直木賞・本屋大賞を史上初めてW受賞した小説家・恩田陸の『蜜蜂と遠雷』が若手実力派キャストにより実写映画化され、10月4日より公開された。国際ピアノコンクールを舞台に、亜夜(松岡茉優)、明石(松坂桃李)、マサル(森崎ウィン)、塵(鈴鹿央士)という世界を目指す若き4人の天才ピアニストたちの挑戦、才能、運命、成長を描いた同作は、「小説なのに音楽が聴こえるようだ」と話題を呼び、映画でも一流ピアニストの音×吹き替えなしで演奏演技に挑む役者陣という驚くべき手法で数々のシーンが浮かび上がっている。

今回は、原作者・恩田陸と、妻子を持ち楽器店に勤めながら、年齢制限最後のコンクールに挑む高島明石を演じた松坂桃李にインタビュー。原作者と俳優、それぞれの視点から見た同作の魅力や、表現者として向き合う"賞"について話を聞いた。

  • 映画『蜜蜂と遠雷』に出演する松坂桃李と、原作者の恩田陸

    左から松坂桃李、恩田陸 撮影:泉山美代子

■「かっこよすぎる」キャストも演技に納得

――先ほどお話を伺ったんですが、お二人は今日が初対面なんですね。恩田先生が撮影現場にいらしたときは、松坂さんの撮影がなかったとか。

松坂:この瞬間が初です。

恩田:お目にかかれて光栄でございます。

松坂:こちらこそ! よろしくお願いいたします。

――それでは、ぜひ松坂さんから見た原作の魅力と、恩田先生から見た映画の魅力をそれぞれ教えていただければ。

松坂:オファーをいただいて『蜜蜂と遠雷』を読んだんですが、今までは小説を読んでめくるたびに音が聴こえる感じを経験したがことがなかったので、すごい本だと思いました。これを映画化するなんて、可能なのか? と、衝撃でした(笑)。小説が本当に面白いからこそ、我々にとってはハードルが高いと思っちゃうんです。仮に上手に置き換えられたとしても「小説の内容のまま表現されてるじゃん!」と思われてしまうので、今回は「実写化するからこそできること」はなんなのか、ものすごく意義を迫られた感覚がありました。

恩田:よく映像化したなと思いました(笑)。私も「小説でなければできないことをやろう」と思って書いていたので、逆に皆さんが映画でしかできないことをやってくださったなと思って。映画として完成されていたので、嬉しかったです。

松坂:そういう言葉を聞くと、ほっとします。

恩田:松坂さんが、明石を演じると聞いて、「それはかっこよすぎるだろう」とは思っていたんですけど、映画を見たら本当に明石そのものでした。

松坂:いやいや、とんでもないです!

――原作で思い描いていた明石はどういうイメージだったんですか?

恩田:もうちょっと、普通の人です(笑)。でも、2次予選の後に松坂さんが1人でカメラに向かってしゃべっているシーンはすごくリアルで、驚きました。

松坂:実は、あのシーンが初日だったんですよ……。

恩田:初日だったんですか! みなさん、意外なシーンが初日なんですよね。いきなりあのシーンだとは……すごいですね。

松坂:とにかく、体の中にいろんな実感を入れるようにイメージして。すごく緊張しました。

――ちなみに、明石じゃない松坂さんを目の前にされた感想はいかがでしたか?

恩田:「やっぱりかっこいいわ!!」と思いました(笑)。

――松坂さんは、そういうかっこよさをどうやって封印されてたんでしょうか?

松坂:明石は他の3人に比べて、家族と過ごしたりと、生活を描写しているシーンが多かったので、そこはすごく大事にしたいなと思いました。たぶん、すごく不器用でめんどくさいやつだなと思ったんです。自分のことを天才とは思っていないけど、他人には言われたくない、という。

恩田:その通りです。

松坂:たとえば奥さんと少し口論になったシーンでも、明石のめんどくさい感じが出ている。すごく人間くさいけど、良いところでもあると思います。

恩田:そういう役を演じるのは、珍しいんじゃないですか?

松坂:そうなんです。これだけの不器用さと人間臭さを表す役はあまりやったことがなかったので、嬉しかったです。

恩田:本当に松坂さんはキラキラしたイメージだったので、地に足をついた感じが出ていて、びっくりしました。

松坂:嬉しいです。