小説家・太宰治の遺作にして傑作である『人間失格』の誕生秘話を、小栗旬演じる太宰治を通して描いた、蜷川実花監督の最新作『人間失格 太宰治と3人の女たち』(9月13日公開)。太宰を愛した3人の女たち(宮沢りえ・沢尻エリカ・二階堂ふみ)の目線から、事実をもとにしたフィクションとして映画化された。
今回は主演の小栗と、太宰を支えた編集者・佐倉を演じた成田凌にインタビュー。天才作家でありながら、酒と恋に溺れた自堕落な生活を送り、自殺未遂を繰り返した果てに、愛人と川に身を投げる……という太宰と、彼を軽蔑しながらも圧倒的な才能を尊敬せずにはいられなかった佐倉を演じた2人に、作品や互いの印象について聞いた。
■「お前を犬だと思ってる」
――今回、太宰治とその編集者という役で共演されて、ぜひお互いの印象について教えてください。
小栗:成田くんの印象かあ。
成田:小栗さんからいただいたのは、「俺はお前を犬だと思ってる。ゴールデン・レトリバー」という言葉でした。
小栗:成田くん、ゴールデン・レトリバーに似てませんか? ちょっと犬っぽい顔してるでしょう? なんかそんな感じ(笑)。キャラクターも、ちょっと犬っぽいかもしれない。明るく元気な、気持ちのいい青年です。
――「犬だと思ってる」と言われたとき、どういう感想を抱いたんですか?
成田:腑に落ちてしまいましたね(笑)。
小栗:いつもそうなんでしょ?
成田:同い年の間宮祥太朗からは「人類の末っ子だな」と言われました。嬉しくもなんともないけど、そうなのかな? とは(笑)。でも、小栗さんには特に甘えてしまうかもしれないです。甘えさせる隙を見せてくれる。例えばこういうところ(腕の下の空間)に、行きたくなっちゃいます。『人間失格 太宰治と3人の女たち』でも、目を見て、顔がくっつくんじゃないかというくらいの距離でお芝居をしたんですけど、「ここに飛び込めばいいんだな」「絶対に大丈夫」という信頼と安心感がありました。
――小栗さんは、役者としての成田さんにはどのような印象を持ったんですか?
小栗:不安定な感じがいいんじゃないかな、と思います。他の作品も、溶け込み方が優れている。色々な顔を持ってますよね。
――今回、太宰が色々な女性と接していく役ですが、成田さんもそういう役を演じられることが多いのかなと思いました。
小栗:そうですよね(笑)。ダメ男みたいな役。
成田:基本的に、ダメ男役なんですよね。
小栗:『愛がなんだ』もすごく評判が良いよね。スタッフの女性から「『愛がなんだ』を観ました」という言葉をよく聞く。
成田:『人間失格 太宰治と3人の女たち』と『愛がなんだ』は通じるところもあって、今回、二階堂ふみさん演じる富栄ちゃんが「どんな関係でもいいから近くにいたい」ということを言っていたので、どきっとしました。「もう、兄妹に生まれ変わってもいい」みたいな。愛の形にもいろいろありますもんね。
――成田さんは、今回小栗さんと対峙して何か影響を受けた部分はあったんですか?
成田:太宰は出てくる方に対しての接し方が全く違うので、「それでいいんだな」と思いました。今までは結構硬い頭で考えていて、1人の人間を演じるなら、周囲のどの人ともブレない感じで向き合おうと思っていたんです。でも、そうでなくてもいいんだ、と思いました。
――小栗さんはまた大変な役だったと思いますが、楽しかったでしょうか? それとも辛かったでしょうか?
小栗:楽しい半分しんどい半分でした。色々な人を裏切っている生活で、その罪悪感がない人ではないんです。役を通して、そういうものがどんどん彼の中に蓄積していく生活をするのは、しんどいことでもありました。
■本当にきついときに、嘘のような顔をする
――印象的なセリフも多かったですが、お二人の心に残っているものはありますか?
