ドイツ・ベルリンで毎年9月に開催される世界最大級のエレクトロニクスショー「IFA」には、3年前から世界各国のスタートアップや最先端のIT企業が集まる「IFA NEXT」という特設展示が加わりました。2019年は初めて「IFA NEXTグローバル・イノベーション・パートナー」というプログラムも始まり、特定の国・地域をハイライトしています。
その初代パートナーとして日本が選出。IFA NEXT会場の入り口には「ジャパン・パビリオン」が華々しく構えられ、約20の出展者が最先端の製品やサービス、テクノロジーを展示していました。
IFA 2019会期中の9月7日には、IFA NEXTの会場で経産省の西山圭太氏とメッセ・ベルリン IFA統括本部長のイエンズ・ハイテッカー氏によるトークセッションが催されました。西山氏は、ジャパン・パビリオンの出展に共通するコンセプトが「新しい時代のヒューマンインタフェース改革」であるとします。
「最近は日本国外から多くの方々が日本に足を運んでくださいます。日本の伝統文化、景色や食文化が、皆さまを惹き付けているのだと確信しています。日本が得意とする“おもてなし”の心から生まれる人とのコミュニケーションなど、広義のインタフェースに宿る“日本らしさ”に、海外の方々が注目されているのではないでしょうか。
おもてなしの心を最先端の技術と融合させることによって、これから日本らしい次世代のインタフェースを提案できると期待しています。そしてオープンで活力に満ちた日本の姿を、IFA NEXTに集まる来場者の皆さまにお見せしたいと思っています」(西山氏)
西山氏の言葉を受けたメッセ・ベルリンのハイテッカー氏も、「日本とドイツのテクノロジーは、ていねいに細部までこだわる感性に共通点があると考えます。IFA NEXTに、こうして日本の意欲的なスタートアップを数多く迎えられてとてもうれしく、また誇りに思っています」と答えました。
ジャパン・パビリオンの展示エリアは、Move、Communicate、Sense、Careという4つのテーマに分かれ、20社のブースが並びます。筆者が注目したいくつかの展示を紹介しましょう。
木材とデジタル、温かみある融合
京都に本社を構えるNISSHAの社内ベンチャー制度からスタートしたmui Lab(ムイラボ)は、一見すると普通の角材のように見える本体に触れると、LED照明が文字やアイコンで情報を表示するコミュニケーションツール「mui」を出展していました。
muiとともに注目を集めていた製品は、4月にイタリア・ミラノで開催されたミラノサローネにも出展した、こちらも木材を活用したアーティスティックなコミュニケーションツールの「柱の記憶」です。ワコムとの共同開発により、アクティブES方式のデジタルペンで「柱」になぞった文字や図形をデータとしてクラウドに保存して、任意に呼び出せます。例えば柱に子どもの身長をマークして、成長の記録として振り返るという温かみあふれる提案がドイツの来場者を和ませていました。
次世代ドローンは有人機も?
