メルセデス・ベンツから同ブランド初の100%電気自動車(EV)「EQC」が登場する。「内燃機関」とは切り離せない歴史を持つ同社がついに、バッテリーとモーターだけで走るクルマを世に問うのだ。そこにメルセデス・ベンツらしさはあるのか、試乗して確かめた。

  • メルセデス・ベンツの電気自動車「EQC」

    メルセデス・ベンツ初の電気自動車(EV)「EQC」(本稿写真の撮影:原アキラ)

運転席からの眺めはまさにメルセデス

メルセデス・ベンツの電動化サブブランド「EQ」。そのファーストモデルである「EQC」に国内で初試乗した。

公表済みのデータを簡単におさらいすると、EQCは前後アクスルに総合最大出力408ps(300kW)、最大トルク765Nmを発生する2基のモーターを搭載し、四輪を駆動する。最大航続距離は400キロ(WLTCモード)。最高時速は180キロで、停止状態から時速100キロへの加速に要する時間は5.1秒だ。ボディサイズは全長4,761mm、全幅1,884mm、全高1,623mm。車両重量2,495キロのうち、652キロが床下に敷き詰められたバッテリーの重さとなっている。

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    「EQC」の価格は、55台限定の「EQC Edition 1886」が1,200万円、「EQC 400 MATIC」が1,080万円。「EQC Edition 1886」は8~9割が予約済みで、納車は日本での登録作業が済み次第、順次始めるとのこと。「EQC 400 MATIC」の納車は2020年春の予定

そのサイズからも分かるように、EQCのベースとなっているのは同社のSUVモデル「GLC」「GLC クーペ」で、生産も同じラインで行われるとのこと。万が一に備えるべく増設した、強靭なパイプフレームとハウジングで囲んだモーターとバッテリーの組み付け工程だけが専用作業になるという。

エクステリアは、ベースのGLCクーペから角という角を取り払ったような丸みのあるSUVクーペスタイルだ。独特の顔つきとともに街に乗り出したその姿は、写真以上の先進感を伴う。ただ、今回の試乗車は、この日のためにナンバーを取得した並行輸入車だったので、後日導入となる日本仕様モデルとは異なる点があるかもしれない。

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    メルセデス・ベンツは近年、「Sensual Purity」(官能的純粋)というデザイン思想を掲げているが、これを「EQC」にも適用した

車内に乗り込むと、ステアリングホイールに配置された各ボタンやステアリングポストから伸びるシフトレバー、2枚の10.25インチスクリーンを並べたディスプレー、ドアアームレスト上部のシート調節レバーなど、既存のモデルから乗り換えてもまごつくことがない操作系が展開されていた。この辺りには、メルセデス・ベンツらしい設計思想が徹底されている。レザー部分のステッチやエアアウトレットのカラーはローズゴールドで、こちらはEQC専用のものだ。

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    ステアリングホイールまわりは既存のメルセデスでおなじみの眺めだ

一方、ディスプレーを使用して行う各種のセッティングや表示方法には、電動モデルらしく多種多様な選択肢があり、お気に入りの組み合せに持っていくまでにはかなりの時間を要しそうだ。ドライブモードは「コンフォート」「エコ」「スポーツ」「インディビジュアル」の4種類。エネルギー回生の強さは、「D+」(コースティング)、「D」(軽度の回生ブレーキ)、「D-」(中程度の回生ブレーキ)、「D- -」(ワンペダル走行ができるほどの回生ブレーキ)の4つから選べる。

画面表示には「スポーティー」「クラシック」「プログレッシブ」の3種類がある。この画面に何を表示させるかには、電費、充電状況、充電ステーションの位置、気温、勾配情報などの選択肢が数限りなくある。画面を見ながらあれこれやっていると、はたと気がついた。これは、筆者も所有しているApple Watchのセッティングに似た感じなのだ。このクルマのオーナーになるような“アーリーアダプター”には当然、デジタルガジェットが好きな方も多いだろうから、この辺りも楽しみながら、自分好みの組み合わせを探っていくのかもしれない。

