日本マイクロソフトは2019年10月2日、新たに同社代表取締役社長に就任した吉田仁志氏、日本マイクロソフト 特別顧問 兼 Microsoft VP, One-Commercial Partner Group System Integrator Businessの平野拓也氏、Microsoft CVP, Asia President, Ralph Haupter(ラルフ・ハウプター)氏の3者による記者会見を開催した。

新社長の吉田氏は、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ、ノベル、SAS Institute Japan、日本ヒューレット・パッカードと、大手IT企業の経営者を歴任してきた人物である。吉田氏は「以前から(日本マイクロソフトのビジョンに)共感を持っていた。(Microsoftの)一員になったことにワクワクしている」と、社長就任に関する感想とともに「グローバルで世界一を目指したい」と抱負を述べた。

  • 平野拓也氏、吉田仁志氏、Ralph Haupter氏

    左から、日本マイクロソフト 特別顧問 平野拓也氏、日本マイクロソフト 代表取締役 社長 吉田仁志氏、Microsoft CVP Asia President, Ralph Haupter(ラルフ・ハウプター)氏

日本マイクロソフトがエンタープライズ色を年々強めつつあることは、本誌の記事でも触れてきた。昔の日本マイクロソフトは国内外の大手IT企業と競合してきたが、その路線は樋口氏(樋口泰行氏:2008年4月~2015年6月末の社長)から方向性を変え、平野氏(2015年7月~2019年8月末の社長)の体制に入ると、パートナーエコシステムでビジネスを推進することが通例となった。現在の日本マイクロソフトをクラウドベンダーとして成し得たMicrosoft Azureは、樋口体制だった2008年10月に開催したPDC(Professional Developer Conference)で発表したものだ(サービス開始は2010年1月)。

この頃から日本マイクロソフトのビジネスは、「Windows」「Office」の色合いが薄くなり、Microsoft Azureを基盤に収益を得るクラウドビジネスへと舵を切った。当初はAWS(Amazon Web Services)という競合存在もいたが、2020年度経営方針説明会では、平野氏が「社長就任4年間でMicrosoft Azureの売り上げが4倍以上に成長した。理由としては、多角的な市場需要と日本マイクロソフトのオファーリングが合致した」と述べている。

  • 平野拓也氏、吉田仁志氏、Ralph Haupter氏

その平野氏を継ぐ吉田氏、プレッシャーは少なくないと推察するが、Haupter氏と平野氏は次のように期待をかける。

「日本市場を深く理解し、ソフトウェアや業界の知識を持っている。組織作りでリーダーシップを発揮されてきた。パートナー(編注:日本ヒューレット・パッカード)出身の吉田は、日本マイクロソフトとパートナーの関係を強固にする」(Haupter氏)

「吉田氏はパートナーという立場で以前からお付き合いがある。独自のスタイルによって、市場の変革と日本社会に貢献する推進力を発揮してほしい」(平野氏)

その吉田氏も「クラウドはワールドワイドの戦略そのもの。平野氏の取り込みを加速させる。クラウドは、ITによって企業力を高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に絶好の方法だ。この点をアピールして、No.1クラウドベンダーを目指すのは当然」と語った。

  • 吉田仁志氏

日本マイクロソフトの経営方針は公表済みのため、吉田氏が新しい社長に就いたとはいっても、すぐに同社の色合いが変化することはない。だが、Microsoft Azureから始まったビジネススタイルを加速させるのは、吉田氏の発言にもあるとおりMicrosoftのグローバル戦略だ。

吉田氏を選任した理由としてMicrosoftは、「社内外の人材を考えたが、市場経験を踏まえてインパクトを残せる吉田氏を選んだ」(Haupter氏)と説明したことからも分かるように、パートナービジネスを加速させ、「Windowsのマイクロソフト」から「クラウドのマイクロソフト」へと一層その姿を変えていくのだろう。

阿久津良和(Cactus)