次世代のドローン向けアーキテクチャを開発するエアロネクストは、独自の重心制御技術「4D Gravity」を出展していました。ドローンの飛行部と、カメラや荷物を搭載する部分を物理的に切り離して、機体を貫通させたジンバルで結合するという構造です。
エアロネクストは、産業用ドローン向けに研究開発した独自技術のライセンシング提供をビジネスの柱に据えています。「4D Gravityの技術は将来、人が乗る空飛ぶドローンにも応用できて、コックピットへのスムーズな乗り込みを可能にしたり、複数の人が対面で乗れるドローンの開発を実現できる可能性があります」と、エアロネクスト代表取締役CEOの田路圭輔氏が説明してくれました。
「ビールが足りないよ」「お一人さまを満喫」
Shiftall(シフトオール)は、現在開発を進めるふたつのイノベーティブな製品をIFA NEXTに出展。そのひとつ「DrinkShift」は、2019年のCESでも話題を呼んだ、ビールなどの飲み物を自動補充するスマート冷蔵庫です。スマホアプリと連携して通信する冷蔵庫は、庫内に12本のビンを保管して一度に冷やせます。
ビンが減ると内蔵するセンサーが検知し、残数がリアルタイムにカウントされます。ビンの所在が把握できるだけでなく、利用者がビールを消費するペースを学習して、“在庫がなくなりそう”なタイミングでECサイトに自動注文してくれるという、気の利く冷蔵庫です。
代表取締役CEOの岩佐琢磨氏が「ビール好きなドイツの方々からは、このサイズじゃ足りないからもっと大きなものを欲しいという熱いリクエストをいただきました(笑)」と、うれしそうに話してくれた姿が印象的でした。IFA NEXT出展の反響はとても良かったそうです。
もうひとつ、筆者が発売を心待ちにしている「Wear Space」も、完成に向けて着々と進化していました。ShiftallとパナソニックのFuture Life Factoryが共同で開発を進めている、“集中力を高める”ことを目的としたウェアラブル端末です。ノイズキャンセリングヘッドホンを備えた本体は、周囲との視界も遮って“お一人さま”を満喫できる独特のコンセプトが特徴です。
Wear Spaceは2018年12月にクラウドファンディングの目標金額を達成して、当初は2019年8月に支援者へのデリバリーが始まる予定でした。しかし、音質評価や量産部材の調達に時間がかかっているため、スケジュールにやや遅延が発生しているそうです。岩佐氏は「プロジェクトの開発は順調に進んでいます。支援していただいた皆さまのご期待に応える製品をお届けしたいと思っていますので、もう少しだけお待ちください」と話していました。
おしっこ予測
トリプル・ダブリュー・ジャパンは、体に身に着けると排尿のタイミングが予測できるという、介護支援用ウェアラブルデバイス「Dfree」を商品化。2018年のIFA NEXTに続いてブースに展示しました。
現在はフランスにも拠点を構え、欧州でのサービス展開を積極に展開しています。Dfreeも日本に続いて海外展開が始まり、フィードバックを得て色々な改良が加えられていました。ブースには新規開発のアクセサリーとして、体の正確な位置にデバイスを固定したまま身に着けられる簡易サポーターが並んでいました。
そのほかのジャパン・パビリオンをダイジェストで
IFA 2019、日本企業は元気だった
ジャパン・パビリオンの外にも目を向けると、単独で革新的な技術と製品を出展している日本の企業が。
IFA NEXTには2018年に続いて2度目の出展になるエレマテックは、2019年は「脳波メガネ」という愛称を付けた、人の感情を認識できるユニークなヒューマンインタフェースを置いていました。
脳波メガネの本体は、写真で見るとメガネのテンプル位置に装着されているデバイスです。様々なタイプのメガネに装着できて、アームが伸びた先に搭載するセンサーを額に当てて脳波を計測します。脳波データはクラウドに送られ、蓄積された脳波データベースとマッチングさせて“人の感情”を読み取るという仕組みです・
エレマテックのスタッフは、「エレマテックとしてはシステムを提案して、採用いただいたメーカーが自由にサービスを作り込めるようサポートしていきたい」と、ビジネスのイメージを語ってくれました。描く先の展開には、例えば医療分野のリラグゼーションや、機器を操作する入力インタフェースなどが考えられます。今回出展していた脳波メガネは、1年後に量産を開始できるように開発を進めているとのことで、IFA NEXTでの反響も良かったそうです。
クリエイティブテクノロジーは自社ブランドのアタライナから、新製品のポータブル空気清浄機「OiSHi(オイシイ)」をIFAのブースに展示。本体に内蔵するファンでユーザーの周囲から空気を吸い込み、同社が得意とする静電気の制御技術を活用して空気中に浮かぶ微細なアレル物質や化学物質を取り除きます。空気がはき出されるノズル側にはアロマカプセルを装着して、様々なフレーバーが楽しめるリラグゼーションアイテムとしても魅力を訴求していました。
IFAを長年取材してきた筆者は、2019年の会場に本当に数多く日本の出展者が集まっていたことをとても感慨深く思いました。日本が誇る最先端テクノロジーが、2020年もベルリンからいくつも羽ばたいていくことを期待します。