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    ディスプレーに表示させる情報は自分好みにカスタマイズできる

EVではあるが、それほど強烈ではない走り出し

今回の試乗コースは、六本木にあるメルセデス・ミー(東京都港区)を起点として一般道と首都高を走り、お台場の潮風公園(東京都品川区)までを往復するというもの。「ハイ、メルセデス!」と「MBUX」を呼び出して行き先を告げると、ルートを簡単にセッティングしてくれるのは本当に便利だ。

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    「EQC」の立ち上がりはジェントルだが、瞬間的な加速を求めるとEVらしく強烈なパワーで反応してくれる

デフォルトの「コンフォート」モード、エネルギー回生「D」で走り始めると、発進時のトルクの立ち上がりが急激ではなく、ジェントルにしつけられているのに気がつく。

ずいぶん前に乗ったテスラ「モデルS」のP100タイプ(最大パワーモデル)は「ギャギャッ」とタイヤを鳴らしながら豪快にスタートしていたし、ジャガーのEV「I-PACE」も立ち上がりからガツンときていた。それらに比べると、EQCはとても穏やかで、従来からあるメルセデス然とした動き出しをEVにも持ち込んだ感じ。筆者が乗るメルセデス「W124」の高性能モデルが2速発進を採用していたのと同じ思想なのだろう。もちろん、アクセルを踏み込めば、その後は強烈な加速を提供してくれるので、“信号グランプリ”の群れから抜け出したり、短い上り坂から首都高へ合流したりするのはEQCの得意科目だ。

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    「EQC」でも使える「MBUX」は、対話形式でナビをセットできるので便利だ

2時間程の試乗時間中には、ステアリング左右のパドルシフトで回生モードを変えつつ走ってみた。筆者の感覚では、速度がそれほど上がらない街中では「D- -」でのワンペダル走行、一定速度で走行できる高速道路では「D」か「D+」が、ギクシャクせず走りやすいという当たり前の結論。EQCでは、ワンペダル走行でも、時速2~3キロ以下の最後の段階は、フットブレーキを併用してドライバーが車両を止める動作をしないと、クルマが完全に停止しない設定になっている。この点も、メルセデスらしいところといえるかもしれない。

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    回生モードを「D--」にすると、アクセルペダルのオン/オフだけで加減速を行う「ワンペダル走行」のような感覚を味わえるが、クルマを完全に停止させるにはブレーキペダルを踏み込む必要がある

走行中は、重い車重を支えるミシュラン「パイロット スポーツ 4 SUV」タイヤの表面の硬さが時折伝わってくることがあり、乗り心地の面では「Sクラス」にわずかに劣る感じ。一方、静粛性はEQCの方が優れていて、比較的流れのよい首都高(時速30~50キロ前後)でACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール。設定速度で走行し、前にクルマが走っている時には追従する機能)を作動させると、無音の追従運転が始まり、EQCが持つ未来感をたっぷりと味わえる。

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    バッテリーが空の状態の「EQC」をフル充電するのに要する時間は、普通充電で約13時間、急速充電で約80分。自宅でEQCを充電できる「ウォールユニット」は希望者に無料で提供するという。同ユニットの取り付け工事には10万円程度かかるが、その分は車両価格から割り引いてくれるとのことだ

EQCを購入する際は、残価差額の清算が不要な「ウェルカムプラン」(残価設定型ローン)や「クローズエンドリース」(残価保証型)などが利用できる。修理メンテナンスの保証プログラム「EQケア」、バッテリーの特別保証、1年間の充電無料サービスなど、サポート体制も手厚い。

W124乗りの筆者がいうのも何だが、国連気候行動サミットで「裏切るなら、絶対に許さない」と涙の訴えを行なった16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんに叱られないような未来の社会を実現するには、EQCのようなクルマを増やしていく必要があるのは間違いないようだ。

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