあのころは、日常が非日常を無理なく受け入れられていた時代だったのかも」と、本来ならば拒絶されるべき"異物"との交流を、子どもたちが抵抗なく行っていることに着目した。そして「カネゴンを子どものころに観たことによって"お金に執着するのはやめよう"と思いました」と、お金にがめつすぎるとカネゴンになってたいへんな目に遭うぞ、という"教訓"を作品からしっかり感じ取っていることを打ち明けた。さらには「だから、儲かりもしない演劇なんていうものをやっています。みなさん、人助けだと思って観に来てください」と苦笑いしながら、11月2日より東京公演が行われる鴻上氏の作・演出による舞台『地球防衛軍苦情処理係』のPRを行った。
続いてのゲストは、経済アナリストとしてテレビのワイドショーにも多数出演している森永卓郎氏。1957年生まれの森永氏もまた『ウルトラQ』を本放送で楽しんでいたといい、特に「カネゴンの繭」については「カネゴンが私の"金融観"を作った。お金ってこういうものなんだという"理念"を教えてくれた」と語り、カネゴンが経済に興味を持つきっかけとなったことを明かした。カネゴンの思い出については「カネゴンの口の中にお金を入れると、胸のカウンターが上がっていき、お腹が空くとカウンターがどんどん下がっていく、あの姿に衝撃を受けた」と、金を食べ続けないと死んでしまうカネゴンの設定に、強い恐怖を感じたと語った。さらには「お金お金とあんまり言ってるとカネゴンになっちゃうぞ~と刷り込まれました。これが私の人生の第一歩です」と、鴻上氏と同じくカネゴンからの"教訓"と"戒め"を受けた少年時代をふりかえった。
カネゴンにちなんで、子どものころの"お金"への捉え方を聞かれた森永氏は「親からもらえるお金が1円単位(1円~9円)でした。駄菓子屋へ行って、3個で1円のビー玉を買ったりしましたね。あのころの僕にとって10円っていうのはケタ違いのお金で、夏休みにおばあちゃんが特別にくれたりするのが10円なんです。10円あると駄菓子屋ではなく、メーカー品がそろっている"お菓子屋"に行けるわけ。10円あればグリコが買えた。グリコはキャラメルそのものもおいしいんだけど、オモチャのオマケがついているので魅力的でした」と、50年以上前の子どもたちにとって、少ない小遣いでどんなお菓子が買えるかが重要な問題だったことを説明した。
そしてふたたび鴻上氏がステージに現れ、ここからは両氏の対談形式でトークが展開された。鴻上氏は上映された「カネゴンの繭」を再度鑑賞して「この作品は基本"不条理"ですから、なぜ最後にカネゴンが火を噴いて飛び上がっていくのか、なぜ空中でパラシュートが開くのか、なぜ地上に降りたら人間に戻っているのか、描写に何の説得力もないですよね。でも、現実もやっぱりそういうもので、なぜこういうことになったのかという説明をすべて現実社会でつけるのは不可能。それが人間だと思います」と、ラスト近くのあまりにも"急すぎる"急展開について独自に深みのある見解を語った。
森永氏は「カネゴンは自分にとっての反面教師」だと言い「東京の事務所を設立したとき、最初に飾ったのがカネゴンのフィギュアでした。"カネゴンになっちゃダメだぞ"という自分への戒めですね(笑)」と、お金に執着しすぎてカネゴンになってしまう恐怖を忘れないよう、フィギュアを毎日見ることで印象付けるようにしたと話してニコリと微笑んだ。
ここでステージには、今回の主役・コイン怪獣カネゴンが登場した。実物のカネゴンを観て森永氏は「口がサイフのジッパーになっているのがいいですね」、鴻上氏は「まさかカネゴンの口に手をつっこめる日が来るとは……」と、それぞれ懐かしい怪獣との再会に興奮を隠しきれないもよう。
清水氏がカネゴンのデザインを行った故・成田亨氏から生前聞いた話として、カネゴンの下腹が出ているシルエットは妊婦がモデルだったことを鴻上氏と森永氏に説明すると、鴻上氏は「成田亨さんのデザインと、高山良策さんによる造型がすごい」と、デザインと造型のすばらしさに改めて感心する場面が見られた。また森永氏は「ああ~小銭を持ってくればよかったな」と、作品と同じく自分もカネゴンにお金を食べさせて、胸のカウンターが上がるのを見てみたいというそぶりを見せ、子どものように明るい笑い声を響かせた。
最後の挨拶で森永氏は「『カネゴンの繭』はイソップと並ぶ、日本の寓話の最高傑作です!」だと力強く語り、『ウルトラQ』およびウルトラマンシリーズが優れたメッセージ性と娯楽性を兼ね備えた傑作テレビドラマだということを今一度強調した。
鴻上氏は「僕らには『ウルトラQ』を通じて"お金に執着するとカネゴンになるぞ"という戒めがありました。円谷プロさんは現在を生きている子どもたちに、カネゴンのような戒めの"メッセージ"を込めた娯楽作品を作ってほしい」と、自身が子ども時代に感じたような衝撃を今の子どもたちにも与えられる作品の創造を、円谷プロに期待するコメントを残した。
『ULTRAMAN ARCHIVES』第4弾「カネゴンの繭」のビデオグラム(Blu-rayとDVDのセット)は、現在好評発売中。本編(カラー・モノクロに切り換え可能)に加え、当時を知る製作スタッフ、関係者による証言、そして現代ならではの視点や評論を交えたインタビュー映像集「プレミアムトーク」が収録されている。
そして「ULTRAMAN ARCHIVES Premium Theaterスペシャルトーク&上映会」の第5弾はついに空想特撮シリーズ『ウルトラマン』(1966年)編へ突入する。2019年11月16日には、ウルトラマンシリーズ屈指の人気キャラクター「バルタン星人」が登場する『ウルトラマン』第2話「侵略者を撃て」(脚本:千束北男/監督:飯島敏宏/特技監督:的場徹)の上映&トークイベントがTOHOシネマズ上野にて開催される。
(C)TSUBURAYA PRODUCTIONS CO.,LTD.