群馬県桐生市にある「日限(ひぎり)地蔵尊観音院」が10月1日、境内に宿泊施設「Temple Hotel観音院(テンプルホテル観音院)」を開業した。
真言宗の寺院として370余年の歴史を誇り、"桐生のおじぞうさま"として毎月24日に開かれる縁日には地元民を中心に賑わい、「関東八十八ヵ所霊場」の第十番霊場、上州観音霊場三十三カ所の第五番霊場として全国から"お遍路さん"が訪れる由緒ある寺院が、町の新たなコミュニティーの中核を担うべく新たな取り組みを始める。
Temple Hotel観音院
ホテルは、寺院併設の宿泊事業を他にも手がけるシェアウィングと共同で運営。観音院境内の建物を改装し、「織の間」「染の間」と名付けた2部屋を設け、1日あたり2組の宿泊客を受け付ける。
宿泊は素泊まりのみで食事の提供はないが、調理器具などを備えた共用のダイニングキッチンや露天風呂も設置されている。和モダンなテイストの洗練されたインテリアや空間コーディネートは、地元を拠点とする工芸家や工務店、クリエイティブグループが担当している。
宿泊料金は、「織の間」(30.6平方m、定員12名)が24,000円~(2名料金。1名増えるごとに6,000円追加)、「染の間」(28.2平方m、定員3名)が14,000円~(2名料金。1名増えるごとに6,000円追加)。写経や勤行など、寺院ならではの体験もできる。
町の活性化と観音院の活性化をリンク
オープンに先駆け、9月26日に行われたセレモニー・内覧会では、観音院の住職である月門快憲氏が挨拶。「大勢のお客さんにおいでいただければ、寺も桐生も活性化すると期待している」と語り、桐生市長の荒木恵司氏らとともにテープカットを行った。
プロジェクトの中心となり活動している、シェアウィングによると、日本全国に7万7,000以上存在する寺院のうち30%が檀家の減少により、後継者不足に陥り、将来的な継続が危ぶまれる状況にあるという。
そこで「社寺の持つ観光、空間、地域資源を最大限に活用し、檀家に代わる新たな支援者やコミュニティーの形成が必要」と生まれた取り組みが、「Temple Hotel」だ。
桐生観音院のような"地元パートナー提携型"以外にも、"社員在中型"、"遠隔型"の3つに運営タイプを類型化することで、各寺院の課題や状況に応じて最適な方法で再生、または新規事業の創出を図り、事業を円滑に全国展開し、2020年中には30拠点を目指す方針だ。
またセレモニー後に開催された「地方創生サミット in 桐生観音院」では、住職をはじめ、シェアウィングの取締役や地元のNPO法人の代表者が"お寺を中心にした地方活性化と観光振興の可能性"をテーマにディスカッションを行った。
「少子高齢化や信仰心の衰退などで檀家が半減し持続が困難なお寺が増え、仏教界は第三の波が来ている。そこで次の一手としての宿坊。町の活性化と観音院の活性化はリンクしている」と観音院の住職である、月門快憲氏は話す。
桐生市は、 かつては"西の西陣、 東の桐生"と称されたほど、 奈良時代から約1,300年にわたり絹織物産地として栄えた町だ。しかし、 近年は産業衰退が著しく、 その影響から群馬県内において最も少子高齢化率が高く街の活力が低迷している。
一方で、 "ものづくり"の街として今も残る風土に誘われるように、20代、30代を中心に子育てや起業のために移り住む人やUターンする人も少しずつ増えているとのこと。
町には江戸、明治、大正、昭和の遺構ともいうべき歴史と風情を感じさせる多くの建築物などが今も残るが、その古の街並みの中に、古きよきものを生かしつつもリノベーションされて新しく生まれ変わった店舗や工房などが点在しており、新旧織り交ざった落ち着いた輝きを放っている。
観音院を地域の玄関・ハブへ
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年は、群馬県内では「群馬デスティネーションキャンペーン(DC)」と銘打つ国内最大級の観光キャンペーンが展開される。
それに合わせて、観音院を地域のソーシャルイノベーターと連携する玄関・ハブに据え、観光によるまちづくりを推進し、 町の認知とブランド力の向上を図る。「Temple Hotel観音院」はそのための宿泊の拠点として、国内外の観光客の取り込みを狙う。
市内はコミュニティバス「MAYU(まゆ)」が運行。8人乗りの無料バスで、土日祝に2つのコースで市内の観光名所を巡る。最高速度約19㎞の低速電動車両のため、風情溢れる街並みをゆったりと眺められるのが特徴だ。