FABRIC TOKYOは9月26日、サイズ直しや補修などのサポートを行うサブスクリプションサービス「FABRIC TOKYO 100」やクリエイティブ・ワーカー向けブランド「STAMP」などを発表するとともに、D2C(Direct to Consumer)のこれからを語るトークセッションを行った。
D2Cビジネスで急成長したFABRIC TOKYO
FABRIC TOKYOは、デジタルとデータを活用し、企画や製造、販売を自社で行うことで、消費者に直接届けるというビジネスモデル「D2C」で躍進したアパレル企業だ。近年のEコマースの日常化やソーシャルメディアの隆盛が、D2Cの急成長の背景といえるだろう。
海外のアパレル業界ではすでに「Everlane」や「WARBY PARKER」などが消費者のニーズをつかみ大きな成功を収めている。現在では常設店舗を構えているFABRIC TOKYOも、もともとはオンラインからスーツやシャツをオーダーメイドできる「LaFabrics」(ラファブリックス)が前身だ。
FABRIC TOKYO 代表取締役CEOの森雄一郎氏は、D2Cの先にあるビジネスモデルとして小売りのサービス化(Retail as a Service)という「RaaS (ラース)」構想を新たに掲げた。同社のRaaS構想における大きな柱は3つ。1つ目はサブスクリプションサービス、2つ目はスマートファクトリー、3つ目がサーキュラー・エコノミー構想だ。
体型変化や破損をサポートするサブスクサービス
1つ目のサブスクリプションサービスとして提供されるのが「FABRIC TOKYO 100」。従来のFABRIC TOKYOのオーダーメイドスーツにアドオンする形で提供され、月額398円(税込)を支払うことで、体形変化によるサイズのお直し保障、スラックス破損保障、オーダー品サイズフィット保障の3つのサポートを受けられるようになる。
お直し保障では、作り直しでない限り何度でも無料で受けることが可能。スラックス破損保障では、生地が最大2年間用意され、生地代無料・仕立て費用のみでスラックスの購入ができる。
またサイズフィット保障では、1回の作り直し可能期間が通常の50日間から100日間に延長される。10月以降はさらにサービスを拡大し、クリーニングや保管、着こなしなどのサポートも順次行っていく予定だ。
IoTを活用した縫製工場の稼働
2つ目がIoTを活用したスマートファクトリーのプロデュース。10月より第1号として西日本でIT化・データ可視化を実現した縫製工場が稼働を始め、11月には顧客への見える化として、製造プロセスをアプリなどを通じて通知する実証実験を行うそうだ。2020年には他の工場へノウハウを展開するB2Bのビジネスモデルも検討しているという。
「いままで感や感覚で行っていた縫製業をすべてデジタルトランスフォーメーションし、生産のボトルネックや縫製工員による質のブレなどを抑制し、品質の工場と納期の短縮を実現します」と森氏は説明。現在の4~5週間の納期を2週間程度に短縮すると述べた。
さらに、コネクテッドアパレル「FABRIC TOKYO TOUCH(仮)」の実証実験も開始を予定しているという。
これは、RFIDタグによって着丈や肩幅といった情報を洋服自体に持たせ、スマートフォンでタッチするだけでサイズや生地、着こなし、お手入れに関する情報を得られるようにするという試みだ。
不要な洋服を回収し新しい洋服として再生
3つ目はサーキュラー・エコノミー構想。アパレル業界は毎年世界で9,200万トン、日本でも100万トンの繊維を廃棄しており、コットン生産農家への負担、水質汚染、二酸化炭素の排出などさまざまな問題を内包している。
FABRIC TOKYOはこの問題への取り組みとして、不要な洋服を回収し、新たな洋服として再生させることで、服から服を作る循環モデル「サーキュラー・エコノミー」を作るという。
具体的には、店舗に持ち込まれた不要な洋服を、日本環境設計のサービス「BRING」によって循環型素材に再生し、新たな洋服を製造するという流れ。顧客がFABRIC TOKYOに洋服(他社製でも可)を持ち込んだ際には、商品オーダー時に利用できる3,000ポイントが付与される。
2020年度から実際に循環型素材を使った洋服が提供され、梱包資材なども循環型素材を用いるという。2023年以降には、すべての洋服をサステナブルな素材に変更する予定。
「STAMP」で展開される3Dスキャン採寸の無人型店舗
また、オフィスでスーツを着用しないクリエイティブ・ワーカーなどに向けたブランド「STAMP」も正式発表された。
STAMPの特長は、無人型店舗でスマートフォンでコントロールできる3Dスキャナによって採寸を行うこと。デニムから商品展開をスタートし、現在は新宿マルイ 本館の1階でシークレットのポップアップストアを運営中だという。
森氏と丸井の青井氏が考える"売らないお店"の必要性
発表会では、丸井グループ 代表取締役社長CEO 青井浩氏とのトークセッションも行われた。丸井グループとFABRIC TOKYOは、資本業務提携を行っており、両社の考えは非常に近い。
青井氏は以前から"モノを売らないお店"の必要性を述べており、店舗は販売する場所から体験する場所に変わってきていると話す。丸井グループはD2Cやサブスクリプション型ビジネスといったデジタル・ネイティブ・ストアの出店を推進しており、FABRIC TOKYOとの理念がちょうど合致する形となった。
「お店はずーっとモノを売る場所、買う場所という定義でしたが、Eコマースが登場してからこの役割を変え再定義する時期に来ているんじゃないかなと思います。買い物は色々な体験の連続ですが、最後の"買う"ところはネットでいいじゃないかと。お店はそれまでのところに特化して体験、コミュニティ、カスタマイズを提供できる存在になっていくことが大事だと思います」(青井氏)
「従来の小売りはお店を"売り場"と表現していました。ですが、いまではお客さまの"買う"場所はたくさんあります。もちろんお店で買ってもいいですが、事業者側は"買う必要がない"という選択肢も提示する必要があるのではないでしょうか。我々は提供しているのは洋服ではなくて顧客体験と表現しています」(森氏)
「アイウェアのD2CブランドであるWARBY PARKERの店舗にいくと、お客さまが楽しそうにメガネをとっかえひっかえしているんですね。なぜ楽しいかというと、買わなくていいからです。消費者には、オンラインとオフラインは生活の中で融合した状態になっているのに、ビジネスでは分けたいというのは不可能です。だったら融合型のビジネスモデルを作っていく方が前向きだし、結果として戦略的にも有利だと思います」と青井氏はビジョンを述べた。