武者や神仏などを題材にした山車灯籠とともに「ラッセラー」の掛け声で跳人(はねと)が乱舞する、青森ねぶた祭。期間中約250万人が集まるお祭りを陰から支えているのが、NTT東日本の開発した「青森ねぶた位置情報サービス」だ。このICTを活用した取り組みはどのようにして生まれたのか、青森観光コンベンション協会に話を伺った。

ねぶた位置情報サービスとは?

「ねぶた位置情報サービス」は、8月2日から7日にかけて青森市中心街で行われる「青森ねぶた祭」の期間中、ねぶたの位置情報をリアルタイムで提供するサービスだ。Webページでの閲覧に対応しているほか、iOSやAndroid向けのアプリも用意されている。

ねぶたの題材や制作者、団体などの解説や、トイレやWi-Fiスポット、駐車場といった周辺施設情報も表示し、来場者の利便性向上を実現。英語、韓国語、中国語といった多言語への対応も行われており、訪日外国人観光客へのガイドとしても役立っている。ガイドブックなどにはQRコードも記載されており、スマホなどがあればすぐにサービスを利用できる仕組みだ。

  • 青森ねぶた位置情報閲覧サービス

観客にも運営にもメリットのあるサービス

青森観光コンベンション協会の関氏は、ねぶたにGPSトラッカーを取り付けて位置情報を提供するというアイデアは5年以上前より各社から提案を受けていたと話す。だが当時は通信速度やGPS精度、許容できるアクセス数などに限りがあり、実用性が未知数だったため、実用段階に進んでいなかったという。

「サービスを実用的なものにするためには、目の前にいるねぶたをどこまでリアルタイムで追えるかがポイントです。見たいと思ったねぶたが位置情報と同じ場所にいて、目の前にいるねぶたの詳細情報を知りたいと思ったときに閲覧できなくては意味がないですからね」(関氏)

  • 青森観光コンベンション協会 企画事業化 統轄課長 関一生氏

だが2018年、この状況に転機が訪れた。それがNTT東日本からの「費用は出資するので、実証実験をさせてほしい」という提案だ。NTT東日本がもつ知見や設備、技術が駆使され、「ねぶた位置情報サービス」が誕生。2018年夏の青森ねぶた祭から実際に提供が開始された。

このサービスは観光客の利便性向上のほか、青森ねぶた祭実行委員会の運行管理にも役立っているという。以前は現場の無線機のやり取りで運行管理を行っていたが、ねぶた位置情報サービスによって祭り全体の状況を俯瞰で把握できるようになったそうだ。どこの団体がどこの交差点を通過しているか、ねぶたが規定の管理場所に帰ったかどうかなどを詳しく知ることができ、緊急時の連絡もできるという。

「青森ねぶた祭は、東北の祭りのなかでも1番、一般の方が参加できるお祭りです。目当ての団体に跳人(はねと)として参加したいときにも役立つでしょう。実際、20~30代の若い方や海外の方の多くはアプリ版のねぶた位置情報サービスを利用しているようです。青森ねぶた祭に訪れた際には、ぜひ利用してみていただければと思います」(関氏)

2019年にはフォルテによって広告協賛やクラウドファンディングによる資金調達もスタートし、より安定した運用が行えるようになった。青森ねぶた祭は、国内外の観光客がよりわかりやすく参加しやすい祭りを目指し、ICTの活用による地方創生を進めている。

地方独自の文化をICTで伝える

青森ねぶた祭りの他にも、弘前城や八甲田の樹氷、八食センターなど国内外に知られる観光資源を豊富に持つ青森県。同県は今後も観光に力を入れ、観光客の誘致を進める狙いだ。

「青森ねぶた祭は我々地元の文化として残ってきたものですので、これを観光に役立てられるという意味では恵まれているのかなと思います。青森は四季がはっきりしており、山の幸、海の幸、農作物など美味しいものがなんでもある県です。インバウンドも増えており、国際線も続々と就航しています」(関氏)。

好調な兆しが見える中で、観光客を増やすための課題も多いと関氏は語る。

「宿泊施設のキャパシティや二次交通の面での課題があり、特に青森ねぶた祭りの期間は青森市内に宿が取れない方も多いようです。こういった課題に対して、ICTも活用しつつ、安心してお祭りを見ていただき、繰り返し訪れていただけるような環境を整備していきたいと思います」(関氏)。

観光立国としての道を歩み始めている日本。特色ある地方独自の文化は海外からの魅力も高く、これからもインバウンド需要には期待が持てるだろう。その一方で地方では過疎化が進み、観光客への対応やアピールが難しい面もある。青森県が行っているICTを活用した祭りの活性化と利便性向上は、そんな地方創生に悩む自治体にとって、貴重な事例のひとつになりそうだ。