成田:佐倉から太宰への「心の底から軽蔑します」。
小栗:なかなか、言うことないよね。いいセリフ。
成田:本当に尊敬している人に言うんだけど、それでもまだ愛し続ける、みたいな。両極端な感情を持って接していたけど、結果、太宰の才能が全てを上回ってしまう。
小栗:太宰の衝撃的なセリフで言うと、富栄への「大丈夫、君は僕が好きだよ」。あれはすごい。
成田:しかも、タバコ吸いながらキスしている状況ですからね。
小栗:けっこう乱暴なセリフだなと思いますけど、それが言えるのがすごいですよね。
――今作の中で、妻子に他の女性との関係を見られてしまうシーンの、小栗さんの表情がすごく心に残っていて。初めて見るような、「こんな表情をするんだ」と驚くシーンだったんですが、何か意識をされてはいたんですか?
小栗:これまで人生を生きてきた中で、人に見られたくないものを見られたり、他者と喧嘩したりとかする時って、滑稽な顔をしていることが多いんじゃないかと思ったので、今回はそこを考えてはいました。「本当にきつい瞬間に出る表情として、意外と、嘘のような顔をする」と考えて、太宰のキャラクターに反映させたので、そういう意味では意識していたのかもしれないです。
――太宰のシリアスなシーンは、どこか滑稽な部分もあって、満員の試写室でも笑いが起こっていました。
小栗:笑えますよね。みんな一生懸命だから、逆に笑えてきちゃう。太宰治という人も、自分のことを道化みたいな言い方しているけど、実際に残っている資料から、「明るくユーモアのある人だったんだろうな」と思うので、そういう人に写ったらいいなと考えていました。
――成田さん演じる佐倉を見ていると、「また成田さんのちょっとバイオレンスなシーンが」という場面もありましたが、複雑なシーンだなと思いまして。佐倉の心境をどうとらえられていたんでしょうか?
小栗:そんなにあるの?(笑)
成田:そんなにありますか!?(笑) なかなか難しい行動で。相手を好きな気持ちと同時に「なんでわからないんだ」という苛立ちもある。言葉にするのは難しいですけど、死を散らつかせる人たちを目の前にして、あちらもこちらも守りたいという気持ちが暴走してしまったのかな。ずっと近くにいて、尊敬も軽蔑もしてる人に振り回され、でも「彼らを守る人は僕しかいないんだ」くらいの責任感もあるのかもしれない。たまりたまって、激しい行動に出てしまったんでしょうね。
――今回蜷川実花さんとのタッグでしたが、蜷川幸雄さんとお仕事をされていた小栗さんにとってはどのような存在の作品になりましたか?
小栗:実花さんともよく話すことですけど、蜷川(幸雄)さんに育ててもらった藤原竜也と自分が、同じ年に互いに蜷川監督作品で主演やるということには、非常に運命的なものを感じます。改めて実花さんと仕事ができるのもすごく光栄なことだなと思いました。実花さんご本人にも、すごく”イズム”は感じます。もちろん全然違うお二人ではあるんですけど、場の作り方とか似ているところがあって、物腰の柔らかい蜷川さんという感じ。
――成田さんは、蜷川実花さんとご一緒されての印象は。
成田:写真の現場からのご縁で、今回映像で初めてご一緒したんですけど、全然変わらなかったです。華やかで、気持ちのいい現場を作ってくださる。世間話風に話ながらも、「このシーンは~」と演出が入ってくるやり方だったりして。いろんな気持ちをわかってくださる監督なんだなと思いました。
■小栗旬
1982年12月26日生まれ。東京都出身。近年の主な出演映画作品に『信長協奏曲』『ミュージアム』(16年)、『追憶』『銀魂』『君の膵臓をたべたい』(17年)、『銀魂2 掟は破るためにこそある』『響-HIBIKI-』(18年)、『Diner ダイナー』『天気の子』(19年)、『罪の声』ハリウッド版『ゴジラVSコング(邦題未定、原題GODZILLA VS. KONG)』(20年日本公開)。 ヘアメイク:KIMURA CHIKA(tsujimanagement)、スタイリスト:臼井崇(THYMON Inc.)
■成田凌
1993年11月22日生まれ。埼玉県出身。“MEN'S NON-NO専属モデル。主な出演作に、『キセキ‐あの日のソビト‐』(17年)、『劇場版コード・ブルー‐ドクターヘリ緊急救命‐』『スマホを落としただけなのに』(18年)、『チワワちゃん』『愛がなんだ』『さよならくちびる』(19年)など。待機作に『カツベン!』(12月13日公開)、『窮鼠はチーズの夢を見る』『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(20年公開)など。 ヘアメイク:宮本愛(yosine.)、スタイリスト:伊藤省吾(sitor)