22日に放送されたNHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)の第36回に胸が熱くなった! 前回に続き、ベルリンオリンピックの放送回で、上白石萌歌演じる前畑秀子選手が、ついに平泳ぎで日本人女性初の金メダルを手にしたのだ。トータス松本演じるNHKのスポーツアナウンサー・河西三省の名実況「前畑、頑張れ!」でも知られているところだ。
「神様!」と祈るような想いでレースに臨んだ前畑。河西アナだけではなく、田畑政治(阿部サダヲ)や金栗四三(中村勘九郎)という主役2人をはじめ、チーム『いだてん』のメンバーが多数出演し、大勢で「頑張れ! 頑張れ!」と前畑に大声援を送るという、まさに宮藤官九郎脚本の真骨頂といえる名シーンとなった。ここに至るまでの前畑の葛藤を見てきただけに、視聴者も共にエールを送っていたに違いない。この回の撮影秘話を、上白石萌歌に聞いた。
――今回、体重を7キロも増量してアスリートの体型を作り、前畑秀子になりきった上白石さんは、オリンピックのシーンもすばらしかったです。河西アナによる「前畑、頑張れ!」の名実況は、いまも記録に残っていますが、前もって聞いたりされましたか?
前畑秀子さん役が決まってから、最初は当時の映像をYouTubeで見ていましたが、前畑さんが和歌山県の橋本に住んでいらっしゃった方だと知って、現地にも行ってみました。橋本市に前畑秀子資料展示館があり、当時を記録したレコードもそのまま残っていたので、それを聞かせていただきました。
――オリンピックに出場する選手たちは、精神的にも肉体的にも相当追い込まれるんだと、『いだてん』を観て、改めて思い知らされました。今回、田畑さんが選手にプレッシャーをかけないようにと、河西アナに「『頑張れ!』と言っちゃダメだ」と念を押すシーンもありましたが。
私は「頑張れ」という言葉を、プラスにしか受け取ったことがありませんでした。でも、今回『いだてん』で描かれている前畑さんは「頑張れ」しか言われない時期があり、「頑張れの他に何かないの?」と言う台詞もありました。そこで、「頑張れ」という応援の言葉もマイナスに変わってしまうくらい彼女が追い詰められ、「それしか言えないのか」という怒りも感じていたんだと、初めて知りました。
ただ、河西さんがロサンゼルスで実感放送しかできなかったので、4年後はちゃんと実況放送できるように頑張ります」とおっしゃっていたのに、4年後のベルリンでは『頑張れ!』しか言えなくて。それは、日本中が秀子の泳ぎを見て、一瞬も目を離さず応援したいという気持ちがそのまま声になっていた気がするので、それはそれで素敵だなと思いました。
――ロサンゼルスオリンピックで銀メダル、そしてベルリンオリンピックで悲願の金メダルに輝いた前畑選手。やはりロサンゼルスの時とでは、思いの強さは違いましたか?
オリンピックのシーンは2つともまとめて5日間くらい掛けて愛知県ロケで撮りましたが、私たち演者のいる場所や時間は変わらなくても、やっぱりそれぞれの大会に対する思いは格段に違ったと思います。ロサンゼルスで銀メダルだった時、「なんで金メダルを獲らなかったのか」という思いがけない言葉を浴びせられ、秀子はすごく悔しい思いをしたと思うので。
秀子自身は、銀メダルでもすごく満足をしていて、そのあとは普通の女性に戻り、嫁ぐつもりでした。そういう自分の結婚願望を一旦捨てて、4年間、血のにじむような思いで練習をしてから臨んだベルリンだったので、相当の思いがあったと思います。
――「前畑、頑張れ!」のものすごい声援を受けた感想を聞かせてください。
日本人の選手団のみんなが、声を1日で枯らしてしまうくらい、一生懸命、応援してくれました。泳いでいる最中でも、顔を上げた時、一気にその声が耳に入ってくるので、本当に心強かったです。「前畑、頑張れ!」という言葉が有名だと思いますが、その言葉を、日本から浴びるように受け取っていた彼女は、もちろんプレッシャーにも感じていたと思いますが、やはり日本中から届く電報や生の声は、そのまま彼女の活力にもなっていたと思います。
――前畑選手を演じてみて、スポーツ選手を見る目は変わりましたか?
昔からオリンピックの選手たちのドキュメンタリーがテレビで流れているとよく観ていましたが、なおさら選手たちの大会に向けてのプロセスを知りたいと思うようになりました。
私は最近、パラリンピックに関連するお仕事をさせていただいて、パラリンピックの水泳選手の方のドキュメンタリーを観た時、すごく感動しました。普通の水泳選手以上に、特別な訓練を重ねないとできない競技なので、もっと知りたいという好奇心がどんどん強まっています。
上白石萌歌(かみしらいし・もか)
2000年2月28日生まれ、鹿児島県出身。2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞。雑誌「ピチレモン」の専属モデルを経て、2012年に女優デビュー。主な映画出演作に『ハルチカ』(17)、『未来のミライ』(声の出演)(18)、『3D彼女 リアルガール』(18)などがあり、『羊と鋼の森』(18)では第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。ドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(19)でも水泳の選手役を演じた。
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