インターネットの登場により、私たちの日々の暮らしはとても便利なものになった。パソコンやスマートフォンを通じ、いつでも好きな映画を見られるし、ボタン一つで地方の名産品を自宅に取り寄せられる。一昔前なら考えられなかった利便性を手に入れられているわけだが、その反面、インターネットによる恐怖にさらされるリスクも抱えている。
特にネットワーク環境の整備が進み、SNSの多様化が進んだ近年は、企業秘密や個人情報が漏えいするリスクが飛躍的に高まっており、誰しもがその当事者となる危険性を秘めている。そこで本稿では、ビジネスシーンで起きかねない以下の3つのトラブルがどのような悲劇を招くのか、法律事務所オーセンスの三津谷周平弁護士に解説してもらった。
(1): FB投稿用にオフィスで自撮りした写真に、公表前の決算報告書が写っていたが、それに気づかず写真を記事と一緒にFBに投稿してしまった
(2): 社外持ち出し禁止のデータを会社PCから持ち出し、自宅のPCで作業をしていたところ、ウイルスに感染してしまい社外秘の顧客データがインターネット上に流出してしまった
(3): お金欲しさに会社で管理していた数十万人の個人情報のうち、数百人分のデータを外部の業者に譲渡した
情報の漏洩が関係する法律とは
これらのケースで問題となる法律は、刑法、不正競争防止法、個人情報保護法等です。一つずつ具体的に見ていきましょう。
刑法
刑法上の刑事罰としては、窃盗罪や横領罪が問題になる可能性があります。例えば、顧客情報をUSBなどにコピーして持ち出したうえ、そのUSB自体を外部の業者に売ったような場合です。もっとも、(1)や(2)のケースでは、窃盗罪や横領罪は問題になることはありません。窃盗罪や横領罪は、「財物」を客体にしており、情報そのものは「財物」とは考えられていないからです。
一方で(3)のケースでは、上記の具体例に当てはまるような場合には、窃盗罪や横領罪が問題となります。ただし、メールやクラウドなどを利用して、情報を外部に流出させたような場合には、窃盗罪や横領罪にはあたらないと考えられています。
なお、窃盗罪の罰則は10年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法235条)、横領罪の罰則は5年以下の懲役(業務上横領にあたる場合は10年以下の懲役: 刑法252条、253条)です。
不正競争防止法
不正競争防止法は「営業秘密」に該当する情報を保護の対象としています。そして、不正の利益を得る目的や会社に損害を与える目的で、この「営業秘密」に該当する情報を漏えいさせた場合に、不正競争防止法違反が問題となります。
この営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」(不正競争防止法2条6項)とされます。例えば、社内限りの顧客名簿やマニュアル等がこれに該当します。
(3)のケースでは、不正競争防止法違反に問われる可能性があります。この営業秘密に関して、不正競争防止法に違反した場合の罰則は、10年以下の懲役若しくは2,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(不正競争防止法21条1項)と定められています。
なお、詳細は割愛しますが、不正競争防止法違反が問題となった事例で、顧客情報約2,989万件を会社から持出し、そのうち1,000万件余りの顧客情報を名簿業者に渡したという事例で、懲役2年6月及び罰金300万円の刑が科されたものがあります(東京高裁判決平成29年3月21日)。
個人情報保護法
個人情報保護法においては、「個人情報取扱事業者若しくはその従業者又はこれらであった者が、その業務に関して取り扱った個人情報データベース等を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したとき」を処罰の対象としています(個人情報保護法83条)。
これは、一般的に、「個人情報データベース等不正提供罪」といわれており、これらの罪にあたる場合の罰則は、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」と定められています。
(1)のケースでは同罪が問題となることはないと考えられますが、(2)のケースでは情報を盗んだ側が、同罪に問われる可能性があります。(3)のケースでも、同法違反にあたる場合が考えられます。
なお、会社の従業員が個人情報データベース等不正提供罪違反を行った場合、従業員の他、会社に対しても罰金刑が科されることには注意が必要です(個人情報保護法87条1項)。
※写真と本文は関係ありません
取材協力:三津谷周平(みつや しゅうへい)
弁護士(大阪弁護士会所属)。東京、神奈川、千葉、大阪に拠点を置く、弁護士法人法律事務所オーセンスにて勤務。近畿地方初の拠点となる大阪オフィス支店長として抜擢。得意とする不動産・相続問題のみならず、一般民事から企業法務まで積極的に取り組んでいる。
一般企業(信託会社)での勤務経験もあり、体力、忍耐力、コミュニケーション能力は抜群。セミナー・講演も好評となっている。